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番外編
新婚旅行へ行こう 1
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ひなこは、広いキャンパスを正門に向かって歩いていた。
今日は受講している授業が早く終わったため、家でゆっくりする予定だった。
まだ午後の早い時間のため、穏やかな日差しが気持ちいい。
行き交う学生達は一様に表情が明るく、見ているだけで楽しい気分になってくる。
伝統はあるけれどアットホームな校風。家から通えるし、やっぱりこの大学を選んでよかったと思う。
スマートフォンを確認すると、優香からの連絡があった。明日会おうというお誘いだ。
大学生になって、同じ科に親しい生徒も何人かいるが、やはり優香以上の友人はいないと思う。今も頻繁に連絡を取り合っているし、週に二、三度は会っていた。
「有賀さん!」
校舎を離れてしばらくすると、誰かに呼び止められた。
夕食の献立を考えながら歩いていたため、何度目かでようやく気付けたようだ。
「ごめんなさい! えっと……」
相手が息を切らしていたので慌てて謝ったのだが、どうにも見覚えがないため名前が出てこない。
「あ、オレ島田っていうんだ。よろしく」
膝に手を付いていた青年が顔を上げた。
明るく人懐っこい笑顔につられ、ひなこも笑みを返す。
「初めまして、有賀ひなこです。よろしくお願いします」
島田と名乗った青年の顔には、やはり覚えがない。栄養学部には学科が一つしかないため、ほとんどが顔見知りなのだが。
「有賀さんからすれば初めましてかもしんないけど、オレは何度も見かけてるんだ。栄養士科だよね? 実はオレも、何度か受講してるんだ」
「あ。もしかして他学部の方ですか?」
「そう。オレ、経済学部」
管理栄養士になるためには国家資格の試験がある。
ひなこが通う大学には他学部受講制度があり、他の学部の生徒でも受講料なしで自由に学べるようになっている。
所属する学部の基準によって卒業所要単位としても認定されるため、他学部の講義を受ける生徒も多かった。
「オレ、公務員を目指してるんだけど、栄養士にも興味あって色々受講してるんだ。病院とかで働いて誰かを助けるのもいいよな、って思ってさ」
「そうなんだ。どっちもしっかり勉強するのは大変なのに、すごいね」
オシャレで今どき風な服装をしている島田に若干気後れしていたものの、警戒心を抱かせない笑みに肩の力が抜けていく。人の役に立ちたいという志にも共感できた。
「ところでさ」
島田はわざとらしく咳払いをした。
「実は今度、経済学科と栄養士科で合コンがあるんだけど、有賀さん、参加しない?」
「ご、合コン…………」
大学生になって二ヶ月ほど経ったが、特にサークルにも所属していないので合コンのお誘いは初めてだった。
何だか大学生っぽい、とおかしな実感がわき上がる。
黙り込んでしまったひなこの反応の悪さに、島田は慌てて付け加えた。
「合コンっていっても気軽な飲み会みたいなもんだよ。人数も男女でバラバラになるかもしれないし。ただオレ、その、前から有賀さんとゆっくり話してみたいって思ってたんだよね。みんなだって喜ぶと思うんだ」
「はぁ……」
流行に疎いし面白いことも言えないし、自分が盛り上げ要員になれるとは思えないのだが、話してみたいという気持ちは嬉しい。
だがひなこには、どうしても参加できない理由があった。
「えっと、合コンって、一応男女の出会いの場でしょ? 私は、駄目かなって」
「え。――――カレシ、いるの?」
やたら悲壮感漂う顔で島田が呟いた。何だか声も表情もしぼんでいるような。
ひなこは少し首を傾げながら答えた。
「あの、カレシというか……」
「カレシいないの!? じゃあフリー!?」
島田が俄然元気を取り戻した。
勢いのままぐっと顔を近付けられて、反射的にのけ反る。
よく表情の変わる人だなぁと感心しつつ、ひなこは首を振った。
「というか、その、結婚してるの」
「……………………け、っこん、」
返事が来るまであまりに長い間が空いたことなど、にへらと締まりのない笑みを浮かべるひなこは気付かなかった。
この手の話を聞いてくる友達が少ないため、つい惚気てしまう。
「四月の誕生日に、付き合ってた人と入籍したの。指輪ももらってるんだけどね、あまりに分不相応で、怖くて付けられなくて」
当初はひなこが大学を卒業してからの入籍を考えていたのだが、待ちきれなかった恋人は時期を大幅に早めた。
プロポーズされた時のことは、まだ鮮明に思い出せる。
二人きりのお出掛け――いわゆるデートというものをしていた時、貸しきりの高級そうなレストランで指輪を渡されたのだ。
雪人から贈られたのは、芸能人の婚約会見でよく見る有名なブランドの指輪だった。
燦然と輝くダイヤモンドがあまりに美しく、ずっしりと重く、ひなこはしばらく口が利けなくなった。
ダイヤモンドの質にもよるが、七桁から八桁はくだらないと聞いたことがあるような。雪人はこんな高価なものをひなこが身に付けると本気で思ったのだろうかと、当時目眩がしたものだ。
正直、震えが止まらなくなって感動に浸る暇もなかった。今思い出しても、甘い幸福感と同時に動悸が酷くなるほどだ。
とはいえ、雪人が自分のために選んでくれたものを突き返すことはできない。
ひなこは悩み抜いた末、それなりに高価な金庫を購入した。現在、指輪はそこで厳重に保管されている。
まさか、恋人から贈られた指輪のために出費する羽目になるとは思わなかった。
「でも、すごく嬉しかったんだ。愛されてるって実感できた。指輪は付けられなくても、あの時の思い出だけで胸がいっぱいなの」
幸せがにじみ出ているような笑みを見せつけられ、島田がとっくに撃沈していることになど、ひなこはやっぱり気付かなかった。
さすがに惚気すぎたかと我に返ると、なぜか彼は同じ表情のまま固まっていた。
顔の前でヒラヒラと手をかざしても動かない。第一印象通り変わった人だ。
ひなこは深々と頭を下げて、声を掛けてくれたことに礼を言った。
「島田君、誘ってくれてどうもありがとう。今度またゆっくりお話しようね」
最後まで動かない変わり者の島田に、ひなこは別れを告げた。
◇ ◆ ◇
まだ誰も帰っていないはずだったのに、家に帰り着くと玄関には靴があった。
ひなこは驚き、慌ててリビングに向かう。
「雪人さん!?」
「――おかえりなさい、ひなこさん」
温かな笑顔で迎えてくれたのは、大好きな雪人だった。
リビングに入った途端、待ちきれないとばかり直ぐ様広い胸に抱き締められる。
まだひなこが二十歳未満ということで、雪人は唇にキスさえしない。それだけ大事にされていることを嬉しいと思う反面、我慢させてしまっている申し訳なさがあった。
自制してくれている彼のためにも安心しきっていてはいけないと思い、ひなこからは普段、あまり触れないようにしていた。
それなのに雪人は、こちらの気遣いも飛び越えて抱き締めてくれるから、溢れる愛に溺れそうな心地だった。
「今日は早く講義が終わるって聞いていたから、急いで仕事を終わらせたんだ」
嬉しそうな声を聞く限り他意はないのだろうが、呼気が耳をなぞってどうにもくすぐったかった。
ひなこは雪人の背中を叩く。
「雪人さん、苦しいです」
「あぁ、ごめんね」
口では謝っているものの、僅かに力を緩められただけなので離れられない。今きっと彼の視界は、真っ赤になったひなこでいっぱいだろう。
恥ずかしさを紛らせたくて口を開く。
「そんなことで、わざわざ早く帰ってきたんですか?」
「大事なことだよ。子ども達がいれば、こんなこともできないしね」
「ゆ、雪人さん」
こめかみに口付けされ、それ以上何も言えなくなってしまった。
ひなこの反応に満足げに笑いながら、雪人は頬や耳にも存分にキスの雨を降らせた。
三十分ほど経ち、ひなこはようやくソファに腰を落ち着けることができた。
顔と言わず全身が真っ赤で、雪人と目を合わせることさえできない。
「そんなに恥ずかしがらなくても。僕達夫婦なんだし」
「だ、だからって、首とか、それに、」
「うん。もう少し下ならアウトかなって思って、これでも我慢したんだよ?」
「とっくにアウトです!」
羞恥に悶えるひなこを、雪人はしばらく愛おしげに眺める。
じっくり堪能したところで彼が放ったのは、あまりに唐突な言葉だった。
「――ところでひなこさん、新婚旅行に行かない?」
今日は受講している授業が早く終わったため、家でゆっくりする予定だった。
まだ午後の早い時間のため、穏やかな日差しが気持ちいい。
行き交う学生達は一様に表情が明るく、見ているだけで楽しい気分になってくる。
伝統はあるけれどアットホームな校風。家から通えるし、やっぱりこの大学を選んでよかったと思う。
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大学生になって、同じ科に親しい生徒も何人かいるが、やはり優香以上の友人はいないと思う。今も頻繁に連絡を取り合っているし、週に二、三度は会っていた。
「有賀さん!」
校舎を離れてしばらくすると、誰かに呼び止められた。
夕食の献立を考えながら歩いていたため、何度目かでようやく気付けたようだ。
「ごめんなさい! えっと……」
相手が息を切らしていたので慌てて謝ったのだが、どうにも見覚えがないため名前が出てこない。
「あ、オレ島田っていうんだ。よろしく」
膝に手を付いていた青年が顔を上げた。
明るく人懐っこい笑顔につられ、ひなこも笑みを返す。
「初めまして、有賀ひなこです。よろしくお願いします」
島田と名乗った青年の顔には、やはり覚えがない。栄養学部には学科が一つしかないため、ほとんどが顔見知りなのだが。
「有賀さんからすれば初めましてかもしんないけど、オレは何度も見かけてるんだ。栄養士科だよね? 実はオレも、何度か受講してるんだ」
「あ。もしかして他学部の方ですか?」
「そう。オレ、経済学部」
管理栄養士になるためには国家資格の試験がある。
ひなこが通う大学には他学部受講制度があり、他の学部の生徒でも受講料なしで自由に学べるようになっている。
所属する学部の基準によって卒業所要単位としても認定されるため、他学部の講義を受ける生徒も多かった。
「オレ、公務員を目指してるんだけど、栄養士にも興味あって色々受講してるんだ。病院とかで働いて誰かを助けるのもいいよな、って思ってさ」
「そうなんだ。どっちもしっかり勉強するのは大変なのに、すごいね」
オシャレで今どき風な服装をしている島田に若干気後れしていたものの、警戒心を抱かせない笑みに肩の力が抜けていく。人の役に立ちたいという志にも共感できた。
「ところでさ」
島田はわざとらしく咳払いをした。
「実は今度、経済学科と栄養士科で合コンがあるんだけど、有賀さん、参加しない?」
「ご、合コン…………」
大学生になって二ヶ月ほど経ったが、特にサークルにも所属していないので合コンのお誘いは初めてだった。
何だか大学生っぽい、とおかしな実感がわき上がる。
黙り込んでしまったひなこの反応の悪さに、島田は慌てて付け加えた。
「合コンっていっても気軽な飲み会みたいなもんだよ。人数も男女でバラバラになるかもしれないし。ただオレ、その、前から有賀さんとゆっくり話してみたいって思ってたんだよね。みんなだって喜ぶと思うんだ」
「はぁ……」
流行に疎いし面白いことも言えないし、自分が盛り上げ要員になれるとは思えないのだが、話してみたいという気持ちは嬉しい。
だがひなこには、どうしても参加できない理由があった。
「えっと、合コンって、一応男女の出会いの場でしょ? 私は、駄目かなって」
「え。――――カレシ、いるの?」
やたら悲壮感漂う顔で島田が呟いた。何だか声も表情もしぼんでいるような。
ひなこは少し首を傾げながら答えた。
「あの、カレシというか……」
「カレシいないの!? じゃあフリー!?」
島田が俄然元気を取り戻した。
勢いのままぐっと顔を近付けられて、反射的にのけ反る。
よく表情の変わる人だなぁと感心しつつ、ひなこは首を振った。
「というか、その、結婚してるの」
「……………………け、っこん、」
返事が来るまであまりに長い間が空いたことなど、にへらと締まりのない笑みを浮かべるひなこは気付かなかった。
この手の話を聞いてくる友達が少ないため、つい惚気てしまう。
「四月の誕生日に、付き合ってた人と入籍したの。指輪ももらってるんだけどね、あまりに分不相応で、怖くて付けられなくて」
当初はひなこが大学を卒業してからの入籍を考えていたのだが、待ちきれなかった恋人は時期を大幅に早めた。
プロポーズされた時のことは、まだ鮮明に思い出せる。
二人きりのお出掛け――いわゆるデートというものをしていた時、貸しきりの高級そうなレストランで指輪を渡されたのだ。
雪人から贈られたのは、芸能人の婚約会見でよく見る有名なブランドの指輪だった。
燦然と輝くダイヤモンドがあまりに美しく、ずっしりと重く、ひなこはしばらく口が利けなくなった。
ダイヤモンドの質にもよるが、七桁から八桁はくだらないと聞いたことがあるような。雪人はこんな高価なものをひなこが身に付けると本気で思ったのだろうかと、当時目眩がしたものだ。
正直、震えが止まらなくなって感動に浸る暇もなかった。今思い出しても、甘い幸福感と同時に動悸が酷くなるほどだ。
とはいえ、雪人が自分のために選んでくれたものを突き返すことはできない。
ひなこは悩み抜いた末、それなりに高価な金庫を購入した。現在、指輪はそこで厳重に保管されている。
まさか、恋人から贈られた指輪のために出費する羽目になるとは思わなかった。
「でも、すごく嬉しかったんだ。愛されてるって実感できた。指輪は付けられなくても、あの時の思い出だけで胸がいっぱいなの」
幸せがにじみ出ているような笑みを見せつけられ、島田がとっくに撃沈していることになど、ひなこはやっぱり気付かなかった。
さすがに惚気すぎたかと我に返ると、なぜか彼は同じ表情のまま固まっていた。
顔の前でヒラヒラと手をかざしても動かない。第一印象通り変わった人だ。
ひなこは深々と頭を下げて、声を掛けてくれたことに礼を言った。
「島田君、誘ってくれてどうもありがとう。今度またゆっくりお話しようね」
最後まで動かない変わり者の島田に、ひなこは別れを告げた。
◇ ◆ ◇
まだ誰も帰っていないはずだったのに、家に帰り着くと玄関には靴があった。
ひなこは驚き、慌ててリビングに向かう。
「雪人さん!?」
「――おかえりなさい、ひなこさん」
温かな笑顔で迎えてくれたのは、大好きな雪人だった。
リビングに入った途端、待ちきれないとばかり直ぐ様広い胸に抱き締められる。
まだひなこが二十歳未満ということで、雪人は唇にキスさえしない。それだけ大事にされていることを嬉しいと思う反面、我慢させてしまっている申し訳なさがあった。
自制してくれている彼のためにも安心しきっていてはいけないと思い、ひなこからは普段、あまり触れないようにしていた。
それなのに雪人は、こちらの気遣いも飛び越えて抱き締めてくれるから、溢れる愛に溺れそうな心地だった。
「今日は早く講義が終わるって聞いていたから、急いで仕事を終わらせたんだ」
嬉しそうな声を聞く限り他意はないのだろうが、呼気が耳をなぞってどうにもくすぐったかった。
ひなこは雪人の背中を叩く。
「雪人さん、苦しいです」
「あぁ、ごめんね」
口では謝っているものの、僅かに力を緩められただけなので離れられない。今きっと彼の視界は、真っ赤になったひなこでいっぱいだろう。
恥ずかしさを紛らせたくて口を開く。
「そんなことで、わざわざ早く帰ってきたんですか?」
「大事なことだよ。子ども達がいれば、こんなこともできないしね」
「ゆ、雪人さん」
こめかみに口付けされ、それ以上何も言えなくなってしまった。
ひなこの反応に満足げに笑いながら、雪人は頬や耳にも存分にキスの雨を降らせた。
三十分ほど経ち、ひなこはようやくソファに腰を落ち着けることができた。
顔と言わず全身が真っ赤で、雪人と目を合わせることさえできない。
「そんなに恥ずかしがらなくても。僕達夫婦なんだし」
「だ、だからって、首とか、それに、」
「うん。もう少し下ならアウトかなって思って、これでも我慢したんだよ?」
「とっくにアウトです!」
羞恥に悶えるひなこを、雪人はしばらく愛おしげに眺める。
じっくり堪能したところで彼が放ったのは、あまりに唐突な言葉だった。
「――ところでひなこさん、新婚旅行に行かない?」
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