塹壕の聖母

ももちよろづ

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マーニャとジョセフ

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「あぁ、マーニャ……。やっと、会えた……。

 どうか、君は、無事で……」



 ※ ※ ※ ※



―― 1939年 ドイツ ――



「……セフ!ジョセフったら!」

「……んっ?」


まぶたを開けると、高く青い空が広がっていた。

僕の真ん前には、見慣れた、幼馴染おさななじみの顔。

「……マーニャ」

「居眠りしてる場合じゃないわよ。

 ほら、礼拝に遅れるわよ?」

「分かったよ」

マーニャに手を引かれて、僕は立ち上がった。

どうやら、春の陽気に当てられて、木の下で、ウトウトと眠ってしまったらしい。

「牧師様が、待ってるわよ」


「……天にします、我の父よ。御名みなが、あがめられます様に……」

「牧師様!」

「おや、マーニャに、ジョセフ。いらっしゃい」

村外れの教会では、クルト牧師が、父なる神様に、祈りをささげている所だった。

「遅くなりました」

「いいえ、今、始まったばかりですよ。

 一緒に、お祈りをしましょう」

「はい!」

は、急いで、席に着いた。

「天に坐します、我等の父よ。

 御名が、崇められます様に。御国みくにが、来ます様に……」

「……アーメン」

「アーメン」

「さて、今日のお祈りは、ここ迄です」

「牧師様、これは?」

教会の片隅には、カンバスに立て掛けた、描き掛けの絵が置いてある。

「あぁ、私が描いたんだよ」

「相変わらず、お上手ですね」

「ははっ、下手の横好きだけどね」

クルト牧師は、そう言って笑った。

「ねぇ、戦争が近付いてるって、本当なの?」

「あぁ……」

明るかった牧師様の顔色が、急にくもった。

「最近は、どうも、キナ臭くなって来た様だ」

「やだ、怖いわ」

「本当に……お偉いさん方は、民衆の事など考えずに、自分達の都合で、戦争を始めてしまう。

 巻き込まれるのは、いつも、立場の弱い者達だ」
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