鬼と猫又のお話

ももちよろづ

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牡丹の雛祭り①

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~ 摂津国 神崎・遊里 ~



明石「もうじき、雛祭りどすなぁ。」



伊吹「ん? あぁ、もう、弥生か……。」



明石「……うちの家、貧しゅうて。

お雛さん、買うて貰えへんかってん。」



伊吹「………………。」

(娘を、こんな遊廓に、売る位だもんな……)



明石「お雛さんて、綺麗で、幸せそうで……。

羨ましかった。

あんな風に、なりたかった。」



伊吹「牡丹……。」



明石「そう言うたらな、お母ちゃんが、

うちに、これ、折ってくれましてん。」




~ 神崎の街 ~



伊吹「折り紙雛、か……。

雛人形位、買ってやれるが……。」



(あんな風に、なりたかった。)



伊吹「……何とか、牡丹を、喜ばせてやりてぇな……。」




~ 大江山・鬼の屋敷 ~



紅葉「何これ、可愛い! お雛様?」



伊吹「あっ、こら、紅葉!」



茨木「? 不器用なお前が、手遊びなんて、珍しいな。

女にでも、貰ったのか?」



伊吹「…………そうだよ。

明石の奴、雛人形、ずっと欲しかったんだと。」



茨木「へぇ。 つくづく、不憫な娘だな。」



伊吹「何とか、喜ばせてやる方法は、無ぇかな……?」



茨木「お前が身請けして、祝言を上げれば、

晴れて『お雛様』だろう。」



伊吹「……簡単に言うなよ……。

身請け、幾ら要ると思ってんだ?」



茨木「悪徳貴族を、地道に闇討ちし続けて、何年、掛かる事やら……。」



伊吹「あーっ!」




紅葉「ねぇねぇ、兄上!」



茨木「どうした? 紅葉。」



紅葉「春になったら、皆で、お花見に行こうよ!」



呉葉「呉葉も、兄者と行きたいです」



茨木「あぁ、暖かくなったらな。」



紅葉「わーい!

あのね、あのお山、とっても、お花が綺麗なの!」




伊吹「花咲山……。

花見、かぁ……。」




~ 京の都・清涼殿 ~



帝「頼光! 頼光はおるか?」



頼光「はっ、此処に。」



帝「余は、お主に、鬼の一味を退治せよと、命じておる!

一体、いつになったら、彼奴等を討ち取って来るのじゃ?」



頼光「は、申し訳御座居ません。」



帝「あの鬼共には、幾人もの貴族が、財を奪われておるのじゃ。

余に貢ぎの良い氏ばかり……。 ふん、忌々しい。」



頼光「左様で御座居ますか。 許せませぬな。」



帝「分かったら、さっさと行って参れ!」



頼光「ひぃっ! き、近日中には必ず!」




~ 花咲山・麓 ~



茨木「おーい、伊吹。 又、何を企んでんだ?」



伊吹「なぁ、茨木。 見ろよ、この、一面の花。

この山、使えると思わねぇか?」



茨木「ん?」




~ 大江山・鬼の屋敷 ~



虎熊「えぇっ、俺達が、ですか?」



伊吹「あぁ、頼む。」



虎熊「楽器には、自信ありませんけど……。 頭領の頼みなら!」



熊「おうよ!」



虎熊「って、熊さん、楽器、出来るんですか?」



熊「生まれてこの方、触った事も無ぇな!」



虎熊「……太鼓、叩き壊さないで下さいよ?」



金熊「ほう。 これは仲々、面白そうだ。」



星熊「ふん、仕方無いね。

しかし、天下の酒呑童子が、惚れた女の為に……ふっ。」



伊吹「……///」



熊「いやいや、いーじゃないの、純愛! 俺ぁ、応援するよ!」



虎熊「頑張って下さいね!」



伊吹「ま、そう言うこったから、宜しく頼むぜ。」



金熊「話は分かったが、大将。

我々と副将を合わせても、囃子が一人、足りなくはないか?

『五人囃子』だろうに?」



伊吹「あ……!」




~ 京の都・安倍氏の屋敷 ~



晴明「……占いの結果が出たぞ、頼光。」



頼光「おぉ、かたじけない!

して、いつと?」



晴明「弥生の、三日。

この日、大江山の鬼の住み処は、手空きになる。」



頼光「おぉ、流石は、晴明殿!」



晴明「そこを、狙うと良かろう。」



頼光「分かった、恩に着る!」



ダッシュ!



晴明「但し……、その前に、鬼と鉢合わせてしまっては、元も子も無い。

従って、攻め入る道筋は……。

…………?

頼光?

頼光!

………………。

(駄目だな、今回も……)




~ 神崎・遊里 ~



明石「旦那ったら、『雛祭りの日、遊里に暇を貰え』って、文を……。 何やろ?」



番台「明石ちゃーん! お客さん!」



明石「はーい! 今、行きますよって!」
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