お子ちゃま戦争

ももちよろづ

文字の大きさ
上 下
1 / 1

お子ちゃま戦争

しおりを挟む
「私のビスケットが、無い……!」


付き合いが長くなればなる程、喧嘩の原因と言うものは、それはそれは、しょーもないものになる。

私達二人も、例外では無かった。


お菓子を仕舞っている、ダイニングのチェストの引き出しを、夕飯後に開けると、

楽しみに取っておいた、私の大好物のビスケットが、無くなっていた。

しかも、袋にマジックで、「つくし」って、名前、書いといた奴。

二人暮らしで、こんな事をする犯人は、私以外に、一人しか居ない。

私は、リビングで、のほほんとテレビを観ている同棲相手に、ずかずかと詰め寄った。


かける君!私のビスケット、食べたでしょ!?」

「え?はい、食べましたけど」

しれっと言うな!

何、当たり前の様に食べてんのよ!

「君さぁ!」

「もー、煩いなー。又、買って来れば良いでしょ?」

「そーゆー問題じゃ、無いって!」

「はいはい、ご免ってば。

 明日、仕事の帰りに、買って来ますよ」

掛君は、面倒臭そうに話を切って、視線をテレビに戻す。

駄目だ、全く反省の色が無い……!

「もう、怒った!

 私、明日から、ご飯作るのめる!」

「はぁ!?」

今度は、掛君が声を上げる番だ。

「何、言ってんの!?

 毎日、尽さんに、朝晩、作って貰ってんのに!

 俺、料理なんか、作れませんよ!」

「もう、決めた!

 君が反省する迄、私、ご飯担当を、ボイコットする!」

「えぇ~~!?」

こうなったら、徹底抗戦だ。

音を上げて、掛君の方から泣き入れて来る迄、ご飯、作ってあげないんだから!



~1日目~


「う~、疲れた。只今ぁ」

仕事帰りにスーパーに寄って、お肉と、野菜と、惣菜(一人分)と、

お気に入りのビスケットを買い足した。

帰宅した私は、パックの惣菜を開けて、炊飯器で炊いたご飯と、胡瓜の浅漬けと一緒に、夕飯にする。

掛君は、自室に篭っているのか、夜になってもキッチンに姿を見せない。

外食したか、ウー●ーイーツでも取ったかな?

それとも、コンビニ飯……?

これを機に、料理男子に目覚めてくれると、私も助かるんだけど。

彼氏の掛君とは、同棲して、もう、数年になるけど、こんな激しい喧嘩するのって、久々かも……?

朝、仕事に出る時間はバラバラだし、寝る部屋は一人ずつ個室だから、

今日は掛君と、一日、顔を合わせず終いだった。



~2日目~


「只今~」

仕事から帰った私は、自分の分だけ、ささ身を茹でて、

副菜と、炊飯器のご飯と一緒に、夕飯にした。

掛君は、今夜も、キッチンに姿を見せない。

私は、彼と顔を合わせないまま、自室でとこに就いた。



~3日目~


「只今~」

仕事から帰った私は、自分の分だけ、ハンバーグを焼いて、

副菜と、炊飯器のご飯と一緒に、夕飯にした。

掛君は、今夜も、キッチンに姿を見せない。

私は、彼と顔を合わせないまま、自室でとこに就いた。



~4日目~


「只今~」

仕事から帰った私は、自分の分だけ、塩麹で漬けた胸肉を焼いて、

副菜と、炊飯器のご飯と一緒に、夕飯にした。

掛君は、今夜も、キッチンに姿を見せない。

私は、彼と顔を合わせないまま、自室でとこに就いた。



~5日目~


「只今~」

仕事から帰った私は、自分の分だけ、唐揚げを揚げて、

副菜と、炊飯器のご飯と、と一緒に、夕飯に


……しようとしたけど、5日経っても、夜、キッチンに現れない掛君が、心配になって来た。

お互い、仕事のシフトが区々まちまちだから、二人の都合が合う日の夕飯は、私達の貴重な憩いの時間だった。

5日も顔を合わせてないなんて、同棲を始めてから、異例の事態だ。

掛君、ちゃんと、ご飯食べてるかなぁ?


コン、コン


「掛君?」

私は、彼の部屋のドアを、ノックした。

返事は無いけど、鍵は開いている。

「……入るわよ?」

私は、そーっと、部屋に足を踏み入れた。


「!?」

そこには、見るも無残に痩せこけた、パートナーの姿があった。

チャームポイントのぷっくり頬っぺも、すっかり痩けてしまって、見る陰も無い。

掛君は、ベッドに倒れていた。

「掛君!しっかりして!」

私は慌てて、彼を抱き起こす。

元から色白だった顔色が、最早、青白い。

こんな体で、仕事、行ってたの!?

「何で、こんなになる迄、ご飯食べなかったの!?」

「……だって……、尽さんのご飯以外、美味しくないんだもん……」

「馬鹿……!」

私は、ガリガリに痩せ細った彼を、ギュッと抱き締めた。

この5日間の、自分の大人気無さを、心底、後悔した。


「お代わり!」

ダイニングで、自分用に揚げた唐揚げと、大根サラダ、ご飯を、掛君に食べさせる。

「はいはい。本当、よく食べるわね」

「だって、尽さんのご飯、美味しいから!」

そう言われると、私も悪い気はしない。

「たっぷり作ったから、お腹一杯、食べて!」

「やったぁ!」

彼は、美味しそうに、唐揚げとご飯を頬張る。

血色も良くなり、肌がツヤツヤしている。

ぷっくり頬っぺも、元通りだ。


「掛君、私が、ご飯作りボイコットしてた間、

 本当に何も、食べてなかったの?」

食後にキッチンで、皿を洗いつつ、聞いてみる。

「いや、流石にそれじゃ、餓死しますから。

 昼間、仕事中は、外食してたし、

 夜、家に帰ってからも、適当にお腹に入れてましたよ。

 同じ物ばっかり食べてたから、飽きちゃったけど。

 当分、甘い物はいいや」

彼は、背中から私に、ぎゅう、と抱き付きながら答えた。

「そうなの?」

まぁ、何なりと食べてたんなら、良いけど。


「ふぅ、やれやれ」

さてと、洗い物も済んだし。

掛君も、すっかり元気になったし。

何だか、安心したら、私も、甘い物でも欲しくなって来たな。

おやつでも摘まむか。

ダイニングのチェストの、引き出しを開ける。

「あら?」





「私のビスケットが、

 根こそぎ、無い……!」
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

特殊能力を持つ弟を隔離せよ

こあらのワルツ
ライト文芸
アイツは世界中から追われている。 『音』が聞こえるなどというおかしな事を隠しもしないから。 特殊能力を持つ弟を閉じ込める主人公、連(れん)。 『音』が聞こえるという主張をしてバッシングを受ける弟、星(せい)。 音のない世界で生きる二人のきょうだいの行く末は?

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

ことりの台所

如月つばさ
ライト文芸
※第7回ライト文芸大賞・奨励賞 オフィスビル街に佇む昔ながらの弁当屋に勤める森野ことりは、母の住む津久茂島に引っ越すことになる。 そして、ある出来事から古民家を改修し、店を始めるのだが――。 店の名は「ことりの台所」 目印は、大きなケヤキの木と、青い鳥が羽ばたく看板。 悩みや様々な思いを抱きながらも、ことりはこの島でやっていけるのだろうか。 ※実在の島をモデルにしたフィクションです。 人物・建物・名称・詳細等は事実と異なります

片思い台本作品集(二人用声劇台本)

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
今まで投稿した事のある一人用の声劇台本を二人用に書き直してみました。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。タイトル変更も禁止です。 ※こちらの作品は男女入れ替えNGとなりますのでご注意ください。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々

饕餮
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある商店街。 国会議員の重光幸太郎先生の地元である。 そんな商店街にある、『居酒屋とうてつ』やその周辺で繰り広げられる、一話完結型の面白おかしな商店街住人たちのひとこまです。 ★このお話は、鏡野ゆう様のお話 『政治家の嫁は秘書様』https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981 に出てくる重光先生の地元の商店街のお話です。当然の事ながら、鏡野ゆう様には許可をいただいております。他の住人に関してもそれぞれ許可をいただいてから書いています。 ★他にコラボしている作品 ・『桃と料理人』http://ncode.syosetu.com/n9554cb/ ・『青いヤツと特別国家公務員 - 希望が丘駅前商店街 -』http://ncode.syosetu.com/n5361cb/ ・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 ・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376 ・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232 ・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』https://ncode.syosetu.com/n7423cb/ ・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』https://ncode.syosetu.com/n2519cc/

ドーナツ

高本 顕杜
ライト文芸
ドーナツを食べる子供のSS。

処理中です...