ポーツマスナイト

ミムラ

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前編

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「恵ー、早くしなさーい。お母さんもう出るわよー。」

階下から母の声が響く、私はもう一度着ているワンピースがおかしくないかなと姿見で確認しながら声を返す。

「待ってー、もう準備は出来てるからー!!」

私は、この時期いつも使っている大きめのトートバッグをひったくり、急いで階段をおりる。ここは東京近郊のベッドタウン、季節は真夏。まだ朝の八時前だけど気温はぐんぐん上がっている。出かける母に置いて行かれて、駅まで歩いていくことになるのは勘弁して頂きたい。

私が玄関までおりると母は既に玄関にはいなかった。私は日傘を手に取り、玄関に鍵をかけ、玄関前のタクシーに向かう。タクシーの後部座席には険しい顔をした母が座っていた。ドアを開けて貰いタクシーに乗り込む。母は大学で文化史の研究をしていて、音楽教育者としてもこの辺りでは有名人だ。今日は土曜日だというのに対談のお仕事で都心のホテルに向かう。そのタクシーに便乗させてもらったわけだ。

「もー、いつもあなたはぎりぎりになるんだからー。」

母はいつの間にか取り出した資料をみながら、顔を上げずにいう。私はいつものお小言かと返事をしない。

「遅刻して、今お願いされてる出張レッスンを断られたらどうするの?わが家には手伝ってもらうような家事はないわよ?」

母のお小言は続く。そうなのだ、私は父と離婚後、女手一本で私を育て上げ、今でもタクシーでお仕事のお迎えが来るような母とは違い、何とか母と同じ音楽大学を卒業したものの、卒業後は実家でくすぶりにくすぶっていた。

「はあーっ、小さい頃はあなたなら世界を相手にできると思ってたのに…。」

母ヨ、それは買い被りというものだ…。

「私が死んだらどうするの?あの家はあなたが好きにしてくれたら良いけど、月に7万じゃ、生活できないわよ?」

母ヨ、7万ではない、7万5千円だ。

私は音大を卒業後、ピアニストとして全く芽が出なかった。そこで、自宅で子供相手のピアノ教室を開いて、10人ほどの生徒さんに教えている。皆さんのお月謝が一人5千5百円である。

これが例えば学習塾ならば、一度に20人、30人と教えることもできるだろうけど、ピアノとなると話は違う。基本は一人ずつレッスンする事になる。みんな夕方までは学校があるし、夜のご飯までには家に帰らないといけない。自分で言うのもなんだが、これだけ限られた時間で生徒さんが10人というのはなかなか人気の教室なのだ。

ただ生活が出来ないというのは本当に母の言う通りだ。母も大学での仕事と並行して、自宅で音楽教室を開いていたが、プロを目指すような生徒さん2-3人を相手にみっちりとレッスンを行っていた。頂いていた額も半端ではなかったと思う。そういった風にならないと、音楽教室は箱入り娘の道楽で終わってしまう。

そんな私の唯一の例外が、月に4-5回との約束のこの出張レッスンである。

「だーかーらー、くびにならないように、頑張りなさいよー。」

駅への到着間近になって、母の小言にも力が入る。

「ありがとっ。」

母の小言から逃げるように、私は駅のロータリーについたタクシーから急いで降りようとする。そんな私の背中に、思い出したように母が声をかける。

「今日は遅くなるのっ?」

「分からないっ!!佐穂達とご飯食べに行くかも!!」

私は内心ドキッとしたけれど、出来るだけそれを押し隠して答える。

母ヨ、許せ。齢30ともなると、娘はうそつきになるものなのだ。

電車は定刻で動いていて、運よく私は座る事ができた。クーラーの効いた車内でふっと一息つく。それから携帯を取り出し、メッセージアプリで今日の生徒さんに連絡を取る。

「10時より少し早くつきそうです。」

要件を送って、ふっと社内に視線をやる。

「ブブッ!!」

すぐに私の携帯が、メッセージが届きましたよと振動する。

「了解です。」

味も素っ気もない短い文章をみながら、なんとなく私は自分の心が浮き立つのを感じるのだった。

快速急行で40分ほど揺られ、私は都心から離れた、生徒さんのおうちの最寄り駅に到着する。この辺りは江戸時代から避暑地として知られていたらしい。今でも自然が多く残り、観光地とは違った趣を残している。

ここから生徒さんのおうち迄は徒歩で20分、しかもおうちは坂の上にあり、えっちらおっちら登っていく必要がある。私は日傘をさし、汗を拭きながら歩を進める。

夏の日差しに照らされながらも、何とか焼け死ぬ前に到着した、生徒さんのおうちは、おうちというよりはお屋敷と呼ぶべき建物で、もとは某有名企業の創業者の別邸であったらしい。

私がインターホンを鳴らすと、すぐにマネージャー兼お手伝いの佳乃さんが、小さな門を開けに出てきてくれた。

「まあまあ先生、こんな暑い中、門の前に待っていていただかなくても、玄関まで入ってきてくだされば良いのに!!」

そんな訳にはいかないだろうと内心思いながら曖昧に笑う。

「すぐに坊ちゃんをお呼びしますね!!」

そんな私を気にせずに、佳乃さんは続ける。佳乃さんはおそらく35才くらいだと思う。普段から化粧気がなく、ご本人のお人柄のせいで分かりにくいけれど、かなりのお美しいことに私は気が付いている。

「あっ、すいません。その前に御手洗いをお借りしても…?」

私は佳乃さんを遮りそそくさと洗面所をお借りする。カバンから大きめのハンドタオルを出し、汗を入念に拭う。念のためデオドラントシートでもう一度拭く。幼少期からぽっちゃり体形の私は、小学校高学年の時、クラスメートの男子から、体型とあせっかきをからかわれいらい、はっきりとコンプレックスになっていた。私が汗の始末を終えて、洗面所から出ると玄関ホールに華奢な男の子が立って、佳乃さんと話し込んでいた。男の子が私の気配に気がつき、こちらを振り向く。

「おはようございます、恵先生。今日も宜しくお願いします。」

「おはよう、玲君。ドイツはどうだった?」

この、華奢な男の子が見た目通りのおとなしい男の子でないことは、音楽関係者ならみんなが知っている。特に2年前、ヨーロッパで最大級の若手を対象としたコンクールで準優勝したときには、夕方の全国ニュースでも流れていたし、海外での人気は日本の比ではない。

実際にこのお屋敷の持ち主も彼自身だし、20才を超えてから、佳乃さんのお給料も彼が払っているらしい。そんな彼は今年23才になっているはずだ。だから男の子というには年齢を取りすぎているかも知れないし、本人も子供扱いをすごく嫌がるのだけれど、幼く見えるのは事実だし、何より有名なコンクールの準優勝者というよりも、私には母の音楽教室に小学生になる前から通っていた繊細な男の子という記憶が強い。その記憶がより私に彼を幼く見せていた。

「最悪ですよ、涼しいわけでもないし、ご飯はまずいし…。」

 日本でも名の通った音楽祭での演奏を、玲君は行儀悪く切り捨てる。

「坊ちゃま…。」

幼少期より玲君を知る、佳乃さんがジト目でにらむ。玲君は生い立ちに複雑なところがあって、ちょっと偽悪的だ。

「それじゃ先生、レッスンをお願いします。」

世界的な演奏家にも、弱い相手はいるらしい。私にもはっきりとわかるほど、玲君は強引に話題を変えた。

午前中は演奏技術のメンテナンスの意味もあり、技術的なおさらいをみっちりと行う。2時間きっちり練習して、お昼には、佳乃さんが用意してくれていた比較的軽いものを食べる。土曜日、佳乃さんはお昼までの勤務なので、昼食が終わると帰宅される。

それから2時間は演奏もするけれど、表現や解釈面での確認や、音楽史の講義もどきもする。玲君はこの午後でのレッスンのために、練習室に品の良いデスクと椅子、それからプロジェクターもそろえてくれた。

3時になると、レッスンを終える。それから、これも佳乃さんが容易してくれた軽食を食べる。午後のレッスンの集中力を維持できるようにお昼は軽くすましているから、結構しっかり食べる。今日はサンドウィッチに珈琲、それからプリンまで頂く。

「ええっ、じゃああの作曲家、あんな聖人君主みたいなイメージなのに、未成年に二股をかけてたの?」
「まあ、当時は未成年の概念が今とは違うから、そこは何ともだけど、二股は事実かな?手紙が残っているらしいし、後で裁判にもなってるし…。」

このころになると、師弟とも随分だらけた空気になってくる。そもそも玲君が小学生のころは良くアイスやファストフードを奢ってあげていた。今更変な遠慮はない。

玲君は狂ったイメージがショックなのか、グデーッと講義(玲君は面白がってそう呼ぶ)用のデスクに突っ伏す。

私がつぶれている玲君を横目に、プリンの最後の一口を食べる。佳乃さんはお美しい上に、料理もお上手だなんて最高すぎる。

私がプリンを食べ終え、ふと玲君の方を見る。すると玲君もこっちを見ている。目が合う。

ちょっとためらいながら彼の手が伸びてきて私の手の甲に触れる。私は手を引かない。彼の手が私の手首をつかみ軽く引き寄せられる。彼の唇が私の唇にふれて、離れる。

「…ムードが無い。」

私が苦情を申し立てる。

「ゴメン…。」

彼が素直に謝る。しょんぼりした彼がかわいくて、今度は私が彼の手に触れる。彼はちょっとびっくりしたように、彼に触れている私の手を見る。その後、嬉しそうに逆の手で私の頬にふれる。それから彼の唇がもう一度、私の唇を奪う。最初は触れ合うだけだった口づけも徐々に深いものに変っていく。間に小さくはないデスクがあるのに、彼が私を強引に引き寄せようとする。

「待って…。」

私が小さい声でお願いする。彼は立ち上がり、デスクを避けて、私の側に立つと、私を強引に立ちあがらせ、ぐっと抱きしめる。それからもう一度口づけをする。彼の舌が私の口腔に入ってくる。唾液を交換するような直接的な口づけなのに嫌な感じはしない。彼が私を求めてくる。少しでも隙間を埋めるように、彼の腕に更に力がこもる。

「っ、待って!」

息を次ぐ間に今度ははっきりとお願いする。

「いやだ、待てない…。」

玲君が、駄々をこねる。イギリス講演のおかげでしばらくお預けになっている彼はちょっと余裕がないようだ。

「汗をかいているの…、シャワーを使わせて…。」

私からの拒絶ではないと分かり、彼の空気が柔らかくなる。

「一緒に入る?」

彼が聞く。

「ばか!!」

私が彼の頭をぺしりと叩く。

古風なお屋敷という外観とは似つかわしくない、最新式のバスルームでシャワーを浴びる。シャワーの温度も水圧も何も不満が無いのに、私の心は半分が浮き立ち、半分は不安に沈んでいる。ため息をつきながら、ぼーっと体に水を流していると、洗い場に気配がする。

私は現実に引き戻され、声をかける。

「玲君?」

私の声はそれほど大きくなかったはずだけど、洗い場の影はあからさまにギクッとしている。それから洗い場と浴室の間のドアが薄く開く。

「俺も汗をかいたから、シャワーを浴びようと思って…、一緒に入った方が早く終わるかなって…。」


「…バカーっ!!」





私に一喝された玲君がしょんぼりしながら私と入れ替わりに浴室に消える。

彼が持ってきてくれた部屋着に着替えて、私は勝手知った彼の寝室に入る。彼の部屋のつくりは一般的な洋室だが、このお屋敷についていたという家具たちが重厚さを醸し出していて、素人の私から見ても一味違う。ドイツで買ってきたのだろう、新しく本棚に加わった本を何となく見ていると、ドアが開く。

私が振り向くとそこには濡れ髪に、カットソーそれから薄いスウェットを履いた玲君が立っていた。彼はちゃんと成人しているけれど、線が細く中性的だ。小学生のころからの付き合いだから、慣れてしまったところもあるけれど、ひいき目なしに見てもかなりイケメンだと思う。そんな彼に、濡れ髪と部屋着が組み合わさるとかなりエロい。

私が思わず見惚れていると彼が部屋に入ってくる。私が話しかけようとするけれど、それより早く彼が私を抱きしめる。

「どうしたの?」

私が尋ねる。

「別に…、でも久しぶりだから…。」

彼が答える。確かに彼がイギリスに2週間ほど行っていたので、直接顔を合わせるのはほぼ一月ぶりだ。

「寂しかった?」

私がちょっと茶化して質問するけれど、彼はそれに答えない、代わりに抱きしめる手に力を込めて私の肩口に顔をうずめる。

「恵先生だ…。」

彼の声に熱がこもる。彼が顔を上げ、私を見つめる。そっと唇が重なる。すぐに口づけが深くなる。彼の手が私をまさぐり始める。私の部屋着は柔らかな手触りと、もこもことがうりの 某メーカー製で、彼の手の感触をかなり直接的に感じる。彼が私の胸にそっと手を伸ばす。私はシャワーを浴びた後、ブラは付けなかった。彼もそれが分かったのだろう、露骨に嬉しそうにする。

柔らかなもこもこのうえから、優しく触れられる。彼は私をしっかりと抱き寄せている。彼の欲望が固く立ち上がりっているのを布越しに感じる。胸の頂きをもこもこ越しに愛撫され、息が漏れる。立っているのがおっくうになる。

彼も余裕が無いようで、私を抱きしめ絶え絶えに口づけを交わしながら、器用にベッドに向かって、私を押し、いざなう。

「きゃっ」

私がベッドに座り込む。直ぐに彼が上から重なってきて、私を優しく押し倒し、二人でベッドに横たわる。私が重くないように、自分の体を支えながら、彼が私に重なる。彼が私に口づけする。それから私の顔にかかった前髪に触れる。

「ゴメン、恵先生。俺余裕ないかも…。」

そんなの最初のキスから分かっていたし、何だったら今も、カチカチに硬くなった彼の欲望が私の下腹部に押し付けられている。

「…お願い、今は先生って呼ばないで…。」

私は彼に答えず、代わりにたどたどしいお願いを口にする。彼は嬉しそうに笑うと、もう一度私に深い口づけをする。彼の舌が器用に私の舌をすくい、唇をはみ、歯茎をなでる。彼の太ももが私の足を割り、私の潤み始めている部分を微妙に刺激する。私の息が上がる。彼が離れる。彼の人差し指が私の唇に触れる。

私は彼の目を少し見つめてから、それを口に含み、舐る。彼の手は華奢な体に似合わず、細いけど大きく、日ごろのレッスンのせいでごつごつしている。何となく、この手が彼の努力の象徴のような気がして、愛おしくてたまらない。それにピアニストの彼の一番大事な部分を私が独占している感じがして、良くない優越感が私を欲情させる。

欲情したのは彼も同じ様で、手を遠ざけると、熱に浮かされたようにもう一度激しい口づけをする。それから私の胸を揉みしだく。彼の唇が私の唇からはなれて、わたしの首筋に触れる。耳タブを食み、もう一度首筋を舐め上げる。かれの手が、もこもこの上着の裾から入ってくる。さわさわと乳房と彼の指が触れる感覚に私の下腹部に熱が貯まる。

彼がまどろっこしそうに、私のもこもこを脱がす。それから同じ素材のショートパンツに手を欠ける。

「まってっ…。」

私がお願いする。彼は待ってくれたけど、返事をしない。

「部屋を暗くして…。」

「…いやだ。」

「お願い、恥ずかしいの…。」

私の身体は、彼が普段接しているような、きれいなお嬢さんたちとは比べ物にならない。彼にがっかりされたくない。

「いやだ、全部見せて…。」

かれはそういうと、もう一度私の口づけをして、強引に上着を脱がす。私は体を丸めて、彼に背を向ける。彼は私のうなじに口づけする。背中から手を回して、私の乳房に触れる。フニフニと感触を楽しむように触れた後、彼の指が私の乳首に触れる。優しく、でも複雑にいやらしく動く彼の指に、私の熱はさらに高まる。

彼が私のショートパンツと下着を脱がせる。はしたなくも私は体を浮かせて協力する。彼も全て脱いだのだろう。背後からしっかりと抱きしめられて、背中全体に彼を感じる。硬く硬くそそり立つ彼自身がお尻にあたり、思わず息が漏れそうになる。

彼は少し強引に私を仰向けにすると、もう一度私の唇を奪う。彼の舌が入ってくる、私は彼の頭に手を回し受け入れる。

彼が私の両手をつかみ、バンザイさせるように私の頭のうえにあげる。私は恥ずかしくて身をよじるけど、彼が動くのを許してくれない。彼が私の身体を見る。普段は優しい、彼の目ははっきりと欲情している。彼が、首筋から、鎖骨のあたりに口づけする。露わになった私の腋下をなめる。

「っ、やめてっ!!汚いから!!」

私がお願いしても彼は答えない。彼の舌が、私の腋下、二の腕をなめる。そこは確かに私の弱いところだけど、美少年といっても違和感のない彼になめられるのが恥ずかしくてたまらない。私が快感と羞恥に必死に耐えていると、彼の舌が乳房に移る。ついに熱い息が私から漏れる。しばらく、彼が私の乳房を味わう。じっとりじっとりと私の熱が高まる。彼の舌が私のお腹を伝い、下に降りてくる。彼が私の足を開かせようとする。私はしっかりと足を閉じそれを拒絶する。

「まってっ、それは本当に駄目!!」

私は体をねじり何とか、彼から逃れる。彼もそれ以上無理強いをしない。彼がもう一度、背後から、私を抱きしめる。また彼の硬い欲望をお尻に感じる。押しつけられているだけなのに私の息が詰まり、潤いがます。

彼が愛撫をやり直す。後ろから私の耳たぶを食み、なめる。舌が私の首筋、背中に移る。私は何とか声を押える。背後から彼の手が私の乳房に伸びる。私が身をよじる。彼の残りの手がするりと、私の下半身に伸びる。

「ハアッ…。」

私は淫らに息を漏らす。続けて私が身をよじろうとするけれど、今度は彼が後ろからしっかりと抱きしめてそれを許してくれない。

「力を抜いて…。」

彼がささやく、彼の指が繊細に動き始め、私は淫らに身をくねらせる。私の下半身は直接愛撫される前からはっきりと濡れていたけど、彼の指の愛撫を受けて、さらに愛液が溢れ出す。彼の優しく、丁寧な愛撫に私はこらえきれずに声を上げる。

彼の指がそっと私の中に入り、私の準備が十分に出来ている事を確かめると、彼が離れる。ベッドサイドから薄い膜を取り出し準備してくれる。直ぐに戻ってきた彼は、私を仰向けにし、深いキスをくれる。彼が自身を宛がう。私はそっと協力する。

「ああっ…。」

彼の反り返る欲望が、私の下腹部に触れる。瞬間、私の脳が欲望に塗りつぶされる。彼がゆっくりと奥まで入ってくる。私は全身で彼にしがみつく。

「まって!!、恵ちゃん。動かないでっ!!」

彼が昔の呼び方で私を呼び、声を上げる。肩口にある彼の顔をみる。中性的でまだ少年のような彼が、ひどく焦った顔をしている。まずい、自制ができない。私の独占欲が爆発する。私は彼をだきしめ、ささやく。

「いいのよっ、玲君。いいのっ、私で気持ちよくなって、ねえっ、一杯気持ち良くなってっ…。」

私の腰が淫らに動く。

「もおっ!!」

彼は何かが吹っ切れたように動きだす。強引な彼の動きに私は上り始める。私の声が漏れる。全身で彼を感じようと、しっかりと抱きしめる。

「ああっ!!」

ほどなくして彼が声を漏らす、私の中で彼が脈動するのを感じる。彼の最後の動きで私にも小さくはない快感の波が来る。

彼の欲望の放出が終わるのを感じてから、私が良い子良いこと彼の頭をなでる。しばらくして彼は不本意そうに体を離し、後始末をする。後始末を終えた彼が、戻ってきて体を寄せる。

「…どうしたの?」

不満げな彼に私が尋ねる。

「別に…、でもちょっと…」

玲君が言いよどむ。

「…素敵だったよ?」

何となく、彼が言いたい事を察した私が彼の唇に軽く口づけする。

「むうっ?」

それでも世界的なピアニストのご機嫌は直らない。彼が私に覆いかぶさり口づけをしなおして、やわやわと胸をもみ始める。

「ちょっと、玲君??」

彼が私の乳房のあたりに口づけを始める。まだ残っていた私の欲望に再び火が付く。彼が乳房の頂点を口に含む。私は思わず甘い吐息を漏らす。しばらく彼が乳房と戯れるのを感じながら、私がけだるく甘い快感にしたっていると、不意に彼の舌が移動する。

「まって!!」

私が声を上げるけど、反応が遅れた。今度は玲君が許してくれない。太ももを割って、彼の唇が足の付け根に触れる。

「ふうっ!!」

私は今までとは違う快感に身をよじる。玲君の舌が、敏感な箇所に触れる。唇が優しく私を食む。私は手を口に押し当てて、嬌声を我慢する。でも、快感は次々に注ぎ込まれ、ついに絞り出すように声が漏れる。玲君はしっかりと太ももを両手で押し割っていて、私は快感から逃れることが出来ない。彼自身は一度終わって、少し落ち着いたのだろう。十分に時間をかけて執拗に私を追い込む。私は快感の波にさらわれ、悲鳴のようなかすれた叫びをあげる。ついに私は彼にお願いする。

「ねえ…、もう駄目、お願い、お願いだから…。」

彼は私のお願いを聞くと、満足そうに体を離し、2回目の準備をして、入ってこようとする。私は彼を抱きしめる。1回目と同じように硬い彼がゆっくりと入ってくる。

「ああっ、はあっ。」

私から声が漏れる。彼は一度しっかりと収めると、私をぎゅっと抱きしめてくれる。私たちはキスを交わし、私は私の中に玲君を感じる。私をならしてから彼はゆっくりと動き始める。玲君は少し余裕があるようで浅い所をこすったり、奥にしっかりと押し当てたり、私の良い所を探し始める。私はただ淫らに彼に踊らされる。

「はっ、はっ、はっ」

私の息が荒くなる。

「ううっ、ふうっ、ああっ!!」

私の良い所を彼が見つけ出す。私は声を抑えられない。若いってすごいなとか、どこでこんなの覚えたのだろうとか、どうでも良い考えがふと頭をよぎるけど、すぐに快感で押し流される。

ちらっと彼の顔を見る。彼の端正な顔ははっきりと快感に浸り、我慢しているのが分かる。私は彼も私で気持ち良くなっていることを理解できて、多幸感がこみ上げる。彼を抱き寄せ、ささやく。

「ねえっ、玲くんっっ、気持ち良いっ??私、気持ち良いっ???私は気持ち良いよ、玲君のがほんと気持ち良いよ、ねえっ、あっ。」

彼も最後まで行こうと決めたのだろう、玲君の動きがしっかりと早くなる。でも二回目だからか、正確なリズムを刻む彼の動きは、さっきよりずっと長く続く。

「ああっ、ああっ、ああっ!!。」

良いところを同じリズムでこすり続けられた私は、快感の大きな波に押し流され、意識が遠のく。それから間もなく私の中で再び彼が脈動するのをうっすらと感じるのだった。

しばらく私の中でじっとしていた彼が出ていく。後始末をして戻ってきて、私を抱きしめ、キスをしてくれる。

「すっごい素敵だったよ?」

彼が甘くささやく。

「ばかっ…」

私は短く返して彼の胸に顔をうずめるのであった。




「この辺りは夜になると、結構涼しいね?」

しばらく彼とまどろんだあと、シャワーを浴びて、まだ電車があるうちに彼の家を出る。彼は当然のように私を駅まで送ってくれる。

「ねえ、来週のレッスンは何時になる??」

私の問いかけに答えず、玲君が私に返す、来週はいつものレッスン日の土曜日に玲君の所用が入り、別の曜日に変更することになっていた。

「んーっ?木曜日でお願いをしようかなと思ってる」

私が答える。

「木曜日かあー。」

彼が残念そうにつぶやく。平日は佳乃さんが6時頃まで勤務されるので、二人の時間がゆっくり取れない。

「多分泊まれると思う…。」

私が年甲斐もなく、彼の様子を伺いながら言ってみる。

「うそっ、ほんと!?やったあ!!」

彼の率直な態度に、私は心底ほっとして、自然と笑みがこぼれる。

「じゃあ、気を付けてね!?、家についたら連絡してね!!」

上機嫌な彼と改札口で分かれて、私はちょうどすべり込んできた快速急行に乗り込む。空いている座席に座り込む。まだ体は彼に愛して貰ったのを覚えている。ふっとため息をつく。2駅が通過する頃には、浮き立つ気持ちがどこかに去り、不安がこみ上げてくる。

私達は正式にお付き合いしている訳ではない。

玲君は小学校に入る前から母の音楽教室に通っていた。小学生で全日本のコンクールを優勝し特に活躍が期待されていたけれど、ご家庭が複雑で、中学生になってからは、演奏も不安定な時期が続いた。それでも精神的にのっている時の演奏は素晴らしく、有名なオーケストラとの共演なんかもしたけれど、演奏家としてやっていけるかどうかはまだまだ未知数といった具合だった。特に3年ほど前、玲君のご両親に関する事情がスキャンダラスに報じられたときは荒れに荒れ、普通の生活も難しくなるのではというほどだった。

2年前、そんな玲君を見かねて連絡を取り合っていた私は、何かをはっきりさせる事もないまま、体の関係を持ってしまった。

彼は21才だったから法律的にはセーフだったと思う。でも、そのままズルズル続けてしまっているのが良くないことなのは分かっている。

それに芳野さんの美味しいご飯も、きれいなお風呂も、居心地の良い部屋もみんな玲君の頑張りの賜物で、私のものは何一つない。

玲君が払ってくれる高額のレッスン料は、母のレッスン料に比べれば格安だそうだけれども、彼の若気の至りのせいかも知れない。私が本当に私の力で手に入れられるものは、月に5万5千円のお月謝だけなのだ。

自分一人で立つことのできない、見苦しい三十路のわが身を感じて、暗い気持ちのまま帰途に就くのであった。
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