心霊少女

二階

　私の通っていた歯医者さんが入っていたビルは、どういう事情なのか、二階には入れないようになっていた。階段も、二階のフロアに通じる扉は厳重に鍵がかけられており、エレベーターなど、そもそも『二階』のボタンがなく、ただの空ボタンになっていた。

　ある治療の後、歯医者さんは五階にあるので、今まで通りエレベーターに乗り、一階のボタンを押した。
　エレベーターの扉は閉まり、一階ずつ降り始める。
　エレベーターに乗っているのは私一人だった。
　だが何故か急に、二階のボタンであったろう空白のボタンが点いた。
　驚いたが、すぐにボタンを二回押してキャンセルしようとした。間違えて六階のボタンを押したことがあるので、このエレベーターは二回押しでキャンセルが出来ることはわかっていた。
　それでもボタンは消えなかった。
　私は急いで三階と四階のボタンを連打した。
　間一髪間に合ったようで、三階で扉が開き、降りることが出来た。

　帰るためには降りなければいけないが、もう一度エレベーターに乗って二階に連れていかれそうになった場合逃げ道がない。
　エレベーターに乗る気にはなれなかった。
　だが階段で二階の前を通っても、無事に帰れる気がしない。
　私は一度上に上がり、歯医者さんに戻って、受付の女性に裏口などはないか、と聞いた。
　受付の女性は、「ああ、また何かあったのね」と慣れたように笑って、「階段で降りれば大丈夫よ。封がしてあって、階段の扉は開けられないから」と教えてくれた。
　念のために二階の扉を見ないようにして降りたが、がたがたと物音がするだけで無事降りることが出来た。

　治療が終わるまではエレベーターを使わず、階段でその歯医者さんに通い、治療が終わってからは別の歯医者さんに通うようになった。
　その二階に何があるのかは、知らないままである。