70 / 99
二年目
最低な自分 2
しおりを挟む『ママ。大河決まったの? おめでとう! がんばってね! 次に休めるのは九月くらい? パパもそのくらいが休みだと思うから一緒にお出かけするといいよ。温泉とかどう?』
『パパ、全国ツアーお疲れさま。まだ中盤だよね? どこもかしこも熱狂してるでしょ? いいなぁ、俺も見に行けたらよかったのに』
返事を待たずメッセージアプリを閉じて、記事漁りに戻る。
今度は月子がインタビューを受けているものを見つけた。女性向け雑誌から抜粋されたものだ。
記事には、さまざまなテイストで撮影された月子の写真ものせられている。これはまだほんの一部で、雑誌にはかなりの量が掲載されているらしい。
月子の写真を、真剣な顔でスクロールしていく。
すぐに、見抜いた。月子が疲れていることを。
どの写真も、ある意味完璧だ。隙がない。渡辺月子としてあるべき姿を映している。それでも純がわかってしまうほどに、月子は今、危険な状況にいる。
純はスマホをタップし、月子にメッセージを送る。
『おはよう、月子ちゃん。夏休みもずっと仕事だよね。がんばって。応援してる。でも、ほんとうにだめなときはちゃんと、マネージャーさんを頼ってね。頼ることは、難しいけど大事なことだよ』
これだけで、解決には至らない。月子にとって気休めにしかならない。
純は眉尻を下げる。
月子が壊れるとわかっているのに。純には救ってあげられない。それでも、純にできることを、精いっぱい続けていくしかないのだ。
ため息をつき、ワイヤレスイヤホンを耳にはめる。
プレイリストに入った父親と月子の楽曲を、ランダムに流し始めた。ジャンルは違えど二人ともカリスマ性があり、激しい曲を歌う。人気が出て当然だ、と純はほほ笑みながらうなずく。
とても穏やかで、平和な時間。一人でいる時間は、心に平穏をもたらしてくれる。ここに温かいコーヒーがあればもっとよかった。
ここ最近で、今が一番、メンタルは安定している。
――せっかくこっちは、歌もダンスもできない新人を受け入れてやってるのに。――
――俺はみんなとは違うって行動で言われてるような気分になるんだよ。――
――出たい出たくないの問題じゃねえんだよ! イノギフのメンバーなんだから顔出さなきゃだめだろって言ってんの! ――
今までメンバーに言われた言葉が、突然フラッシュバックする。顔をゆがめ、頭をかかえながらも、そのとおりなのだと自責した。
ほんとうにグループを成長させたいのであれば――ほんとうにグループのために力を使いたいのであれば、もっとできることはある。
両親や月子に対してするように、こまめに連絡を取り合い、感想を送りつけること。体調を読み取って気を遣ったりはげますこと。
さきほどしていたように、どういう記事が上がっているのか、記事によってどう評価をされているのか分析だってできる。
でも純は、イノセンスギフトのために、積極的に動こうとはしていない。
ため息をつきながら、背もたれにのしかかる。天井を向き、目をつむった。
「俺はパパとママが大事。月子ちゃんのことも。社長の意思だって大事にしたい。……でも」
できないのだ。それが社長に頼まれたことで、自分のやるべきことだとわかっていても。
自分の身を削ってでもやりたいと、思えないのだ。
「最低だな……俺は」
ふと、部屋の外から、歩き回る音が聞こえた。スマホの画面を点ける。そろそろみんなが起き始める時間だ。
このあとは全員で朝食を食べ、荷支度を終えたら東京に帰る。もうしばらくしたら、スタッフか熊沢が起こしに来るはずだ。
純は立ち上がり、スタッフたちが来る前に三人を起こして回った。夕飯を持ってきてくれたお礼も、忘れずに告げる。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
イルカノスミカ
よん
青春
2014年、神奈川県立小田原東高二年の瀬戸入果は競泳バタフライの選手。
弱小水泳部ながらインターハイ出場を決めるも関東大会で傷めた水泳肩により現在はリハビリ中。
敬老の日の晩に、両親からダブル不倫の末に離婚という衝撃の宣告を受けた入果は行き場を失ってしまう。
無敵のイエスマン
春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。
Cutie Skip ★
月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。
自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。
高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。
学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。
どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。
一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。
こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。
表紙:むにさん
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる