星乃純は死んで消えたい

冷泉 伽夜

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二年目

間も要領も悪いばかりで 1

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 この日、制服姿の純は事務所の会議室にいた。イノセンスギフトのメンバーと一緒に、テーブルを囲うよう座っている。
 壁際には、グループに携わるスタッフたちが背をつけており、持っている資料に視線を落としていた。

 テーブルの上席に座る初老の男性プロデューサーが、にっこりと笑う。

「来て早々集まってくれてありがとうございます。今回集まってもらったのは、今後のスケジュールについて伝えておきたかったからです」

 手元の資料をちらりと見る。

「個人でのスケジュールは、各自マネージャーから確認しておいてください。……ここではグループ全体のスケジュールを伝えます」

 純はプロデューサーに顔を向け、そのキツネ目で読み取っていく。プロデューサーからにじみでている自信から、実力を感じ取った。

 数多くのアイドルを世に出してきた経験をありありと見て取れる。

「まず、新曲。今年は三曲、シングルでリリースします。三曲ともミュージックビデオと特典映像をつけることになりました。これだけでもすごく忙しくなるんですが……」

 メンバーやスタッフたちは真面目な顔でうなずいていたが、純だけは顔をしかめていた。口元に握りこぶしを添え、目を伏せる。

「なんと! CM、四本、契約が決まりました! 」

 おお~という声と一緒に拍手が上がる。純だけが、それに続かない。

「これね、すごいことですよ! グループのイメージがいいってことだし、知名度がもっと高くなるチャンスなので、頑張ってくださいね。で、これが最後」

 興奮していたプロデューサーはせきばらいをし、あらためて声を張る。

「今年、夏! イノセンスギフト、二大都市でライブ開催決定しました! 単独でアリーナレベルの規模です!」

 メンバーとスタッフから、大きな歓声が上がる。
 規模の大きいライブを開催できると聞けば、手をたたいて喜ぶのも当然だ。アイドルでありアーティストという立場なら、これほどまでに嬉しい知らせはない。

 そんな中、純は眉をひそめ、ますます考え込んでいた。

「イノセンスギフトほどの人気なら、ほんとうは全国ツアーも展開できると思います。でも、メンバー全員、まだ学生ですからね」

 純の視線が、斜め前の席に向かう。喜び、笑顔を浮かべるメンバーの中で、違和感のある者がいた。

 氷川ひかわかなめは、先ほどから純と同じように微妙な表情を浮かべ、腕を組んでいる。

 ワンレンショートのボブヘアで、華奢きゃしゃな体つき。目元のほくろが色っぽい高校二年生だ。

 純は要に視線を向けつつ、頭を回転し続けていた。

「いやあ、すごいですよ、みなさん。ファンクラブの人数も順調に増えてますし。このままいけばスターになるのも夢じゃないですね」

 プロデューサーの言葉に、首をかしげた。漠然とした不安が、純を襲ってくる。

 覚えるダンスが多くなるとか、負担が増えるとか、そのレベルの不安ではない。もっと深い場所にしこりが残るような不安だ。不安の正体がなんなのかはうまく説明できない。

「純くん……」

 となりに座る竜胆りんどう歩夢あゆむが、ひっそりと声をかけてきた。女の子のようなかわいらしい顔に、もの悲しい表情が浮かんでいる。

「どうしたの? 体調、よくない?」

 身長の低さにくわえて上目遣い。女性ファンだけでなく、男性相手にもときめかせる力がある。

「……いや」

「そうだよなぁ。星乃はこの中じゃ、一番大変だからなぁ。気が滅入るよなぁ」

 プロデューサーの隣に座る熊沢が、これ見よがしに言い放った。

「ダンスも歌も覚えることがたくさんあるし、仕事量も今まで以上に増えてくる。なんにもできないおまえが一番苦労するのは目に見えてるよなぁ」

 壁際にたつスタッフから、熊沢に同意する攻撃的な視線が向けられる。

「そのくせ、高校は名門の輝優館きゆうかんだろ? いい成績おさめないと卒業できないもんなぁ? 大人しくタレントコースいってたらこんな状況にはならなかったのにな?」
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