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「それで、これなんですけど」
試練の日の翌日は休日になっていた。それはそうだ。みんなへとへとで、通常授業なんて受けられる体力は残っていなかった。そんな中、あたしは深雪ちゃんの部屋の天蓋付きベッドの上で寝っ転がっていた。深雪ちゃんに自分の耳が変化した様子を見せたかったからだ。赤石くんにも見せるつもりでいたんだけど、休日だってのに先生に呼び出されてなにやら用事があるらしい。赤石くんには後日見せることにして、深雪ちゃんに先行公開することにした。それに、パジャマでベッドの上で友人とごろごろする、ちょっとしたパジャマパーティみたいでちょっと楽しい。
「それで、先生たちの声が聞こえたん?」
「はっきりと、です。これやっぱり鹿じゃないですよね?」
「ううん……鹿も、耳はええとは思うけどなあ。けどそんな耳の形ちゃうよなあ」
深雪ちゃんは腕を組んで首をひねった。あたしも、こんな動物は思いつかない。といっても世界は広い。あたしたちはこの世界に生きてる全部の動物を把握しているわけでもないし、もしかしたら世界のどこかにこんな特徴をもった動物が居てもおかしくない。
「あたしがなんの動物かって、詳細に分かる方法ってないんですか? というよりそもそも、皆さんはどうやってわかったんですか?」
深雪ちゃんはもこもこした生地のパジャマの袖口を擦っている。毛玉一つないそれは、特別に仕立てられパジャマだと思う。そして今、あたしが貸してもらっているパジャマも極上の肌触りだ。普段着用している寮に用意してもらったパジャマに不満があるわけじゃないけど、一度これを着てしまったら元に戻れなさそうで怖い。
「方法は二つ。一つは、遺伝子テストで科学的に分析する。だけど、これをやるのは限りなく低い。ここ数十年起きてない」
「なんでですか?」
「完全に能力が開花するのは十二、十三くらいで、それを待たんと分析はできん。けど、それを待たなくても――わかるんや。これはもう、感覚的なもんなんなんやけど、十三歳に近づくにつれて、わかってくるんや。例えばやけど、うちやったら、水中が気持ちええなあ、水の生き物や、魚ではないな――で、ある日、自覚するんや。あたしはイルカやって」
自覚した時、まるで自分の世界がすんごく広がったみたいに、光がいっぱいに満ち溢れた世界をみたような気分になるんよ、と深雪ちゃんは瞳を輝かせている。
「そうやって能力を自認して、能力を引き出せるようになることを『完全解放』っていうんや。これで、晴れて入学やな。入学までに間に合わんかったら、遺伝子テストを受けて、あなたは何々の動物です、とか宣告してもらうらしいんやけど」
テラスからの光を柔らかく受け止めた、ベッドを覆う白いレースの天蓋を、心地よく風が揺らしている。
「今、ちとせは『自分は鹿のような何かなのかも』って自認してる程度やろ。やから、完全解放には至ってないんや。もし完全解放したいと思ったなら、手っ取り早いのは遺伝子テストやけど……」
「それをすると、あたしが能力持ちってばれちゃいますね」
深雪ちゃんはこくりと頷いた。だからあたしは自分がなんなのか、やっぱり誰かに頼ることなく、自分自身で追求しなきゃいけないんだ。自分と向き合い続けながら、それを誰かにばれることなく続けなくちゃいけない。
異世界のようなこの学院で、あたしは今、とても楽しく過ごしているけど、自分の昔と向き合い続けることをやめちゃいけないんだ。
「ま、そんな辛気臭い顔せんでや! もっと大事なことしたいねん、うち」
「大事なこと?」
なに? とあたしがごくりと唾を飲み込むと、ふっふっふ、と深雪ちゃんは徐にベッドから立ち上がり、壁に掛けられていた大きな布を取っ払った。
「ちとせの私服バリエーション増やそうの会! とっておきから選んでや!」
……憧れのパジャマパーティは、あっという間にお着換えパーティに変化してしまった。
試練の日の翌日は休日になっていた。それはそうだ。みんなへとへとで、通常授業なんて受けられる体力は残っていなかった。そんな中、あたしは深雪ちゃんの部屋の天蓋付きベッドの上で寝っ転がっていた。深雪ちゃんに自分の耳が変化した様子を見せたかったからだ。赤石くんにも見せるつもりでいたんだけど、休日だってのに先生に呼び出されてなにやら用事があるらしい。赤石くんには後日見せることにして、深雪ちゃんに先行公開することにした。それに、パジャマでベッドの上で友人とごろごろする、ちょっとしたパジャマパーティみたいでちょっと楽しい。
「それで、先生たちの声が聞こえたん?」
「はっきりと、です。これやっぱり鹿じゃないですよね?」
「ううん……鹿も、耳はええとは思うけどなあ。けどそんな耳の形ちゃうよなあ」
深雪ちゃんは腕を組んで首をひねった。あたしも、こんな動物は思いつかない。といっても世界は広い。あたしたちはこの世界に生きてる全部の動物を把握しているわけでもないし、もしかしたら世界のどこかにこんな特徴をもった動物が居てもおかしくない。
「あたしがなんの動物かって、詳細に分かる方法ってないんですか? というよりそもそも、皆さんはどうやってわかったんですか?」
深雪ちゃんはもこもこした生地のパジャマの袖口を擦っている。毛玉一つないそれは、特別に仕立てられパジャマだと思う。そして今、あたしが貸してもらっているパジャマも極上の肌触りだ。普段着用している寮に用意してもらったパジャマに不満があるわけじゃないけど、一度これを着てしまったら元に戻れなさそうで怖い。
「方法は二つ。一つは、遺伝子テストで科学的に分析する。だけど、これをやるのは限りなく低い。ここ数十年起きてない」
「なんでですか?」
「完全に能力が開花するのは十二、十三くらいで、それを待たんと分析はできん。けど、それを待たなくても――わかるんや。これはもう、感覚的なもんなんなんやけど、十三歳に近づくにつれて、わかってくるんや。例えばやけど、うちやったら、水中が気持ちええなあ、水の生き物や、魚ではないな――で、ある日、自覚するんや。あたしはイルカやって」
自覚した時、まるで自分の世界がすんごく広がったみたいに、光がいっぱいに満ち溢れた世界をみたような気分になるんよ、と深雪ちゃんは瞳を輝かせている。
「そうやって能力を自認して、能力を引き出せるようになることを『完全解放』っていうんや。これで、晴れて入学やな。入学までに間に合わんかったら、遺伝子テストを受けて、あなたは何々の動物です、とか宣告してもらうらしいんやけど」
テラスからの光を柔らかく受け止めた、ベッドを覆う白いレースの天蓋を、心地よく風が揺らしている。
「今、ちとせは『自分は鹿のような何かなのかも』って自認してる程度やろ。やから、完全解放には至ってないんや。もし完全解放したいと思ったなら、手っ取り早いのは遺伝子テストやけど……」
「それをすると、あたしが能力持ちってばれちゃいますね」
深雪ちゃんはこくりと頷いた。だからあたしは自分がなんなのか、やっぱり誰かに頼ることなく、自分自身で追求しなきゃいけないんだ。自分と向き合い続けながら、それを誰かにばれることなく続けなくちゃいけない。
異世界のようなこの学院で、あたしは今、とても楽しく過ごしているけど、自分の昔と向き合い続けることをやめちゃいけないんだ。
「ま、そんな辛気臭い顔せんでや! もっと大事なことしたいねん、うち」
「大事なこと?」
なに? とあたしがごくりと唾を飲み込むと、ふっふっふ、と深雪ちゃんは徐にベッドから立ち上がり、壁に掛けられていた大きな布を取っ払った。
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