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目を開けた瞬間、まるで天上から天使がお迎えにきたのかと勘違いするところだった。
「あ、起きた、起きた! 一世、起きたで!」
全身真っ白な美少女が、あたしを覗き込んでいる。つやつやで純白の髪の毛が寝転んでいるあたしの真上にさらさらと降りかかってきた。
まるで夢みたいな光景に本当にびっくりして、何も言えずに固まっていると、その美少女の後ろからまた別の誰かが現れた。
「深雪様。そのようにいきなり話しかけられては、混乱しているご様子です。まずは状況を整理しませんと……」
「せやけど一世! この子、三日も目ぇ覚さへんかったから、めーっちゃ心配しとって」
「深雪様のお気持ちよりも、まずは彼女の体を心配すべきですよ」
皴一つない真っ黒なスーツに身を包んだ、丁寧な口調の男性は、深雪と呼ばれた美少女の興奮を抑えてくれたみたいだ。あたしは内心ほっとした。寝起きに大きな声で、それも突然知らない人に話しかけられて、なんて答えたら良いか分からなかったから。けど、彼女が目一杯心配してくれているのは、あたしが目を覚ました瞬間のすごく嬉しそうな顔を見たらすぐに分かった。
「ごめんなあ。あんたの体調考えられんくて」
深雪ちゃんは助言をまっすぐに受け取る素直な女の子みたいだ。名前と、とびきりの美少女ってことしかわからないけれど、この子と友達になってみたいなってあたしはすぐに思った。きっとすごくいい子なんだろうなって。
あたしが黙り込んで深雪ちゃんを見つめていると、ソワソワした深雪ちゃんはちょっとだけ声のボリュームを抑えてくれた。
「そんで、色々聞きたいことあるんやけど……あんた、名前なんて言うん?」
ずっと聞きたくて堪らなかったんだろう。深雪ちゃんはすごく綺麗な黒曜石みたいな瞳をキラキラさせている。
それに釣られてあたしは、深雪ちゃんの期待にすごく応えたくなって、咄嗟に名乗ろうと口を開いた。
けど、ポカンと開けた口から、何も音が出せなかった。パクパクと、唇を動かして、頭の中から今言うべきあたしの名前を引き出そうとしたのに、口からは空気の音しか出てこない。カサカサに乾いた唇を何度も動かしてみたけど、次第に上手に動かせなくなってしまった。
「どした? 名前言いたくないん? 言えない理由があるん?」
美人な女の子は困った顔をしても美少女のままなんだなあ、なんてすごくこの状況に不釣り合いだけど思っちゃった。あたしは生唾をごくりと飲み込んで、カラカラに乾いていた喉をちょっとだけ潤して、小さく口を開いてみた。あー、とためしに喉から音を出してみる。
びっくりした。あたしって、こんな声なんだ。
ん? なんであたしそんなこと思うんだろう。自分の声なのに、自分の持ち物なのに、まるで初めて聞いたみたいな反応をしちゃったから、あたしは浮かんじゃった疑問をするすると、そのまま口から出してしまった。
「あの、あたし……あたし、誰なんでしょうか」
あ、やっちゃったかなと後悔した。
困り顔で眉毛を下げていた深雪ちゃんは、みるみるうちに元々大きくてキラキラしていた瞳をまんまるにさせて、それから。
「えーー!」
と、絶叫した。
今度こそ耳が壊れちゃうかと思って、あたしはぐるりと目を回した。
「あ、起きた、起きた! 一世、起きたで!」
全身真っ白な美少女が、あたしを覗き込んでいる。つやつやで純白の髪の毛が寝転んでいるあたしの真上にさらさらと降りかかってきた。
まるで夢みたいな光景に本当にびっくりして、何も言えずに固まっていると、その美少女の後ろからまた別の誰かが現れた。
「深雪様。そのようにいきなり話しかけられては、混乱しているご様子です。まずは状況を整理しませんと……」
「せやけど一世! この子、三日も目ぇ覚さへんかったから、めーっちゃ心配しとって」
「深雪様のお気持ちよりも、まずは彼女の体を心配すべきですよ」
皴一つない真っ黒なスーツに身を包んだ、丁寧な口調の男性は、深雪と呼ばれた美少女の興奮を抑えてくれたみたいだ。あたしは内心ほっとした。寝起きに大きな声で、それも突然知らない人に話しかけられて、なんて答えたら良いか分からなかったから。けど、彼女が目一杯心配してくれているのは、あたしが目を覚ました瞬間のすごく嬉しそうな顔を見たらすぐに分かった。
「ごめんなあ。あんたの体調考えられんくて」
深雪ちゃんは助言をまっすぐに受け取る素直な女の子みたいだ。名前と、とびきりの美少女ってことしかわからないけれど、この子と友達になってみたいなってあたしはすぐに思った。きっとすごくいい子なんだろうなって。
あたしが黙り込んで深雪ちゃんを見つめていると、ソワソワした深雪ちゃんはちょっとだけ声のボリュームを抑えてくれた。
「そんで、色々聞きたいことあるんやけど……あんた、名前なんて言うん?」
ずっと聞きたくて堪らなかったんだろう。深雪ちゃんはすごく綺麗な黒曜石みたいな瞳をキラキラさせている。
それに釣られてあたしは、深雪ちゃんの期待にすごく応えたくなって、咄嗟に名乗ろうと口を開いた。
けど、ポカンと開けた口から、何も音が出せなかった。パクパクと、唇を動かして、頭の中から今言うべきあたしの名前を引き出そうとしたのに、口からは空気の音しか出てこない。カサカサに乾いた唇を何度も動かしてみたけど、次第に上手に動かせなくなってしまった。
「どした? 名前言いたくないん? 言えない理由があるん?」
美人な女の子は困った顔をしても美少女のままなんだなあ、なんてすごくこの状況に不釣り合いだけど思っちゃった。あたしは生唾をごくりと飲み込んで、カラカラに乾いていた喉をちょっとだけ潤して、小さく口を開いてみた。あー、とためしに喉から音を出してみる。
びっくりした。あたしって、こんな声なんだ。
ん? なんであたしそんなこと思うんだろう。自分の声なのに、自分の持ち物なのに、まるで初めて聞いたみたいな反応をしちゃったから、あたしは浮かんじゃった疑問をするすると、そのまま口から出してしまった。
「あの、あたし……あたし、誰なんでしょうか」
あ、やっちゃったかなと後悔した。
困り顔で眉毛を下げていた深雪ちゃんは、みるみるうちに元々大きくてキラキラしていた瞳をまんまるにさせて、それから。
「えーー!」
と、絶叫した。
今度こそ耳が壊れちゃうかと思って、あたしはぐるりと目を回した。
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