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第五章「農業はスローだけどハードである」

21.そう言えばこの薬師ドジだった

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 種まきから日にちが経ち、野菜畑は芽が生えてきた。その様子を見てハルは驚く。
 「まだ一週間しか経ってないのにもう生えてくるんだ、早いね」
 「そりゃ、魔力を込めたからな。あの土には植物をよく育てようとする魔法がかかってんだよ」
 「へぇ~魔法も色々ね」
 「この世界、望めば魔法を取得することは可能だからな。実用的な魔法の方が多い」
 魔法と言えば攻撃魔法や治癒魔法しか思い当たりが無いハルにとって、ショコラが説明した物は目から鱗が落ちる物だった。
そう言えば、図書館の魔道書の中にまだ読んでいない物があったならとハルは思い出し、帰ったら読もうと決めた。

とハルが考えているとショコラが聞いてきた。
 「ところでハル。薬草畑の方はどうだ?」
 「さっき確認に行ったけど、結構成長していたから色々刈り取って今一部干してんの。レイラ曰く『ポーションとかは薬草のエキスを使うからそのままでもいいけど、風邪薬とかは基本干したり煎じたりするのが常識』って」
 「風邪薬か」
 「もっと言うなら解熱剤とかだけどね」
レイラは今ポーションだけで無く、いわゆる風邪薬という類のものも研究している。ポーションはあくまで傷を癒す物にすぎず、風邪まで治すことは出来ない。風邪が流行り出す時期にはまだまだ遠いが、レイラは「先に見通す事が大事ですよ」と研究を開始した。

 「うーん、薬のことになると一気にレイラは人が変わるな」
 「はい。それにショコラさんがこの前リディルで今家庭菜園がブームって言ったとき、レイラさん、張り切っちゃって」
 「つまり何か作ろうとしているのか」
 「はい、ショコラさんが促成魔法をかけたようにいわゆる『促成剤』を作ると張り切っちゃって、おかげで畑の面積が増えましたよ」
 「まぁ、レイラはそう言うところあるよなぁ」
やれやれとハルは溜息をつき、ショコラはそれを見て苦笑した。


 さらに数日後、野菜畑担当の皆とハルは野菜畑の前に集まっていた。
 「ショコラ様、今日は何をするのですか?」
 「間引きだよ」
 「間引き?」
 「うん。たくさん芽が出ているが全てを成長させると野菜に充分な栄養が渡らない。だから、よく育ってる物を残して他を取るんだ」
 「間引いた芽はどうするのですか?」
 「うーん……なぁ、ルビィこれらを材料にすることはできるか?」
 「と、言われましても……少し小さすぎじゃ無いですかそれ。せいぜい飾り付けか和え物にするかですよね……」
ルビィのその発言を聞いて、他のメンバーは(いや、出来るかよ!)と突っ込んだ。しかしショコラは嬉しそうだ。
 「そうかじゃあ頼むな、早速間引いていくぞ」
その一言をきっかけに全員間引きを始めた。


 「あー……疲れた」
 「そりゃ人数も多いから普通に時間もかかりますって」
全ての間引きを終えた5人はクタクタとは言わないもの疲れており、草原で寝転んでいた。
 「にしても多いな、3分の1ぐらいは取ったと思うが」
 「そりゃあんだけ畑が大きかったら当然でしょうに」
 「確かに」
そう言って皆笑い合うが、その発言にとあることに気づいたセレネがハルに聞いた。


 「間引きで気づいたのですが……ハル様、薬草の方は間引かなくていいのですか?」 
 「間引きね……薬草の方は特に問題無いってレイラが言ってたし」
 「そうなんですか?」
 「うん。レイラによると『薬草は生長に必要な養分をたくさん持っているから問題なし』とのことです」
 「まぁ薬草と野菜は違うからな」
 「ために成ります。さすが薬師は違いますね」
 「そうよねぇ」
そんな感じでほのぼのと過ごしていたが、ここでレイラがやって来た。

 「ショコラさーん! ハルさーん!とうとう完成しましたよ!」
 「とうとうってなにが?」
 「へっへっへー、見てくださいよ! 何と!『植物促成薬』が出来たんです!」
 「おお、凄いじゃ無いか! やったなレイラ!」
 「へー、凄いじゃん」


 レイラが新たに作ったものを見て感心する2人に他の3人も何事かと顔を上げる。
瓶に入っていたのは緑色の澄んだ液体であり、丸い瓶の半分くらいは入っていた。
 全員くらいついたことにレイラは気を良くし、さらに続ける。
 「これを使って植物育てるとあっ! という間にとはいきませんが、けっこう早く育てられるのですよ! 薬草畑で効果は既に実証済みですから!」
 「薬草のことになるとホントにアンタは怖いわ……凄すぎて……」
 「はい! というわけで早速こちらの方にも使いますか?」
  「ああ、効果がどのくらいか気になるしな」
そう言い、レイラは畑の方に進んでいく。


 しかし、全員忘れていた。レイラは薬草や薬以外のことは基本ポンコツであると言うことを。

そう、レイラは畑の前にあった石に躓き、その畑に薬の中身を原液ごと全てぶちまけたのだった。
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