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本編
騎士の誓い
しおりを挟む「あ、でも……結婚後も王家の夜会でのお仕事はしたいです」
駄目かしら、とフリードリッヒを上目に見つめるとフリードリッヒは小さく笑った。
「ああ、人手不足だからな。妊娠中以外なら無理のないように参加したらいい」
フリードリッヒの返答にほっとした。引退したあとは家庭を守ってほしいと希望する男性騎士は結構いるのだと引退した女性騎士に聞いた。また、フリードリッヒが懸念したように妊娠中でもお腹が目立たないうちは迷惑をかけてはいけないと無理して参加しがちなのだという。
「他は?」
「あの……私みたいな子供のどこを好いてくださったんですか? 何だか信じ難い気持ちで……」
「酷いな。愛していると言っているのにな」
口の端を引き上げて茶化したように言う。楽な口調で話してくれていることにも驚きつつ、フリードリッヒを見つめて続きを話してくれるのを待つ。
「一緒にいて心地いいんだ。一生懸命なところがかわいくて、健気で、綺麗なんだ。君のふんわりとした空気がおちつく。可愛いと綺麗のバランスがちょうどいいんだろうな」
言い終わると、額にちゅっと軽くキスを落とす。甘い声で囁かれて喜びに震えるように甘く疼いた。
「アマーリエ」
囁いてアマーリエをしっぽりと抱きしめる。は、と漏らす吐息は甘く歓喜に震えるようだった。
アマーリエは応えるようにおずおずと腕をフリードリッヒの背中に回した。
(温かい、団長……気持ちいい)
しばらく抱き合ってフリードリッヒはそっと身を離す。体が離れて少し寂しく思うが気持ちを確かめ合った今は、確かめ合ったという事実がアマーリエを支えてくれる。
「アマーリエ、少し待っていて」
フリードリッヒは壁にかけていた剣を取り、アマーリエの前に片膝をついて跪く。
「あなたに私の剣を捧げる。愛と誠心を捧げ、生涯あなただけを守る騎士とならんことを誓う。許されるなら剣を」
恭しくささげられた剣をアマーリエはそっと取って柄に口づける。
フリードリッヒの剣を抱きしめて
「生涯を共にいたします、フリードリッヒさま」
フリードリッヒに微笑んだ。フリードリッヒは噛み締めるように目を細めて、アマーリエを見つめて手を伸ばす。
アマーリエはフリードリッヒに導かれるまま剣を抱いた格好でフリードリッヒの腕に納まる。フリードリッヒの腕に抱かれて、肩口に頬を寄せていた。
(フリードリッヒさま……ずっと、ずっとお側にいます)
鼓動が打ち震えるように拍動を早めた。震える鼓動から滲み出たのは喜びと恥じらいだった。
先ほど愛していると言われて誓いをたてた。
騎士の叙任式の誓いと似ているが、先ほどのは騎士が愛する人に生涯の誓いをたてる――つまり、結婚の申し入れだ。
(夢みたい。嬉しい)
まだ誓いの余韻の覚めやらぬうちに身を寄せ合えば、いつも以上にフリードリッヒの温もりを感じて、胸の中に熾る熱に頬を染めた。
本当だったらこんな薄着で男性に抱きしめられてはいけないのに、ずっとこうしていたいという気持ちになってしまう。
「アマーリエ」
「団長」
束の間見つめ合って唇を合わせる。フリードリッヒの感触と熱がアマーリエに伝わってきて、愛しくて鼓動が甘く疼く。
「本当だったら、結婚まで触れないものなのだろうけど……気持ちが抑えられない」
アマーリエを見つめて乞うように切なげにフリードリッヒに訴えられ、アマーリエはほんのりと喜びに身を染めて頷いた。
「はい。私も……待っていました。私なりに綺麗にして待っていましたから……団長、キスしてください」
抱いてとは言えなくて、迷って少しはしたないおねだりをすると唇を重ねられる。
フリードリッヒはアマーリエをまっすぐに見つめて熱く囁いた。
「じゃあ、続きをしよう」
「はい、団長」
フリードリッヒはアマーリエを横抱きにしてベッドへ座らせる。剣をサイドチェストに置いてアマーリエを見つめる。
フリードリッヒの瞳の色は夕暮れに空がだんだんと深い青に覆われて、月光の黄金色と混ざり合ったような薄明の色だ。静かで美しい神秘的な眼差しは、今は冷淡さよりもどこか熱を帯びて感じる。醸す空気が濃密になるような変化を肌で感じる。フリードリッヒの男の色香に首筋や背筋を撫でられてアマーリエはくらくらしそうになった。アマーリエが「団長」と囁くと目に焔が翻る。
「んっ……」
唐突に口付けられた。今度は甘噛みするように唇を合わせた。フリードリッヒの舌がアマーリエの舌を撫でるように絡まると背筋にぞくぞくとしたものが走った。
「ふっ……んっぅ……」
(ああ……薔薇の雫とか飲んでないのに、もう気持ちいい)
戸惑いに目を瞬かせると瞼を閉じたフリードリッヒの顔が見えた。常の平静な顔ではない。閉じた瞼にはどこか余裕のなさを感じられて、そのことに何ともいえない疼きを胸の奥に感じた。かっと熾る熱に身を熱くして、熱に溶けるように瞼を閉じた。
(フリードリッヒさま)
今まで何度もキスしてきて、体は確実にフリードリッヒの与える快楽を拾い上げている。
目を閉じると一層フリードリッヒの与える唇の感触を感じいる。合わされた唇や、アマーリエの口の中を蹂躙するように撫でるフリードリッヒの舌は、最初の時のように激しい気がするのはアマーリエの気のせいだろうか。アマーリエの歯列や舌の裏はむろんのこと、さらに深いところまでフリードリッヒの舌が追い立てるようだ。
「ふっ……んっん……だん、んっ……」
名を呼ぶことすらできない。唇も舌も吸い上げられ、互いの唾液の絡む水音がアマーリエの耳にも届く。
名を囁く声すらもフリードリッヒは吸い上げ絡めとり、アマーリエの口腔内を激しく撫で回すようになぞっていく。なぞられる度にぞくぞくと腰の辺りが震えた。時折きゅっと下腹部が甘く疼く。身体が熱く火照って腰がぞくぞくと震えるのが止まらなくなる。息が上手く吸えなくて意識がぼんやりと霞がかかりはじめた。
フリードリッヒはアマーリエの唇や口腔内を舐めとりながら
「っ……アマーリエっ……」
アマーリエの名を呼びながら唇を合わせることを止めない。途中に漏れ聞こえる喘ぐような短い呼気に、腰を撫で上げるような悦楽が走った。ぞくぞくとした感触よりももっと直接的にアマーリエに触れる感触だった。
「は……ぁ……」
唇を離されたが、アマーリエはぼんやりと意識を霞ませてフリードリッヒを見上げていた。
フリードリッヒの腕の中ではしたなく息を荒げて喘いでいた。
息を荒げるアマーリエの背をフリードリッヒは労わるように撫でる。優しい手の感触に胸の奥が捩れるように疼いて余韻を残す。
フリードリッヒは撫でていた手をアマーリエの首の後ろに回した。
その手でアマーリエの髪を梳く。
「団長は、私の髪をよく触りますよね」
「指触りがすごく気持ちいいんだ」
髪を一房とって口づける。
「そうですか? 癖っ毛でたまに髪がまとまらなくて困ります」
「そう? いつもきっちり括っているから、よくわからなかったけど」
「騎士になったらきちんと髪を括っていないといけない気がして、十五の年には剣よりも一生懸命練習してから来ました」
実際騎士になってから先輩に「普段は纏まっていればいいのよ。きっちり括らないといけないのは王族の護衛中だけ」と言われてちょっとがくっとしてしまった。
「任務中きりっとしているのも、騎士のイメージから?」
「そうです。騎士はいつもきりっと恰好いいものだと思っていますから。昔、実はお兄さまたちの巡視姿を見に行ったことがありまして、やっぱりカッコいいなぁって、私もああなりたいって憧れていました。理想の騎士にはなれていませんけど、騎士でいられてすごく幸せです。できれば結婚するギリギリまで騎士でいたいです」
「基本的に末日に退職するものだから、式は月初めにできるようにするよ。まあ、日程は辺境伯とも相談しなきゃいけないけど」
「はい。ありがとうございます」
自分かフリードリッヒに身を寄せて唇に軽くキスをする。フリードリッヒもキスを返してくれる。軽くついばむように何度か繰り返す。そのうちに再び空気が密になるような官能的な空気の変化を肌に感じた。
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