【完結】【R18】女騎士はクールな団長のお役に立ちたい!

misa

文字の大きさ
上 下
66 / 81
本編

真珠 ●

しおりを挟む





 アレックスは不思議そうにフリードリッヒを見て首をかしげつつ眉根を寄せる。



「フリードリッヒはアマーリエ嬢のこと好きなんだろ? アマーリエ嬢のこと宝石に例えたりはしないの?」

「お前ほど夢見がちロマンチストになれんよ。というか、お前はまずアンナに想いを知ってもらうことから始めろ。金云々はそれからだろう?」



 借金を返すためにアンナは騎士になった。大体二十歳の年まで働けば領地からの収入とあわせて返せるらしいので、あと三年を切ったところだ。フリードリッヒからみて、アンナはアレックスを嫌ってはいない。むしろ好意的だが、それが男女の情かと言えば否定せざるを得ない。

 そのうちアレックスが望むように男女の恋情へなればと思うが、まだ兆候の片鱗もない。アレックスが影の努力をしすぎるから、気づかれないのも無理はない。敏いとはいえまだ十八の娘だから、もう少しアピールしないと何も生まれないと自戒を込めて思う。



「何言ってんだよ。今、アンナは借金返すことに集中してるんだから、今好きだって言っても応えてくれるわけないじゃないか。あと二年かけて頼りがいを演出しつつ、アンナの一番近い場所を維持し続けて、借金が片付いたころにやっと俺との将来を考えてくれるかどうかなんだぞ。その時に金がなかったら、田舎屋敷の改修費用も町屋敷の購入費用も出せないし、エレナのデビューの援助もしてあげられない。今から金をためつつ準備しなくちゃ間に合わないんだよ、俺とアンナの幸せな未来のために」



(演出しつつというあたりはせせこましいと言ったら、アレックスは荒れるだろうか……)



 ファーゼン子爵家では、借金を返すため田舎屋敷のゲストルームの家具などの調度品を売ってしまったそうだ。維持費のかかる町屋敷をはじめ、ドレスも貴金属も金に換えられるものは全て金に換えて、それでも残った借金の為に幼い妹たちと倒れた母親を置いて当主のアンナが働きに出た。……という事情があったとアレックスから聞いている。

 そこまで貢つもりなのかと驚きつつも、もしアマーリエが同じ境遇だったら同じことをしそうだと思うので止めはしない。思う相手に尽くすのはアレックスの一族の特徴だ。



「というかアンナに今好きって言っても「アレクは友達だよ」と笑顔で言われるのは目に見えてるんだ。告白するか、叔母さま侯爵夫人に一言いえば丸く収まるフリードリッヒとは違う」



 身もふたもない言い方をするアレックスに、今度はフリードリッヒが眉根を寄せる。



「収まらんよ。お前はうちの事情は知っているだろう?」

「叔母さま侯爵夫人とお婆さまのことだろう? ……別にいいんじゃない? 俺の母親は「結婚相手は自分で探せ。成人してまで親に頼るな」って言うくらい息子の生活全般手を離し自由にさせてるけど、叔母さま侯爵夫人はフリードリッヒ溺愛している熱心な方なだけじゃないか」

「私は手を離したそういう感じが良かったんだがな……」



(ままならないものだ)



 母親であるバルツァー侯爵夫人カサンドラは最愛の夫にそっくりな息子を溺愛している。フリードリッヒを深く愛しすぎて第二子ができるまで六年かかったといわれているほどだった。

 フリードリッヒとしてはアマーリエの望むようにしてやりたい。



『何としても自分で見つけたいです。政略結婚は嫌ですから』



 最初に母が動けば家同士の結婚政略結婚になるだろう。祖母が動けば王命にまで発展する可能性もある。少なくともヴェッケンベルグはそう受け取りかねない。家同士の結婚政略結婚はアマーリエの望むところではない。



「女性が自由にできる時間は少ないだろう? アマーリエは騎士になりたいと夢と希望を抱いて入団してきた。結婚するということは退団する騎士をやめるということだ。アマーリエは今そうなることを望んではいないだろう。私は結婚を焦ってはいない。いっそ辺境伯夫人の期限まで待つのもいいと思っている」



 ギュンターは穏やかにフリードリッヒを見ていた。穏やかな中に、フリードリッヒを見極めようとする強い意志を感じた。



「フリードリッヒ、アマーリエを宝石に例えたら何だと思う?」

「お前も聞くのか? 考えたことがないのだがな」

「アマーリエに沢山ドレスや宝石を贈ってくれているから、てっきりイメージがあるのだと思っていたよ。……じゃあ、今考えてみて」



 答えるまでギュンターは引かないだろう。

 アマーリエの姿を思い浮かべる。金色の綺麗な髪に青く澄んだ瞳はぱっちりとしていて、溌剌な印象を与える。白く、しっとりと吸い付くような柔らかな肌の感触も温もりも知っている。



「好意を抱かれても不愉快ではなく、寄ってこられても気が引けることもなく、むしろとても心地いい。アマーリエは可愛いと綺麗のバランスがちょうどいいんだろうな。私には心地よい奇跡のバランスで存在している。……そういう意味で例えるなら真珠ペルレ……かな」



 真珠は貝の体内で生成される宝石で、天然では産出が稀で「月のしずく」とも呼ばれるほどの美しい光沢に富む。

 フリードリッヒを慕うだけでなく、程よい距離まで近づいて来れるのに恥じらって頬をうっすらと染める。でも懸命に話をしてくれるのが愛らしくもいじらしくもあり、美しくもある。懸命に話をするさますら愛らしく、美しい。少女らしい無邪気な愛らしさとひたむきな美しさを感じて見とれてしまう。

 アマーリエを守ってやりたいし、好きにさせてやりたいと思っている。ただ行動を制限するとアマーリエらしい輝きが失せてしまいそうで怖いという思いもある。



「フリードリッヒ……君も心得ているようだね。安心したよ」



 心底安心したように穏やかに告げた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

処理中です...