【完結】【R18】女騎士はクールな団長のお役に立ちたい!

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本編

妹至上主義(シスコン) 1●

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「ヴェッケンベルグ辺境伯家は建国以来続く武門の名門だ。ラーヴェルシュタイン王国の領土拡大によって西へ西へと本拠地を移してきた先祖の苦労は並々ならぬものだったと思う。先祖代々積み重ねられてきた歴史の重みは跡継ぎとしてひしひしと感じているんだ。ヴェッケンベルグ一族がここまで続いてきた秘訣は何か? それは家族を、そしてついてきてくれる家臣たちを愛したからだ。愛が絆を紡ぎ、結束となり、それらが総じて数多くの敵を斬り捨ててきた剣となり、数多くの侵略を防いできた盾となった。先祖の紡いできた歴史を、想いを、次の世代に伝えていく。それが次期辺境伯たる私に課せられた使命だと信じている。ヴェッケンベルグの輝ける歴史の中で最も存在感を放つ宝石はアマーリエだ。ヴェッケンベルグの正義を心に宿し、厳しいことでも正義に基づいて行える清き心を持ち合わせている。すこし頑固なところもあるが、明るく素直で頑張り屋さんで、誰にでも好かれる才能にあふれている。ああ、言葉で良さを並べ立てることは簡単だ。アマーリエは素晴らしさであふれている。しかし「妹至上主義シスコンから足を洗え」などという不信心者を前にすると、私は胸が苦しくなるよ。妹を愛するという人として当たり前の心を持てない心の貧しい者の哀れさに、そして私のつたない言葉では改心させてやれない不甲斐なさに。だが、私は知っている。アマーリエの溢れる愛らしさを、輝きを。存在が可愛い。そこに存在しているというだけで尊いという存在を。己の忸怩たる心を堪えて踏みとどまって、信心を伝えていけば「妹至上主義シスコンから足を洗え」などという哀れな子羊にも新たな世界が開けると信じている。アマーリエは建国以来続くヴェッケンベルグの至宝と言っていいと確信している。妻帯した、それだけで妹を大切に思う心を捨てるなど神に唾吐くごとき行為。まさに罪でしかない。

一方でヴェラ――妻はできた女性だ。明るくふんわりとした輝きで私を癒してくれる。「妹至上主義シスコンから足を洗わせろ」などと、信仰を捨てさせようとする悪魔の圧力にも「私、妹大好きなギィさまも好き」と健気な心で悪魔の言葉にも惑わされない。正しく美しい心はまさにヴェッケンベルグの空よりも広く美しい。まさにヴェッケンベルグの女神フライアと言っていい。さらに「アマーリエかぞくの肖像画を飾ってもいいのよ。でもねえ、私、ギイさまの肖像画がお隣に欲しいなぁ」と可愛いことを言ってくれるんだ。何て愛らしい! もしや女神フライアではなく小悪魔トイフェルヒェンか?! ああ、家族を愛する気持ちを捨てなくていいと言ってくれているヴェラを、私は心から愛しているんだ。

だからね、妻と妹どちらが大切かという質問は、この世で最も愚かで罪に値する質問の一つだと確信している。どちらが好きかという腐った愚問にはもううんざりなんだ! 妻が大切だったら妹が大切ではいけないのか? 逆も然り! 愛を比べるようなバカげた質問をする奴は、どれだけ愚かなのか。もう残念だとしかいえない。心の貧しさが現れている。妻帯した、年を重ねた、気が強い……などと下らないことを言い訳に妹を愛する心を持てないなど怠惰だ。まさに信仰を捨てた異端者にすぎない。そんな異端者は神と国王陛下の名のもとに、拳でもって改心させるべきだと思わないか? 我が友よ」



 滔々と時に真剣に、時に笑顔で語った友人の顔をとくと見つめて問いかけた。



「つまり何かな……いい加減、妻帯したのだから妹至上主義シスコンから足を洗え。部屋の肖像画は外したのだろうな? ……という私と拳で語りたいということか?」

「いや、妹は実に愛らしく、また妻とは実に愛しい。結婚とは実にすばらしいな。そう思わないか、我が友フリードリッヒ……というはなしだよ」



 向かいに座ったまま、にこにことどこまでも邪気のない笑顔を向けてくる。こういう顔をするとアマーリエと兄妹なのだと思わせる程度には顔が似ている。



「……たまにお前が何を言っているのかわからなくなる時がある」



 返す言葉が見つからず、閉口したあとそれだけ告げた。一応、妻を優先しているようだが、相変わらずの妹至上主義シスコンぶりだ。ヴェローニカも全く気にしないどころか「私、妹大好きなギィさまも好き」と言っているのだからもうあまり言うまいと思うが、今後を考えてもう少し足を洗ってほしいと思うのは友情からだ。



(まあ、子ができた時に改めて言えばいいか……)



 今のところできたという話は聞いていない。ヴェッケンベルグの暮らしに慣れるまで半年から一年くらいは作らないと言っていたのでこれからだろう。しかし、時間は多くは残されてはいない。

 アマーリエのことについて相談したいと連絡して、ギュンターに来てもらった。アマーリエには内緒にしたいので応接室に通して応対している。ルートヴィッヒとの不愉快な面談も終わり、さらにアマーリエは疲れて眠ってしまったので、ちょうど間は良かった。



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