40 / 81
本編
後悔 2●
しおりを挟む扉の前に見えた姿に「夢か」と思った。
夢かと思いつつもふらりと引き寄せられて、目の前の戸惑うアマーリエの姿になんとか己を律しようとしていた。
ふと香った霊香に導かれるように口付けた。
アマーリエのあまり厚くない唇は柔らかく、適度な弾力があった。
(ああ、これだ。これが欲しかった)
以前にしたキスは、ふわりと落ちてきた瞬間に溶けて消える春の雪のような淡いキスだった。
ずっとこれを欲していたのだとフリードリッヒは自覚した。
満たされた渇望に歓喜する体が欲するままにアマーリエの唇を味わった。何度も何度も口付けて、呼気ごと吸うような深い口付けをした。
途中で止めないといけないと思ったが、体がいうことを聞かなかった。
アマーリエは瞳を驚きと戸惑いに見開いてフリードリッヒを見つめていた。嫌悪するどころか、アマーリエは白い頬を薄っすらと染めて空色の瞳を次第に熱く潤ませた。
(勘違いしてしまう)
初心な娘の初心な反応にうぬぼれて自分の欲望をぶつけてしまいそうになった。
マティアスに引き離されてやっと止まれたが、アマーリエに申し訳なさを感じていた。だが同時にもっと味わいたかったという未練が綯い混ざった。
のろのろとした動作で薬を飲んだ。眼に頬を染めたアマーリエの顔が焼き付いたようだ。今も目の前にまだアマーリエがいるように感じられた。
アマーリエが再び訪ねてきて部屋に飛び込んできた。アマーリエの姿は闇夜にもはっきりと美しく見える。先ほどの口づけを思い浮かべてしまう。
「団長、私を抱いてください」
(アマーリエ……何を……)
思ってもみなかった言葉に理性が擦りきれたそうになった。消えそうな理性を手繰り寄せて諭す言葉も辛うじて言葉になった程度の弱々しいものだった。
「私はヴェッケンベルグの女です。覚悟を決めてきました」
(愛しい……抱きたい……いけない……アマーリエを……)
言い募る健気なアマーリエを愛しいと思いつつも、欲望のまま抱き潰したいという汚らわしい気持ちがせめぎあっていた。
「団長になら……いいんです」
フリードリッヒを伺うように、気遣うように上目に見つめて静かに告げた。
その言葉を重ねて否定することはできなかった。ただ「済まない」と心から詫びることしかできなかった。詫びながらもほのかな喜びが心の奥から滲んできてだんだんと心を侵食する。求めていたものに触れた喜びに罪悪感が塗りつぶされてしまう。
夫でもない男の欲望を鎮めるためにこんなところで抱かれていい女性ではない。せめて優しく抱きたいと思っていても、時に荒々しく触れてしまって忸怩たる思いに胸が痛むが、精一杯優しく触れていった。
恥じらうアマーリエも、愛撫に感じてあえかに喘ぐアマーリエも、すべてが愛しくてたまらない。
「い、痛いというより苦しいです。私の中、団長でいっぱいです」
素直な感想なのだろうが、煽られたようにも感じられた。中はとても気持ちよくて中を掻き回したくてたまらなかったが、理性が千切れそうになったのをなんとか堪えた。
「もしかして、痛いですか? ごめんなさい、団長。痛みをやわらげてあげられなくて」
少し泣きそうな困り顔で詫びられた。男は狭い中に入っても特に痛みは感じない。締め付けられても気持ちいいばかりだ。
痛みならアマーリエのほうが痛いだろうに、フリードリッヒを気遣ってくれる。
(ああ、可愛い)
こみあげる思いに頬が緩んでしまう。そっと指先で乱れた前髪を横に流してやってアマーリエを抱きしめる。
(愛してる、アマーリエ。こんな時にも私を思い遣ってくれる、可愛い君が好きだよ)
愛しく思う気持ちで胸がいっぱいだった。薔薇の雫のもたらす蝕むような嫌な熱のことも束の間忘れてしまった。
「動き出したら……やめてあげられない」
しかし、すぐに嫌な熱が体を苛むだろう。動き始めはゆっくり動けたが、段々夢中になりアマーリエを貪った。
終わったあと、体を拭いて服を着せてやって身を横たえたアマーリエの姿にもそそられてアマーリエが欲しくて堪らなくなった。アマーリエの唇や体にキスをしながらしばらく戯れるようにしてできるだけ負担をかけないようにしていた。
0
お気に入りに追加
364
あなたにおすすめの小説

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~
しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。
とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。
「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」
だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。
追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は?
すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。
小説家になろう、他サイトでも掲載しています。
麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる