【完結】【R18】女騎士はクールな団長のお役に立ちたい!

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本編

賭けチェス ◆●

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 部屋に案内され、客間に案内された。辺境伯夫妻と次男三男とも挨拶を交わす。

「アマーリエ」

 野太くも穏やかな声音でヴェッケンベルグ辺境伯カルーフは愛娘の名を呼び、自分の胸に飛び込んできた娘を抱きしめる。男のフリードリッヒから見ても分厚く逞しい肩を震わせて娘を抱きしめる。目を赤くして

「よく無事に帰ってきた」
「お父さま、ただいま戻りました。……ああ、お父さまだぁーい好き」
「っ……」

 アマーリエが頬ずりすると言葉を詰まらせてアマーリエに頬ずりをする。

「伯、バルツァーさまが……」

 イルムヒルデがやんわりと抱擁をやめて挨拶するように促すと「うむ」とアマーリエから手を離す。何となく名残惜しいのはゆっくりとした動作から察せられる。親子の抱擁なので微笑ましく見ていられる。アマーリエも愛する父親に存分に甘えたらいいとすら思う。

「フリードリッヒ・バルツァー殿、久方ぶりですな。遠路よく参られた。ギュンターの式へのご参加、有り難く存じます。また、毎回里帰りの度にアマーリエをここまで無事に送り届けてくださり、感謝申し上げます」

 分厚く大きな手でフリードリッヒの手をがっしりと掴まれる。

「お招きいただきありがとうございます、閣下。このたびの慶事、友人の一人としてとても喜んでおります」

 口の端を引き上げてあくまで真面目な声で続ける。

「また、アマーリエの護衛ができる栄誉と機会を与えてくれたギュンターに感謝しております」
「閣下や夫人はご息災であられるか」
「は、皆変わりなく。父も閣下によろしく申し伝えるようにと、また王都での披露目には夫妻そろって参加をいたしたい旨、承っております」
「閣下にはいつもお気にかけてくださって恐縮に存ずる」

 カルーフとかしこまりすぎない挨拶を交わしている間、じっとこちらを見つめるアマーリエの様子に頬が緩みそうになる。
 騎士服を纏っているときは騎士らしくあろうと少しきりっとさせている表情が、愛らしく緩んで普通の女の子らしい表情に変わっている。
 挨拶を終えて部屋に戻る。ローマンとハンゼルが荷物を運び込んでいたので荷物の確認をしておいた。晩餐に招かれたので参加し、晩餐後にはギュンターの部屋を訪れた。
 ギュンターの部屋で結婚祝いの手土産を渡す。団の同期一同の心ばかりのプレゼントだ。
 弟二人もやってきて、二人の前でプレゼントを開けてみる。
 木箱にシャンパンとワインを一本ずつ収め、アーモンドのドラジェとチョコレートを少しずつ贈った。

「奥方が酒が飲めるかわからなくて、結局これに落ち着いた」

 シャンパンもワインも口当たりがよく飲みやすいので、酒が得意でなくとも飲める代物だ。

「ヴェラは酒は大丈夫。あんまり沢山は飲まないけど、酒は好きだからね。ドラジェのほうが喜ぶだろうけど、ありがとう」

 メッセージカードは結婚に対する祝いの言葉が、それぞれ思い思いの言葉で書いてある。
 メッセージカードを見てギュンターは「うーん」と唸る。

「何で皆、君も含めて判でも押したように「今のうちにさっさと部屋の肖像画を剥がせ」とか「妻帯するのだから妹至上主義シスコンから足を洗え」みたいなことを書いているんだろう?」
「それは、そういうことだ」
「うーん、わからない」

 ギュンターが再び唸る横では弟二人も「何故だろう」と小声で囁き合っている。
 これ以上言うのは不毛だろうと言いたいことを飲み込んで、もう一つの手土産を渡す。手土産と言っても手紙だ。

「アンナ・ファーゼン子爵からだ」
「へえ……何?」
「アマーリエの様子が書かれているそうだ」
「アマーリエの?!」

 三兄弟そろって「アマーリエの様子」という単語に目の色を変えて反応する。穏やかだった目の色がぎらっと輝く。

「去年、アレックスに散々アマーリエのことをきいただろう? 私に気を使ってアンナが手紙を書いてくれた」

 里帰りの時、アマーリエとアンナは二人で楽し気に過ごしており、さすがのアレックスも割って入れなかったらしい。アレックスたち男連中は三兄弟とチェスなど楽しんだ。三兄弟はアレックスにアマーリエの様子を教えてほしいとぐいぐい迫ったそうだ。アンナに何をしていたのかと聞かれたアレックスは「アマーリエ嬢のこといろいろ聞かれたよ。妹への愛が強いみたい」と言ったことをアンナは覚えていたらしい。フリードリッヒで答えられる範囲以外のことを書ける範囲で書いたらしい。
 ギュンターは手紙を読んで目頭を押さえる。どうやら感動したらしい。

「アンナ・ファーゼン子爵によくよくお礼を申し上げておいておくれ」
「今度改めてお礼を」
「何がいいでしょうか? 肉がお好きでしたよね?」
「では町屋敷ヴェッケンベルグで捌くか」
領地ファーゼン領のほうがいいのでしょうか?」
「領地ではファーゼン子爵にお届けできませんよ」

 ギュンター、グレゴール、ギルベルトと真面目に肉を捌いて贈ろうという話にまとまりかける。アンナは肉が好きだと聞いたことがあるので、肉を贈るのは間違ってはいないだろうが――

「町中で牛を捌くな。場所はバルツァーうちの領地を貸すから、そこでやれ。そこでだったら、領地だろうが王都だろうが運びやすいだろう」

 だが友人として、友情と常識でもって提案する。
 バルツァー家の領地なら王都の北西に隣接する土地であり、ファーゼン領への移動も楽に行える。

「じゃあ、お願いするよ。……では、定番のチェス勝負といこうか」
「いいだろう」
「今回は何を賭けようか」

 毎回ちょっとしたものを賭ける。おつまみから夕食をおごるとかその程度のちょっとしたものだ。
  だが、今回は少し趣を変えてみる。

「私が勝ったら寝室のアマーリエの肖像画を貰おう。一枚くらい貰っても構わんだろう」

 少なくともギュンターは執務室と寝室に複数枚ずつ飾っている。せめて執務室に一枚にできないものかと思うが「目の届くところにアマーリエの肖像画でもいいからいてほしい」という。
 きらっと目を輝かせてギュンターは不敵に笑う。

「ほほう……これは負けられない。私が勝ったら妹至上主義シスコンのすばらしさを語ってあげよう」
「はっ……それは負けられないな」

 ヴェッケンベルグ領に遊びに来た時の夜の定番賭けチェスをしながら、夜遅くまで談笑した。
 
 

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