【完結】【R18】女騎士はクールな団長のお役に立ちたい!

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本編

フリードリッヒ・バルツァーの四要件 2

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「次は『二、ドレスや宝飾品などの華美贅沢を慎み、家計を任せられる人』……別に問題ないでしょ」
「ドレスは買わないけど、私だって贅沢はするよ」
「へえ、何?」
「今年もあんまり着る機会がないのに乗馬服を作ったわ」

 年のほとんどを騎士団支給のシャツとズボンを着用して過ごしているので、乗馬服の出番は年に十から二十回だろう。休みの日には町屋敷タウンハウスに連れてきている愛馬を駆ることもあるが、あまり多くないので愛馬のご機嫌が良くない。

「他は?」
「……ハシェットのチョコレートをたくさん買ったわ。紅茶だってロンネフェルツとアルトハウゼのを買ったもの。……今度飲もうね」

 少し考えて、アマーリエ精一杯の贅沢をひねりだす。
 ラーヴェルシュタイン国はチョコレートが国民的人気を博している。大人から子供までもがビターからスイートまであるチョコレートを愛していた。またチョコレートと同じくらい紅茶も愛する国民は、パンとブルストで日々の活力を養い、紅茶とチョコレートで疲れを癒すのだった。
 数ある業者の中で、それぞれ高級志向で美味しいけど高いので、記念日などの特別な日に贈り物として購入する人が多いといわれる店の品だ。金貨二枚で平民の夫婦が一月十分に暮らせるというラーヴェルシュタイン国において、銀貨数枚もする品物を購入するのは贅沢なお金の使い方だと自負している。

「あんなのけぞるような高価なドレスや宝石をぽんと贈ってくる人からみたら、そんなの石ころ同然よ。色つきダイヤモンドは普通のダイヤモンドの何倍もするんだから。それからしたら、子供が飴玉買うようなものでしょうよ」

 石ころ同然かどうかはわからないが、以前フリードリッヒから贈られたドレスとアクセサリーは、装飾品に詳しくないアマーリエから見てもみごとだった。
 入団して二ヶ月目に入ったころ、フリードリッヒに食事に誘われた。慣れない団での生活でストレスが溜まっていないか気遣って、気分転換に誘ってくれた。思いがけないことで驚きつつ、もちろんすぐ了承した。どこに行くかと聞いてみると、王都でも有数の高級レストランを実家の伝手で押さえているとのことだった。
 ただアマーリエは高級レストランに着て行けるドレスを持って来ていなかった。さらに言えば、宝石は興味がなかったため一つも持っていなかった。フリードリッヒはどうしようと慌てるアマーリエをなだめて、バルツァー家御用達の仕立て屋にアマーリエを連れて行った。その場で選んでくれた既製品をアマーリエのサイズに直したドレスを贈ってくれた。さらに宝石商を呼び、ネックレスまでもぽんと買ってしまった。
 贈られたのはピンク基調のドレスと金の鎖の華奢なネックレスだった。ドレスは上等の生地をふんだんに使い、デコルテがあいた若者向けのデザインだった。
 ネックレスも小さな花をモチーフにしており、煌めく宝石で愛らしい花模様を形作っていた。ピンクダイヤモンドの花びらが彩っている十数個のうち、二つだけ色が違うものがある。隣り合った花に使われているのは、タンザナイトとブルーダイヤモンド。ブルーダイヤモンドはアマーリエの瞳の色で、もう一つの色はフリードリッヒの色だった。夕暮れ時に空がだんだんと深い藍に覆われて、月光の黄金色と混ざり合うひとときを映したような夜の色はフリードリッヒの色そのものの色で、眺める度にアマーリエをときめかせた。
 何度もレストランに連れて行ってもらったが、その度に何かしら高価なものを贈られている。

『必要なものを贈ったにすぎない。ちょっとしたプレゼントだと思っておきなさい』

 さらりと素敵な声でフリードリッヒは何度もドレスやアクセサリーを贈ってくれていた。あれで困らない財力を持っているなら、高価なチョコレートくらい石ころ同然かもしれない。

「『三、有事の際、家を任せられる人』……これも問題ないでしょ。有事の時に裏方ができるかってことだから……まあ、バルツァーと実家とは違うでしょうけど、アマーリエはすぐ覚えられるでしょ」
「兵糧の計算とか管理はできるし手当てもできるけど、バルツァー家が求めているのってもっと細かいところだと思うんだけど」

 外国と戦争になった場合、ヴェッケンベルグではすぐ軍を起こしてそこが前線となる。バルツァーの場合は国王の許可を得て軍を起こして前線へと向かう。
 物資だけでなく兵站線まで管理して、必要に応じて王家とも連携するため橋渡しをして……など、細かな指示配慮が必要となる。おおざっぱなアマーリエにできるか自信がない。

「家令が細かいところどうするか聞いてくるし、家令からも提案してくれるから、そこどうするかの判断だけだよ。うちも貧乏してほとんどの使用人に暇を出したけど、家令を雇い続けているのって、能力の高さを買ってるからなんだよ」

 実家を思い出しても、確かに家令がうまく取り計らってくれることがあるので、そういうものなのだろう。
 戦時においてはバルツァー侯爵が直々に戦場へ出ることも多く、その間侯爵が行うべきことは妻が代行しなければならない。そのため侯爵が行うべきことも覚えておかねばならないと思っていたが、家の様々な案件を把握しており、ある程度の裁量権を与えれば家の管理ができるのが家令に必要な能力なのだとアンナはいう。フリードリッヒの四要件から思うに、家令と協力して事に当たれば問題ないということだろう。

「全てをふるい落とす最後は『四、剣の扱いの心得があり、襲歩ができるくらい乗馬の心得がある人』……でもアマーリエは何の問題もないでしょ」
「うん。これだけは自信あるわ」

 ヴェッケンベルグの娘である。母はあまり快く思っていないけど、剣と馬術だけは誰より長けている自信がある。
 馬の歩法は四つあり、常歩なみあし速歩はやあし駈歩かけあし襲歩しゅうほという。アンナから聞いたが貴族の令嬢の嗜みでは、馬の自然な歩く速度である常歩ができたらよいとされているそうで、駈歩ができたら達者と言われるそうだ。

(襲歩ができる令嬢って、何と言われるのかしら?)

 アマーリエは当然襲歩まで身につけている。ヴェッケンベルグでは普通にできる女性が多い中でも、一番の馬の乗り手であると自負している。剣の腕も女性の中では一番である。
 練習すれば乗馬は難しいことではない。現にアンナも最初は速歩ができる程度だったが、頑張って襲歩までできるようになった。
 だからアマーリエの優位性はさほどないだろうが、それでも剣と馬術は自信をもって人並み以上と自信をもって言える。


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