【完結】【R18】女騎士はクールな団長のお役に立ちたい!

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本編

フリードリッヒ・バルツァーの四要件 1

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「あ……そうそう、終わった後は何曲か踊ってから帰っていいんだって。フリードリッヒ団長誘っちゃいなよ」
「踊ってもいいの?」
「仕事終わった後だったり、休憩の時に踊ってもいいんだって。年頃のフロイラインに少しでも良い思い出をっていう師団長閣下のお計らいだから、楽しんだらいいんだよ。私もアレックスと踊ってるし、先輩お姉さまたちもそれぞれ踊ってるって」
「そうなんだ。じゃあ、仕事終わったらお誘いしてみる」

(そうか……また、踊れるんだ)

 半年ほど前の夢のひとときを思い出す。幸せなひと時に口元をほころばせてしまう。じわじわと嬉しさがこみ上げてきて、噛み締めるように微笑んだ。
 しかし、一つ問題がある。

「ねぇアンナ、もし断られたら私と踊ってね」

 団長としての仕事があるため、フリードリッヒに断られる可能性が高い。十年近くもの間、仕事を理由にフリードリッヒが夜会で踊ったことはないのだとか。

「そんなことはないだろうけど、いいよ。たくさん踊って帰ろうね」

 アンナはそのようにアマーリエを慰めてくれた。
 互いに見つめあって微笑みあう。

「まあ、アマーリエのお誘いを断らないと思うけどね。フリードリッヒ団長はアマーリエのこと大事にしてるとしか思えないもの」
「そうかな?」
「そうだよ。デビューだからって真珠がついたバレッタ貰ったんでしょ? 大事にしてなきゃくれないでしょ?」
「……やっとのことでデビューできるからだと思うわ。デビュー記念とかそういう意味だよ」
「真珠って高いんだよ? 何ともない、普通の部下にぽんと贈るものじゃないよ」
「高いのは知ってるけど……」

 形の良い大ぶりな真珠の産出は滅多にない。よって、値段は跳ね上がる。
 アンナだけでなく、先輩お姉さまたちも「凄く素敵な真珠ね」とほめてくれるような一級品を惜しげもなくあしらった品のいい代物だった。

(勘違いしちゃ駄目)

 思い違いをして自惚れてはフリードリッヒに迷惑だ。

(団長は子供っぽい私が少しでもみられるようにってくれたんだわ。今までだって、きちんとした物をそろえていなかった私に必要なものを用意してくださっただけだもの。団長だって「必要なものを用意したに過ぎない」って仰ってたし)

 自分に言い聞かせるが、じわりとこみあげてくる嬉しさが胸にほのかな温かみを生む。

「私はアンナみたいにしっかりしていないから、心配してくれているんだよ。今回の夜会だって、本当は出したくないって団長言っていたんだもの」
「ふーん……心配っていうより、甘々なんだね」

 アンナは苦笑いを浮かべて独り言のように呟いた。

(実家にいるときに、もう少し淑女教育を頑張れば良かった)

 剣の修行はしても、淑女教育はそこそこしかやらなかった。最低限嫁に行けるレベルなら困らないと思っていた。
 うつむいてしまったアマーリエにアンナは励ますように声をかける。

「もっと自信もちなよ。アマーリエは『フリードリッヒ・バルツァーの四要件』満たしているでしょ」

 フリードリッヒは社交界デビュー前から本人が嫌になるほど騒がれてきたが、デビューと同時に女性に食い殺されんばかりに集られたため、たった一年ワンシーズンしか耐えられず、我慢の限界に達して出したのが「フリードリッヒ・バルツァーの四要件」だった。以後、四要件と仕事を理由に女性と踊ったりすることを断っている。

 ……と、長兄ギュンターが笑いながら教えてくれた。
 十歳離れたギュンターは騎士団時代のフリードリッヒと同期で仲が良く、フリードリッヒをヴェッケンベルグ領まで遊びに招いたことがある。何度も来てくれたが、いろいろあってその時に会うことは叶わなかった。ギュンターは跡継ぎのためアマーリエが入団する前にやめてしまったが、フリードリッヒとはいまだに仲良くしているそうで、王都にいる時にはたまにあっているらしい。

「まず『その一、十八歳以上二十五歳以下の健康な貴族の女性。家格、容姿や身長は相応程度が望ましい』……この時点でざっくり振り落としにかかっているけど、あっさりクリアしてるね」
「団長に釣り合うほど美人じゃないもの」

 アマーリエは身をすくませてぽつりとつぶやいた。「相応」とはフリードリッヒの傍にいて見劣りしない家格と容姿が必要ということだ。あの美貌の隣にいられる自信はない。

「何言ってるの? アマーリエは綺麗な金髪と碧眼って美人の要件持っているでしょ。家格は侯爵家と辺境伯家でまったく問題じゃないし。もっと言えば軍閥同士で政略的にもかち合わないよね。身長は女性としては高くて、アマーリエはコンプレックスみたいだけど、フリードリッヒ団長と並んだら、ちょうどいいくらいだよ」

 ラーヴェルシュタイン国の美人の条件は金髪か銀髪で、瞳の色は碧眼か緑(エメラルド)色の眼とされている。アマーリエは金髪に碧眼であるが

(背の高いところも、性格も女らしくなくて……何より子供なんだもの。マナーだって、まだまだなんだろうな。団長の隣にいてふさわしい女の子じゃない)

 去年のシーズン中、何度もアンナと一緒にマナーと所作を練習して、フリードリッヒとマティアスに披露してみせた。

『仕草も去年よりすごく良くなったじゃないか。指先まで意識できてる。デビューしても問題ないよ』

 マティアスからは手放しに褒められた。しかし、フリードリッヒの評価は冷淡だった。

『所作は良くなった。だがデビューするにはまだ早い。それが私の判断だ』

 すっぱりと切り捨てられ、アマーリエは落ち込んだ。

「あと、アマーリエはこんなに大きくて柔らかい胸と」
「ひゃっ」

 胸を鷲掴みにされ、アマーリエは小さく悲鳴を上げた。続いて腰から下へとアンナの手は下がっていく。ああ、くすぐったい。

「くびれて細い腰と引き締まって上向きの豊かなお尻もっているんだから、プロポーションは他の令嬢たちより恵まれてるんだよ」
「う、うん」

 アンナの勢いに押されてとりあえず頷いてしまう。
 胸はなぜか大きくなってしまったが、腰のくびれと臀部のラインは乗馬の賜物だろう。故郷で「太ったら馬を駆れ」と女性たちが言っていたのは、馬に乗ることで体幹が鍛えられ、身体が引き締まるからだ。故郷では産後の運動にも用いられているほど広く浸透している。
 他国との国境にあるヴェッケンベルグの領民は弓馬の嗜みがあるので、王都の女性のように食事ではなく乗馬による痩身術が主流だ。


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