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六章

6−4

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 芳しい果実の香りのする桃色の湯を手で掬い、僕の体を支えてくれているメイディ氏の肩にぱしゃりとかける。メイディ氏も空いている手で僕に湯をかけ、交代に僕たちは互いの体を温め合った。

 程よく体が温まったところで、そろそろ上がろうという話になる。浴槽を使って長風呂をするのは気持ちいいが、浸かりすぎるのも良くない。のぼせる前に浴槽から出ようとすると、メイディ氏が僕の脇に手を滑り込ませ、ひょいと持ち上げて浴槽の縁を越え、タイル敷の外に出してくれた。メイディ氏は黙っていれば女性と見間違うような線の細さだが、僕を軽々抱き上げるくらいの膂力は持ち合わせている。

 メイディ氏が伸ばした指ですいっと宙に円を描くと、浴室の戸棚から乾いたタオルがふわりと飛んでくる。浮遊術の応用でメイディ氏がよく使う魔法だが、主人には横着するなとよく叱られている。濡れた体で歩き回ることを考えると今回ばかりは許してもらえそうな気がする。

「体を拭いたら、ペイジくんのお部屋で待っていてください」

 あの包みを出して、ね───メイディ氏は悪戯っぽくウィンクして、濡れた浴室にすいと指を躍らせた。浴槽に張られたなみなみとした湯と、床に飛び散った湯を浮遊術でひと所に集め、排水溝に流している。この後主人が使うことになっているのだが、主人は甘い果実の香りが立ち込める湯は好まないらしい。メイディ氏が使った後は湯を捨て、軽く洗ってから改めて湯を張り直しているそうだ。

 僕はメイディ氏の邪魔にならぬよう手早く体を拭いて、乾いたワンピース型の寝巻きをすっぽり被って湿ったタオルを頭にターバンのように巻き付けてから浴室を後にした。途中で洗濯物を抱えたツノの生えた甲冑とすれ違ったので、会釈をしておく。向こうもがしゃりと甲冑を軋ませながら会釈を返してくれた。

 足早に自室へ戻った僕は、ワードローブの中からハンガーを一つ取り、頭に巻いていたタオルをそこに掛けた。汚れた衣類や使ったタオルなどは、こうしてワードローブの外に掛けておくと、朝起きたときには消えており、翌日には綺麗になった状態で返ってくる。姿の見えない誰かが、こっそり洗濯をしてくれているらしいのだ。姿の見えない誰かさん、いつもありがとうございますと心の中でお礼を言いながらサイドボードから油紙の包みを取り出し、ぴょんと飛び跳ねるようにしてベッドに腰掛けて、メイディ氏を待つことにする。

 足をベッドの脇に投げ出し、ぼすんと後ろに倒れる。屈強なスプリングは僕が倒れ込んだくらいではぎしりとも軋まず、ふかふかの毛布が僕を押し返す。こちらも姿の見えない誰かによって昼のうちにベッドメイキングされ、毎日清潔なシーツに包まれている。
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