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六章

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 良いもの───そう言ってメイディ氏が手にしたのは、黄ばんだ油紙に包まれた物体だった。ガサガサと紙を剥がして中から出てきたのは、手のひらサイズの石鹸のような濁った琥珀色の塊。包みが開かれた瞬間、ふわりと花の香りが広がった。

「民間にはあまり出回らない品でしてね、それ用の店にはいくつか仕入れがあるんですけれど」

 メイディ氏は明るく弾んだ声で言いながら、ナイフでその塊を別に用意した油紙の上に薄く削り出していく。集まった欠片を油紙ごと包むように手のひらを丸め、揉み込む。熱を加えすぎると溶けてしまうため、形成には手袋を装備するか、油紙に包んだまま作業をするのが一般的らしい。ガサリ、と油紙が開かれると、凡そ僕の親指くらいの小さな塊が出来上がっている。

「ペイジくんにはこれをあげましょう」

 もう一度油紙で包み直した小さな塊を、僕の前にポトリと置いた。

 使い方は簡単、風呂上がりなど体を綺麗にした状態で肌の上に滑らす。花の油を使用したそれは伸びが良く、体の肌艶を良くしてくれるらしい。畜舎の掃除で手が荒てしまう僕のことを心配してくれたのだろうか。しかし、それにしてもオフィシエを追い出してまでする内緒話にしてはパンチが弱い気がした。

「早速今夜、使ってみましょうね。 ベッドが華やかになりますよ」

 うきうきと表情を綻ばせるメイディ氏を僅かばかり訝しみながら、僕はそれを部屋に持って帰った。暗所での保存がいいと言うので、ベッドの横に備え付けられたサイドボードの引き出しに入れた。今夜の風呂上がり、もう一度メイディ氏が使い方を教えてくれるらしい。


 その日はその後何事もなく、僕は畜舎の掃除を終えて夕食の席に着いた。主人は夕方ごろから少し出掛けており、メイディ氏と二人きりの食卓。メイディ氏が買い付けた調味料を使った魔獣のソテーは香草と塩みがふんだんに効いていてとても美味しかった。普段の料理ももちろん美味しいのだが、味付けが変わったことで舌が楽しめたし、何より料理をしたオフィシエも得意げである。顔は見えないのだが。

 僕たちが夕食を楽しんでいると、外から主人が帰ってきた。角の生えた兜の甲冑と共に、主人が食堂に顔を出す。移動しながら脱いだ外套を角の生えた兜の甲冑に渡し、そのまま食卓に着くと、いつの間にか準備をしていたオフィシエが主人の前に夕食を並べ始める。

「妙な匂いがしたと思ったが、これか」

 魔獣のソテーをナイフで切り、一切れ口元に運びながら主人がポツリと漏らした。
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