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六章

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 その日はギルドに何度目かの納品の日だった。ようやく人酔いにも転移魔法にも慣れて、自分の足で屋敷に戻ってこれた。当たり前のことではあるのだが、感慨深くなった僕とメイディ氏は午後の授業を返上してお茶をすることにした。

 いつもなら分厚い本や紙の束が乗ったテーブルに、今日は真っ白なカップのティーセットが並べられている。お茶を淹れてくれるのは料理担当のオフィシエだ。僕も度々オフィシエにお茶の淹れ方を教わっているのだが、一向に上手くならないというか、オフィシエの味を超えることができない。それでも今日はご褒美(?)ということで気にしない。お茶受けに出されたジャムの乗ったクッキーを頬張りながら、麗かな昼下がりを堪能する。

「そう言えば、何を買ってきたんですか?」

 僕がギルドに納品をしに行っている間、メイディ氏はしばらく席を外していた。聞けば馴染みの行商人が戻ってきていたらしく、急いで会いに行ったという。戻ってきたメイディ氏は実に満足げな表情で、顔色も艶やかであった。

 その人は別の街を拠点にしている行商人で、偶然この街に立ち寄ったそうだ。扱う商品はその時により様々だが、ちょうどメイディ氏の所望するアイテムが幾つか購入できたらしい。それも彼の機嫌をよくする要因の一つだったのだろう。

 メイディ氏は街で購入した品々を詰めたバッグを手に取り、中から液体の入った小瓶や小袋に入ったアイテムなどを取り出した。

「大体は調合の素材ですね。 あ、これはオフィシエが欲しがっていた調味料です」

 お茶の準備が終わったオフィシエに、メイディ氏が声をかけ、小袋を手渡す。オフィシエはそれを受け取って深々とお辞儀をしたのち、空になったポットを持って部屋を出ていった。オフィシエは甲冑なので表情などはわからないが、足取りは軽く機嫌が良さそうに見えた。気のせいかもしれないが。

 オフィシエが出て行った扉がパタンと閉まると、メイディ氏が僕に向き直ってにんまりと口角を吊り上げて笑った。普段の妖艶な笑みとは異なる、悪戯心しか伺えない表情だ。メイディ氏は口元に手を当て、行儀悪く上体をテーブルの上に乗り出して僕に内緒話をするように声を顰めた。

「良いものが、手に入ったんですよ」

 どうやら先のお土産はオフィシエを出ていかせる為の餌で、僕と二人きりになることが目的だったようだ。
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