上 下
34 / 56
五章

5−1

しおりを挟む
 ギルドで冒険者登録をしてから、僕は朝食の後、朝の勉強代わりに屋敷の周りで薬草を摘むことになった。6束分を目安に摘み、束ね、昼食と午後の勉強、お茶の時間を経て、また街までメイディ氏の転移魔法で送ってもらい、納品したら屋敷に戻って畜舎の清掃、というルーチンワーク。転移魔法には未だ慣れないが、重圧感に負けることは無くなっていた。

「そろそろ薬草摘み以外の依頼にも手を出したいところですねぇ」

 ある日の夕食の席で、メイディ氏がポツリと漏らした。主人も元々その気だったのか、特に異論はなさそうだった。

 しかし、僕は街に滞在している訳ではないので、街の中での依頼には向かない。以前、街の中のとある店舗で倉庫の掃除をするという依頼を受けたのだが、昼前から夕方まで時間を拘束されたその日、ギルドからの帰り道に息苦しくなって倒れてしまった。

 どうやら僕の首輪は物理的な距離だけでなく、主人から一定時間離れているだけでも効力を発揮するものだったらしく、知らず知らずのうちに首が締め上げられていたようだ。

 その日もメイディ氏は主人に絞られていたが、僕が倒れたことで珍しく反省の色を見せていたらしい。そんなこともあり、僕は普段屋敷の外に長く出ることはなくなった。

「この辺りでウサギ狩りでもしますか?」
「ああ、そろそろ増える時期だな」

 主人とメイディ氏が揃って窓に目を向けた。陽の落ちた空は暗く、森で囲まれた屋敷の外は闇の中だ。その闇の中に動くものを捉えているのか、はたまた例年通り増えているらしいウサギに思いを馳せているのかはわからないが。

 翌朝、薬草を摘みながらメイディ氏に獣道について話を聞いた。屋敷の周りには舗装のされていない細い砂利道が続いているが、それを外れて森の中に入ると野生の鳥や動物、小動物のような魔獣が生息しているという。

 魔獣の数が増えると薬草などの素材が荒らされてしまうため、繁殖期などの時期には狩猟依頼が出るらしい。また、それらの皮や骨は素材に、肉は食料になるらしく、狩猟が落ち着いたら街の酒場で肉のメニューが豊富になるのだとか。

「オフィシエも肉料理は得意ですからね、夕食が豪華になりますよ」

 オフィシエとは、厨房を任されている騎士の甲冑のことだ。主人がそう呼んでいた訳ではないが、メイディ氏がそう呼ぶと彼(?)が反応するので、恐らくそれでいいのだと思われる。

 次の繁殖期には小型の魔獣を獲り、オフィシエに料理してもらおう、余った分はギルドに納品しよう───魔獣の繁殖期前に、僕たちの方針は確定したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

昭和から平成の性的イジメ

ポコたん
BL
バブル期に出てきたチーマーを舞台にしたイジメをテーマにした創作小説です。 内容は実際にあったとされる内容を小説にする為に色付けしています。私自身がチーマーだったり被害者だったわけではないので目撃者などに聞いた事を取り上げています。 実際に被害に遭われた方や目撃者の方がいましたら感想をお願いします。 全2話 チーマーとは 茶髪にしたりピアスをしたりしてゲームセンターやコンビニにグループ(チーム)でたむろしている不良少年。 [補説] 昭和末期から平成初期にかけて目立ち、通行人に因縁をつけて金銭を脅し取ることなどもあった。 東京渋谷センター街が発祥の地という。

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

モラトリアムの猫

青宮あんず
BL
幼少期に母親に捨てられ、母親の再婚相手だった義父に酷い扱いを受けながら暮らしていた朔也(20)は、ある日義父に売られてしまう。彼を買ったのは、稼ぎはいいものの面倒を嫌う伊吹(24)だった。 トラウマと体質に悩む朔也と、優しく可愛がりたい伊吹が2人暮らしをする話。 ちまちまと書き進めていきます。

おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話

こじらせた処女
BL
 網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。  ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

支配された捜査員達はステージの上で恥辱ショーの開始を告げる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

思春期のボーイズラブ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:幼馴染の二人の男の子に愛が芽生える  

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

処理中です...