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二章
2−5
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主人は僕を抱えたまま、恐らく僕が人に酔わないための配慮なのだろうが、大通りから外れた路地をずんずんと進んでいる。僕を支える太い腕も歩く速度の変わらない逞しい脚も、いくら僕が痩せ細って軽いからと言っても子供一人分の重さを感じていないかのように疲労感が見えなかった。僕なら空の餌箱を抱えて屋敷の周りを歩いてこいと言われても恐らく一周持たないだろう。今まで一体どのような生活を送ってきたのだろうか。将来僕もこんな格好良い男性に成れたらいいな、などと思いを馳せてしまう。頭の中で僕は、主人の体に僕の首を挿げ替えただけの想像をしていた。
「着いたぞ」
「っふ、わゃい!?」
不意に主人の足が止まり声をかけられる。周りの街並みを見ることもせず滑稽なキメラを創造していたところだったので、先に続いて二度目の素っ頓狂な声を上げてしまった。慌ててキョロキョロと辺りを見渡すと、石造りの建物の入り口に立っているようだった。扉はなく開けた入り口に、小さな幌が屋根として付いている。
主人は足元に僕を下ろすとその建物に入っていく。中から早く来いと急かす声がするので、慌てて僕も中に入ると、そこは。
「う、うわぁ……」
色とりどりの布───否、服。様々な彩りの衣類が部屋の中にひしめいている。しかし主人はそれらには一切目をくれず、部屋の奥にある狭い階段に向かっていた。コツコツと床を蹴る革靴の後ろを狭い歩幅で追い、やや薄暗い階段を登っていく。
「やぁ、いらっしゃい」
建物の2階には、落ち着いたブラウスと黒のスラックスを身に付けた線の細い男が立っていた。彼は腰を折って礼をすると、糸のように細められた目で主人を見、そしてその足元に佇む僕を見て器用に片眉を上げて見せた。
「こちらが、例の?」
男は主人を押し除け、僕の爪先から頭の天辺まで、さらに後に回って背面までを舐めるようにじっくり見回す。度々成る程、ふむふむと唸るような声を上げ、あくまで僕や主人には触れない、近付きすぎない位置で何やら仕切りに頷いていた。
「坊ちゃんの好みを伺っても?」
「え……?」
不意に、男は僕の目の前にしゃがみ込んでニッコリと微笑みかけてきた。主人ほどではないものの、中々に高身長な彼が膝を折り僕に目線を合わせてきたのだ、僕に聞いているのだろう。
「え、えぇと……」
「厚手がいいとか柄物がいいとか、そういう注文を聞いてんだよ」
何と答えたものかとまごついていると、主人がやれやれといった風に口を出してきた。一概に好みと言っても色々あるのでその配慮だろう。しかしながら、生まれてこの方服と呼べるものに袖を通したのがここ数日のことだけであったし、色取り取りの衣類があると知ったのもつい先程のことなので僕には答えようがなかった。
僕が押し黙ってしまったので、大人二人は顔を見合わせる。主人は相変わらずの呆れたような表情で、短い髪をガリガリと掻きながら周りに吊られている衣類と僕を交互に指差して投げやりに言った。
「適当に袖通して、気に入ったのを選べばいい」
「は、はい……」
取り敢えずはと指で示された辺りの服を適当に見ることにする。屋敷で主人に借りているようなブラウスが幾つか吊られたり畳まれたりして陳列している。きょろきょろと見回していると、細目の男がたたまれたシャツを一枚広げて僕の体に当ててきた。これでサイズ感や見栄えを見るらしい。
「坊ちゃんには少々大きいようですね、もうワンサイズ落としましょうか」
こちら、と手を引かれて連れられたコーナーには、どうやら子ども用らしき小さなサイズの衣類が並べられていた。体に合わせても丈に過不足はなく、僕に丁度いいサイズのようで、細目の男は満足げに頷く。そこからは男の独擅場で、試着室に押し込まれ男が持ってきた衣類を着せられることになった。
「着いたぞ」
「っふ、わゃい!?」
不意に主人の足が止まり声をかけられる。周りの街並みを見ることもせず滑稽なキメラを創造していたところだったので、先に続いて二度目の素っ頓狂な声を上げてしまった。慌ててキョロキョロと辺りを見渡すと、石造りの建物の入り口に立っているようだった。扉はなく開けた入り口に、小さな幌が屋根として付いている。
主人は足元に僕を下ろすとその建物に入っていく。中から早く来いと急かす声がするので、慌てて僕も中に入ると、そこは。
「う、うわぁ……」
色とりどりの布───否、服。様々な彩りの衣類が部屋の中にひしめいている。しかし主人はそれらには一切目をくれず、部屋の奥にある狭い階段に向かっていた。コツコツと床を蹴る革靴の後ろを狭い歩幅で追い、やや薄暗い階段を登っていく。
「やぁ、いらっしゃい」
建物の2階には、落ち着いたブラウスと黒のスラックスを身に付けた線の細い男が立っていた。彼は腰を折って礼をすると、糸のように細められた目で主人を見、そしてその足元に佇む僕を見て器用に片眉を上げて見せた。
「こちらが、例の?」
男は主人を押し除け、僕の爪先から頭の天辺まで、さらに後に回って背面までを舐めるようにじっくり見回す。度々成る程、ふむふむと唸るような声を上げ、あくまで僕や主人には触れない、近付きすぎない位置で何やら仕切りに頷いていた。
「坊ちゃんの好みを伺っても?」
「え……?」
不意に、男は僕の目の前にしゃがみ込んでニッコリと微笑みかけてきた。主人ほどではないものの、中々に高身長な彼が膝を折り僕に目線を合わせてきたのだ、僕に聞いているのだろう。
「え、えぇと……」
「厚手がいいとか柄物がいいとか、そういう注文を聞いてんだよ」
何と答えたものかとまごついていると、主人がやれやれといった風に口を出してきた。一概に好みと言っても色々あるのでその配慮だろう。しかしながら、生まれてこの方服と呼べるものに袖を通したのがここ数日のことだけであったし、色取り取りの衣類があると知ったのもつい先程のことなので僕には答えようがなかった。
僕が押し黙ってしまったので、大人二人は顔を見合わせる。主人は相変わらずの呆れたような表情で、短い髪をガリガリと掻きながら周りに吊られている衣類と僕を交互に指差して投げやりに言った。
「適当に袖通して、気に入ったのを選べばいい」
「は、はい……」
取り敢えずはと指で示された辺りの服を適当に見ることにする。屋敷で主人に借りているようなブラウスが幾つか吊られたり畳まれたりして陳列している。きょろきょろと見回していると、細目の男がたたまれたシャツを一枚広げて僕の体に当ててきた。これでサイズ感や見栄えを見るらしい。
「坊ちゃんには少々大きいようですね、もうワンサイズ落としましょうか」
こちら、と手を引かれて連れられたコーナーには、どうやら子ども用らしき小さなサイズの衣類が並べられていた。体に合わせても丈に過不足はなく、僕に丁度いいサイズのようで、細目の男は満足げに頷く。そこからは男の独擅場で、試着室に押し込まれ男が持ってきた衣類を着せられることになった。
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