私の名前はさつじんはん

神崎翼

文字の大きさ
上 下
1 / 1

私の名前はさつじんはん

しおりを挟む
 最近は本名でネットを楽しむ人間も増えたが、私はもっぱらハンドルネーム派だ。これからハンドルネームを付けようと考えている人、アドバイスするけど無難な名前がいい。いっそ普通の名前と区別がつかないようなものにしろ。奇をてらう必要はない。私の名前? この流れで聞くのはいっそ勇者か貴様。
 ネットに触れ始めたのは中学生の頃だ。バベルの塔のごとく天まで届けといわんばかりに黒歴史を積み上げた学生時代。生まれたハンドルネームは『さつじんはん』である。
 いやなんでだよ、と言われても困る。成人済みの今の私には中二真っ盛りの私の気持ちは理解できない。何がどうしてそんな名前をチョイスした。
 いや、由来はわかっている。確か当時読んでいた漫画で殺人犯がめちゃくちゃカッコいいのがあったのだ。しかしキャラの名前をそのまま使わせて頂く度胸はなく、更に謎の可愛さを求めた結果、漫画の主人公の職業名(語弊は認める)である『殺人犯』をひらがなにして、『さつじんはん』というハンドルネームに相成ったのである。
 恐るべきはクローズコミュニティ。当時はインターネット黎明期で、ネットといえども気軽に世界中に繋がるという感覚ではなかった。どちらかというと未知のジャングルに足を踏み入れるような感覚である。その中で安全な場所を求めて歩んでいき、好きな物や価値感が似通った人々と繋がることになった。無論マンガの好みもそこに含まれる。その結果、由来がとてもわかりやすい『さつじんはん』は好意的に受け止められたのだった。ただ、さすがに『さつじんはん』とドストレートに呼ぶのは憚られたのか、だいたいが『さっちゃん』呼びだったが。ちなみに『さっちゃん』、現在のハンドルネームでもある。こうしてハンドルネームは遷移していくのだ……。
 まあそれはさておき。私はこうしてネット上に爆誕した。今でこそ名乗ることがなくなったが、ネット上の私は『さつじんはん』である。名前の話だ。これまでは。

 黒歴史を生み、黒歴史にうめき、なんとか成人して。
 仕事を決めて、家を出て、年始だからと帰省して。
 そこに白いお餅ではなく、家族の潰れた肉塊が転がっていた。
 私は家族をいちどきに、全員亡くした。

 これだけの所業をして、捕まった犯人は精神鑑定とかいうふざけたもので無罪になったとき、ああなるほどと思ってしまった。名は体を表すという。中二病をこじらしただけの名前は、そうしてネットから現実に飛び出して、私を表す言葉になった。

 翌日、私のハンドルネームはあらゆるメディアから全国に轟くだろう。私の本名と共に。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

せめく

月澄狸
現代文学
ひとりごと。

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

私の夫と義妹が不倫していた。義弟と四人で話し合った結果…。

ほったげな
恋愛
私の夫はイケメンで侯爵である。そんな夫が自身の弟の妻と不倫していた。四人で話し合ったところ…。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

花になった貴女へ

チドリ正明@不労所得発売中!!
現代文学
ある日、少女は花になった。

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

明かりをつける

色部耀
現代文学
明かりをつけるシーン

処理中です...