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22・これで良いのかもしれない

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 何とも歴史が変わり過ぎていて理解するのが難しい、着いて行けるのかな?これ。



 さて、そんな日本軍についてもう少し深く調べてみると、統制権は湾岸戦争後に日本政府へと移管されているらしい。

 島嶼部の日本返還も、それに伴って行われているのでこの世界では小笠原や沖縄も1993年まで米国領であった。

 そして、軍の中身は完全にアメリカナイズされ、士官教育は米軍によって実施される体制が統制権移管まで続いたらしい。まあ、軍の統制権の過半を米国が持つのだから当然だが。日本軍なのに日本政府には作戦決定権も無く、米国が言うとおりに承認するだけ。予算も形式的な権限しかなく、ほぼ米国の云うがまま。ベトナム戦争後には漸次権限の移管が進むが、教育や作戦決定権は最後まで移管されなかったらしい。



 政治の世界でも共産主義や社会主義傾向のある政党が軒並み排除され、「米国の意向に沿う顔ぶれ」へと替えられている。朝鮮戦争に伴う騒動やサボタージュに起因して行われた措置であるんだとか。

 それに伴う教職員摘発や追放による教員不足から小・中学校が統合されて旧制回帰した国民義務学校となったり、教員確保に困った高校は旧制を代用して大学予備門化したり職人や技術者を招いて職業専門学校化したりと、80年代まで改編が続き、結局は9·4制の就職を前提とした職業学校と、義務学校から研究職や教員を目指す9·3·4制や小中の役割を復活させた6·4·2・4制など、地域や職種によって学制はバラバラで、改変はまだまだ続いている。

 さらにはベトナム戦争期には報道統制も敷かれ、放送法違反による停波や記者、編集者の摘発等も行われていたというから、全く別世界と言って差し支えない。

 そうした背景もあって、統制権の移管を受けた日本政府閣僚の半分近くは米軍教育を受けた日本軍出身者なのは、どうなんだろうね?



「どうやら帰って来たみたいだな」



 ディスプレイに現れた老人がそんな事を言う。そう言えば、昨日?も現れたはずだ。



「どうだね?かなりゲームが充実したと思うが」



 確かにゲームの充実度には大満足である。その上、調べてみれば、雷電はFw190風な機体として仕上がっているし、そこから開発された烈風なんぞシーフューリーだったし、言う事は無いと思うが、世界情勢が様変わりしすぎてついて行けない。



「そこは仕方がない。艦艇を弄った結果、歴史が変わった部分だからな。あの大西一家というのも面白かっただろう?」



 確かに、彼らが戦後も活躍して今の日本がある訳だし、その点は悪いとは思わないんだが、ね?

 が、それ以外の部分が様変わりしすぎちゃいないだろうか?半島だとか大陸北部だとか、ここまで変わる必要はなかったように思うんだが。

 そもそも、たかが南樺太と千島程度の為に、満州や朝鮮半島をあそこまで欲しがるかね、あの筆髭の独裁者が。



「ふむ。千島列島の価値を認識できとらんのか?史実では千島列島が手に入ったおかげで、沿海州とカムチャッカ半島が自由に行き来できるようになった。それが戦前と同じ情勢のままであるなら、それを代替できる港を獲りに行く。どこか間違っているのかな?ソ連が欲したものを代替する港があったのが遼東半島だった。それだけの事だよ」



 それだけの事でここまで情勢変化が起こるとは恐ろしい。



「いや、欧州も変わっとるぞ?チェコやハンガリー、ルーマニアも西側世界と呼ばれる勢力に組み込まれておった世界だからな。そのせいでロシアはウクライナを手放さなかった。その反動が出たというわけだな」



 どこかで同じことが起きるから、ヨーロッパが変化した反動として、極東でウクライナ侵攻が発生したと?

 勘弁してくれ。



「確かに、南樺太や千島があるから日本が心配するのは分かるが、ロシアの矛先は欧米や日本ではなく、大陸に向いておるよ。そこまで心配するには及ばん」



 そうなんだろうか?

 そりゃあ、満州は鉄鉱石や石油、石炭がある。渤海を廻り込めばさらに資源が手に入る。確かに、特に何も出ない南樺太や千島を狙って海軍戦力を失うよりも、有象無象が蔓延る地域を相手にした方が損害より利益が勝るのは確かだが・・・・・・



「それが分かっておるなら良いではないか。そうそう、ちゃんとこの世界での記憶と報奨は置いていくぞい」



 そう言うと老人は画面から消えて行った。



 そして、記憶が頭に入って来たのでふと後ろを見た。



 そう、自分の半生も当然だがそのままではない。それはそうだろう。歴史があまりにも変わっているのだから。

 自分の人生の違いは学制の変化による進学に始まり、成人後の人生のも起きている。

 幸か不幸か今の職自体は変わりはしないが、ただ唯一違うのは、自分が軍歴を持っている事だ。それも継続中といった方が正しい。

 日本軍が存在するこの世界では、当然ながら徴兵制が敷かれていた。徴兵制自体は日本に統制権が移管され、大幅な軍縮に伴って90年代に停止されているのだが、そこで大きな問題が起きた。

 軍縮に伴って、米国の州兵を参考に組織された地方警備や災害支援を行う予備役組織であった郷土防備隊の人員が次第に確保できなくなったのである。

 その為、21世紀に入り郷土防備隊も軍歴を問わず募集するようになる。そこへと応募したというわけだ。

 特典というかメリットは、軍での訓練を受けたという事で銃刀法での銃所持免許によらず、軍籍によって銃所持が可能になる。郷土防備隊は隊員が退役を申し出なければ終身であるため、銃所持も継続可能というのが何よりのメリットだろう。

 ただ、銃所持には即応招集に応じるという義務が生じるし、うちのような田舎であれば猟友会と共に害獣駆除に参加する必要もある。即応招集に備えて支給品の銃を配置しておくことが義務となるので、部屋にソレが存在している。



 この世界の日本軍は、あの、あ・の・M14を供給されたため、米軍よりかなり長い期間それを使用し続け、郷土防備隊では予算不足から国民突撃銃張りのボルトアクション式へ改悪されているザマなのだが、何をどう間違ったのか、意外とカッコいいんだな、これが。しかも、今では光学サイト用レールも付いて来るから、害獣駆除用にスコープを載せている。



「お兄ちゃん、おなかすいた!」



 そんな声が聞こえてきたが、妹など記憶にすらない。



 記憶を辿ると近所の娘なのだが、ここは21世紀と史実70年代が同居したような社会情勢の世界という事もあって、近所づきあいが濃い。ようやく郊外住宅がどうしたという話が地方にも波及してきた段階であり、それ以前の「田舎」が残るこの地域はこんなもんであるらしい。しかも、確かすでに17歳だったよな?あいつ。



「あ、ほら居た。ご飯は~?」



 こんな天然だが、一応地元の農商学校主席さまであるらしい。たしかに、郷土防備隊でサバイバルを含めて料理関係も学んだために、以前の人生とは違って料理もかなり出来るようになってるよ?で、なんでこうなってんだろうね?



「千佳の家は隣だろ!」



 と、言ってみる。



「何言ってるの?父ちゃんが『お前の旦那は祐樹だ』って言ってたよ?」



 まあ、こんな世界観であるらしいこの世界。そう言えば、あの老人も報奨は可愛い少女とか言ってたっけ・・・・・・

 いや、確かに、それは良いんだけど、変わり過ぎた世界とか、天然系とか、ナニカ違うんですが?



「たしか、イノシシが残ってたから、それで良いか?」



「もちろん!お兄ちゃんの料理大好き!!」



 たしかに、可愛い少女にそんな事を言われると、これで良いと思えてしまう。
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