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15・レーダーの日本名が変わったんだが

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 江田型掃討艦の設計を何とか終えた頃、何故か大和計画のヘルプに呼ばれる事になってしまった。



 一体何事かと動揺したのは仕方がないと思う。



 内容はダメコン関係の設備の話だった。



 この世界でも大和型戦艦の設計は藤本喜久雄抜きで行われていたのだが、なぜか今頃になって声が掛かった。

 いや、仕方ないんだよ?左遷こそ免れたが、友鶴事件でヤラカシた挙げ句、第四艦隊事件後の調査委員会でも嘱託殿と場外乱闘やら脱線事故紛いの暴走やらを繰り返していたために、上層部は主力艦開発から遠ざける事でさらなる平賀·藤本戦争を回避しようと動いた訳だから。



 結果、一部の派閥技官を主力艦設計チームへ送り込むだけで、藤本氏は駆逐艦をメインとして、やりかけだった巡洋艦が精々という窓際扱いを受けていた。



 だが、ダメコン思想を中途半端に導入した大和計画は帳尻合わせに失敗したらしく、第一人者本人による助言を求める事にしたらしい。



 で、もはや外観に手を入れる隙は残されておらず、船内の区画割りや注排水設備や応急設備関係を再設計や再配置するような細かな話しばかりだったが、注排水能力や発電能力を大幅に引き上げる様に改変しておいた。

 ついでに、予定になかった九六式57ミリ自動速射砲も簡易射撃盤とセットで艦橋や水偵設備のある艦尾に配置してみた。



「貴様、戦艦を何だと思っているんだ?そんな海賊を追い回す豆鉄砲など不要だ!」



 と、ある日現れた嘱託殿が叫んでいたが、対空火器として適当な能力があることを説明した。



「そんなゴタクを信じると思うのか?」





 もはや嘱託殿との喧嘩は様式美であり、いつもの如くに史実最終仕様バリに機銃や速射砲をハリネズミに配置した案を書き上げて煽り倒しておいた。



 ま、そんなことをやれば大和計画の部署に居られる筈もなく、最低限の案を纏め上げるとサッサと逃亡することにした。





 さて、そんな騒動があったしばらく後、江田型の改修が必要になったと連絡を受ける。



 何か不具合でも見つかったのかと焦るが、詳しく聴いてみるとデンケンなる装置を取付けたいらしい。



 デンケンとは?



 どうやらレーダーの事らしいが、史実とは名称が異なるの、なんで?



 レーダーの開発開始はとても早く、1926年には始まっていたらしい。

 当初は港湾における衝突警報装置として始められたらしいが、どうやら、それが空を監視するのに使えるとなり、1933年には史実陸軍が開発した電波標定機に近い品が完成し、更に方角や距離を検出可能な装置として1935年には電波見張り機材の名称で海軍が正式に装備化を企図した開発に着手。すでに地上設置型レーダーの実証機が完成し、さらには対水上レーダーの本格開発に成功。まずは海賊対処を行う掃討艦への装備を行う計画であるらしい。



 で、名前が電波見張り装置だから、デンケンと呼ばれる様になっているんだとか。



「で、その見張り装置を艦橋に着けると?」



 対水上レーダーのサイズは予想より大きく、マストに載せるのは厳しい。

 これからさらに小型化や性能向上を目指すらしいが、う~ん、九四式射撃指揮装置並のデカブツを掃討艦に載せるのか······



 やってやれんことは無いので対応したが、もっと小型化してほしいと伝えている。



 が、ついでに射撃盤と連接出来たら面白いなと賢吾君に笑い話がてらに伝えた。



 さて、そんなことをしていると、どうやら噂に聞いていた新工厰が大分に完成するという。

 そこでの最初の仕事は、やはり不幸な四姉妹の改装であるらしい。マジでやるんか。



 四姉妹を入渠させる規模って、メチャクチャでかいやないか。



 その話には続きがあって、畝傍型超巡洋艦も正式に決まっているからさっさと設計を仕上げろとの御達しである。



 仕様は36センチ砲案との事なので、マジ超巡洋艦として設計する事になった。



 この超巡洋艦の話、どうやら秩父型の話をアメリカがマジに受け止め、史実より前倒しでアラスカ級を計画中であるとかで、対抗措置として飛びついたらしい。

 しかも、事実上は高速戦艦6隻整備となる話だから、拒否という選択肢はなかったと。



 そんな話が舞い込んだ頃には仮名ぜかましの設計も抱え、英国でのダイドー級計画を知った海軍は防空巡洋艦まで要求。

 忙し過ぎて堪らないが、アチコチへと投げ渡しながら、作業を押し進めるしかない。



 そんな時に賢吾君がレーダー付き射撃指揮装置の話を持って来た。



「以前の話が具体化してきているのですが、艦艇設計側からの意見はありますか?」



 と、概略を渡されたのだが、確かにそれは、米国が戦時中に実用化したGFCSの様な内容であった。



「対空、対水上に使えるのは良いが、あまり大きいと載せられない。今の簡易射撃盤の様な速射砲や機銃に対応したモノまで見据えているのかな?これは」



 それはマサに戦中戦後に米国が実用化するシリーズを見せられている様な感覚になる。



 確かに、どこの国でも考え方は似たようなモノだろうが、使う真空管がデカいのだろうか、サイズ感がソ連である。



「なるほど。あと一つ、3次元レーダーがあれば全て揃うな」



 と、ソ連な二面式レーダーを思い浮かべながら口走る。



「3次元レーダーですか?距離と高度を一つの装置で測定するのは理想なんですが、実現はまだまだ先でしょうね」



 と言われた。確かに、3次元レーダーの実用化って10年以上先のはずだ。が、もしかすると出来るかも知れない方法がある。



「そうなんだな。確かに難しそうだ。だが、見張り用ならば、もしかすると出来るかも知れない。素人の思いつきだが·····」 



 と、ソ連の二面一対式3次元レーダーの概念を話してみた。ちょっとした頭の体操だよと軽く流してもらう様に念押しをして。
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