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9・それって確か沿岸域戦闘艦だったような?

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 1932年初夏の麗らかな日にドタバタとウルサイ足音がしていた。



 どうしたのかと思っていると、いつもとは違うメンツの軍人たちがやって来たようだ。



「上海の話は知っているか?」



 と、なんの前置きもなしに話しだした。



 たしか、上海沖で大惨事が起きた話は聞いている。史実の上海事変では起きていない事件であり、どうやら歴史改変につきものなバタフライ効果ではなかろうか。

 何でも、ただの砲艦だと認識していた国民党の船が実は魚雷艇であり、作戦に参加した駆逐艦や旧式巡洋艦などが撃沈される大事件が起きたという。

 大々的な報道は為されていないが、日本中で知らぬ者は居ないほどに衝撃が走ったほどだ。



 さて、一体何を要求されるんだろうか?魚雷で沈まない船?いやいや、冗談ではない。

 それとも、建造中や計画中の船への武装強化かな?



 魚雷艇相手なら大口径機関砲だが、生憎と今は手ごろな兵器が存在しないな。精々がポンポン砲を平射するくらいか。



「たしか、作戦に参加した艦艇が支那側に撃沈されたとか?武装強化の話なら、他を当たって貰えないか?」



 う~い~は~る♪や新型重巡足柄さん飢えたアラサーのお世話で忙しいのだよ。



「そんな用事ならば余所をあたる。貴様に聞きたいのは魚雷艇を排除しうる小型艦艇についてだ」



 うん?



 いや、あの。



 駆逐艦というのは元来、その魚雷艇を排除する役割として生まれたフネであり、艦隊や船団をそうした有象無象から守る事が任務だよね?



「貴様の言いたいことはわかる。それに駆逐艦の役割なのは確かだが、今回はその駆逐艦が損害を被っている。より俊敏で小型、安価なフネをどうにか出来ないか?」



 と、イキナリ直談判に訪れた様だ。



 本来ならしっかり話し合い、必要な仕様や任務を明確にして持ち込むべき話であり、軍令部を通して話をしてほしい。



「それも分かる。たが、そもそもの話、駆逐艦ですら対処し辛い小型艦艇にどう対処したものか、話をはじめることすら出来ておらん」



 なるほど、確かに今の海軍はとにかく強火力で正規艦隊と対峙する事にばかり目が向いていて、こうした足元が疎かだからな・・・・・・

 しかし、魚雷艇退治ねぇ~



「話は分かった。ただ、その問題を解決する方策自体があるかどうか分からない。40ミリクラスの機関砲でもあれば、相応なフネを作り、掃討も叶うのだろうが。まさか、昔の6斤速射砲を持ち出す訳にも行くまい?」



 ほら、巡視船はポフォース40ミリ積んでるやん。魚雷艇ならあの辺りで良いだろうが、そもそもそのボフォース40ミリだとかブレダ37ミリとか3.7cmFiak36と言った辺りの大口径機関砲が未だこの世に存在しない。それら有名どころは未だ計画中や開発中。もしやるならば、6斤速射砲とかの明治に活躍した小口径艦砲でも持ち出さなければ無理があるだろう。



 ちなみに、この6斤速射砲、戦歴は戦後にまで至るのをご存知だろうか?

 19世紀末に誕生し、1960年代にも活躍していた。

 と言っても、その最終戦歴はタラ戦争においてアイスランド巡視船に積まれていたって話なんだけどね。



「なるほど、さすが平賀御大の次代を担う巨匠だけの事はある。そうか、6斤速射砲か!」



 いや、何?巨匠って。しかも、速射砲に喰い付かれた········



「しかし、当時の駆逐艦では小さ過ぎる。東シナ海へ漕ぎ出すなら少なくとも500トン級でなければ難しい。そうだな、今建造されている水雷艇辺りと同規模で、速射砲を複数備えたフネなら、もしかすれば」



 と、千鳥型水雷艇と規模が似通ったあそ型巡視船を思い浮かべながら口にした。



「おお!貴様に相談に来て良かった!では、正式に決まれば改めて伺わせて貰おう!」



 と、嵐が去っていった。

 何?史実には存在しない補助艦艇なんか開発すんの?マジで?



 しかし、半ば思い付きで6斤速射砲などと言ってしまったが、40口径で初速も遅い。応急には仕方ないがどうにかしたいな。しかし、適当なモノが無いし、小型船舶や徴用船の備砲として考えると、6斤速射砲クラスもありかもしれない。

 後にソ連やスウェーデンが57ミリ機関砲を開発してるんだから、短8センチ砲の代替として特設艦船やら駆潜艇向けに需要があるかもしれない。何より、これから計画されるかもしれない巡視船モドキには最適な装備になるんじゃないかな?



 とはいえ、まずは足柄をタイプシップとする新型重巡洋艦や初春型駆逐艦だ。



 そんなこんなしていると、秋口には早くも要求仕様が纏まったと言って例の小型艦の話が舞い込んできた。



「それ、こっちでやんないとダメ?」



 一応そう言ってみたが、どうやらこういった小型艦は平賀派がサボタージュしてこちらへと回されて来るらしい。相当に嫌われてんな。

 さて、その要求仕様だが、公式要目として排水量600トン以下という条約外の高速艦であることが第一要件らしい。それ以上になると20ノットという制限が付いて回るので、魚雷艇を追いかけまわすには不都合だという。

 そりゃそうか、追いかけまわすのが上海沖だもんな。そこで駆逐艦級の船が高速で走り回れば、バレない訳がない。



 という事は、速成を条件とする以上、のんびり構えている訳にもいかん。使える船体と言えば水雷艇のソレか。

 しかし、相手は30ノット超らしいので、出力強化と船体も弄ろうか。平賀船体から改変してしまおう。

 改変は主に船首と艦尾。21世紀の高速船で見かける波浪貫通型バウにしてみよう。面白そうだから。

 これの進化系がダブルステップバウとかいう21世紀イタリアのフリゲートが採用する艦首形状になるが、それはちゃんと試験してから採用っと。

 艦尾は当然ながらトランザム·スタン。切り落とし艦尾は抵抗が大きいように見えて、実は効率が良くなるらしいんだ。



 そして、武装の要求は魚雷は要らんらしい。そのかわり、対地支援も可能なように12センチ砲が欲しいとの事。で、魚雷艇対処には6斤速射砲という、あの時口にしたソレが明記されていた。4基欲しいらしい。

 それ、巡視船じゃなくてLCSじゃね?時代がバグって70年も早く沿岸域戦闘艦の開発が始まってしまうらしいよ。

 さて、まずは基本を押さえた習作として千鳥型水雷艇をベースに設計してみよう。変にガン積みして本家LCS駄作になったらシャレにならんからね。 
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