アンチロボなヲタクが異世界転生した結果(ドラゴン・ベインが出来るまで)

高鉢 健太

文字の大きさ
上 下
9 / 13

通信が出来ないと連携もとれない

しおりを挟む
 実際に保護装置の制作に取り掛かったが、頭の後ろで紐を規制するハンス方式ではやはり色々と問題があった。

「これだと頭の動きだけじゃなく、腕の動きまで規制されるから動かし辛いし、長時間乗っているのは辛いね」

 リンがそんな事を言う。

 そもそも、FHRシステムは現在、ハンス以外に、レース用品を多く手掛けるシンプソンというメーカーが開発したものが存在する。
 こちらはハンスとは仕様が異なり、肩に載せた小さな土台から直接紐を伸ばしてヘルメットと繋いでいる。

 ハンスが肩から胸にかけて長く土台を伸ばし、そこをシートベルトで固定するのに対し、シンプソンの器具はベルトで胴体に装着し、肩部の器具をシートベルトで固定する。器具自体が小さいため、装着者の負担も小さく、頭の後ろで規制されるのではなく、紐の支点が肩にある分、首を振る自由度も大きくできる。なおかつ、固定部位が少ないので腕を動かす負何にもなり難い。

 ただ、ハンスは決まった紐の長さで誰にでも適合するのに対し、シンプソン式の場合、装着に際して事前に調整を行う必要がある。この調整が適正でなければ、もしもの時に本来の機能を発揮してくれない。


 それぞれにメリットがあり、デメリットもある保護装置だが、知っている物が二つあるのだから両方とも作って試してみた方が良いだろう。

「う~ん、これはまた・・・・・・、体を縛るんだ」

 リンが嫌な顔をする。

 それも仕方がない。

 ソ連の開発した耐Gスーツほどくっきりボディーラインを浮き上がらせる訳ではないが、上半身をベルトで縛れば当然ながら・・・・・・

「乗ってしまえば見えないから良いんだけどさ」

 そう言って、ちょっと不満そうだ。

 さて、このような器具を使う以上、ヘルメットも当然必要だが、FRPの様な合成樹脂が無いこの世界、金属か布か革で作るしかない。

 骨格を金属で作り、外装を革、内装を布や綿で成形したオーダーメイドのヘルメットになっている。

 もちろんだが、バイザーの無いジェットヘルだ。視界が広く取れて器具の取り付けが可能なヘルメットの形状を他に思いつかなかった。
 ほら、ラリー用のヘルメットってジェットヘルじゃないか。
 
 収穫機用は内装を簡素化して汎用性を持たせたヘルメットとして、器具の取り付けを可能にしている。

 試作品をいくつもリンと二人で試しながら改良を重ねて行った訳だが、その途中で重大な問題が出てきてしまう。

「リン!待て。その・・うわ!!」

 ドンという音と共に俺の乗るベインが転倒した。

 シートベルトやヘルメット、頸部保護装置のおかげで体に異常はないが、ベインは壊れてしまっている。

「ユーヤ、ごめん。終了の合図見逃してた」

 ベインを降りたリンがそう謝って来る。

「いや、ベインの視界は狭いんだ。動き回るベインからオッサンが常に見える訳じゃないし、声が聞こえる訳でもない。俺だって何度も見逃してるんだ」

 そう、問題はこれだ。

 無線がないので指示や合図が送れない。意志の疎通が難しい。

 魔法と言っても念話の様なものがある訳ではないので、機体間の意思疎通や外部の指示者からの合図を常に理解できるわけではない。

 無線の様なものをどう作れば良いのか俺にはよく分からない。スピーカーでも作れたなら違うのかもしれないが、そちらについても詳しくない。

「声を大きくする方法?そんなものがあるのだろうか」

 研究者に相談してみたが、彼も良く分からないらしい。

 そこで、糸電話を作ってみた。

「こうやって離れたところに声を伝える方法がある。声は振動だから、糸や空気を震わせて耳に届くんだ」

 そう言って簡単な説明をしてみた。

「なるほど、振動か。振動を大きくすれば、音も大きくなる・・・・・・」

 研究者は何か考えているらしい。

 彼も魔動機械の効率化に一区切りついてどこか手持無沙汰だった。ロボットの製作となると鍛冶師の領分であって彼の出番ではない。

 そんな彼にスピーカーみたいなものが作れないかどうか頼んでみたわけだ。

 スピーカーは確か磁石を使っていたはずだが、そこを魔動で再現できれば可能ではないのかと、素人なりに考えたんだ。

「銀糸に魔力として振動を流せば或いは・・・・・・」

 などとすでに何やら考えているようなので、後は彼に任せてみる事にしよう。 

 すぐに出来るとは思えないので別の事を考えてみる。

 ハンドサインでベイン同士がやり取りできると云うのはありだろう。無線が搭載される以前の飛行機なんかはそうだったらしいし。
 
 後は光での通信。モールスだな。

 ただ、両方とも模擬戦の中で使えるのかは分からなかった。

 特に、モールスなんて詳しくは知らないのでこれから作らないといけない。

 まずは、最低限の意思疎通を行えるハンドサインを決めて使ってみることにしよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako
ファンタジー
異世界の田舎の孤児院でごく普通の平民の孤児の女の子として生きていたルリエラは、5歳のときに木から落ちて頭を打ち前世の記憶を見てしまった。 ルリエラの前世の彼女は日本人で、病弱でベッドから降りて自由に動き回る事すら出来ず、ただ窓の向こうの空ばかりの見ていた。そんな彼女の願いは「自由に空を飛びたい」だった。でも、魔法も超能力も無い世界ではそんな願いは叶わず、彼女は事故で転落死した。 魔法も超能力も無い世界だけど、それに似た「理術」という不思議な能力が存在する世界。専門知識が必要だけど、前世の彼女の記憶を使って、独学で「理術」を使い、空を自由に飛ぶ夢を叶えようと人知れず努力することにしたルリエラ。 ただの個人的な趣味として空を自由に飛びたいだけなのに、なぜかいろいろと問題が発生して、なかなか自由に空を飛べない主人公が空を自由に飛ぶためにいろいろがんばるお話です。

白と黒

更科灰音
ファンタジー
目を覚ますと少女だった。 今までの日常と同じようで何かが違う。 のんびり平穏な暮らしたがしたいだけなのに・・・ だいたい週1くらいの投稿を予定しています。 「白と黒」シリーズは 小説家になろう:神様が作った世界 カクヨム:リーゼロッテが作った世界 アルファポリス:神様の住む世界 で展開しています。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!

京衛武百十
ファンタジー
異世界で何で魔法がやたら発展してるのか、よく分かったわよ。 戦争の為?。違う違う、トイレよトイレ!。魔法があるから、地球の中世ヨーロッパみたいなトイレ事情にならずに済んだらしいのよ。 で、偶然現地で見付けた微生物とそれを操る魔法によって、私、宿角花梨(すくすみかりん)は、立身出世を計ることになったのだった。

処理中です...