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10・農業チートを更に進めてみた

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 姫さまの本領へと帰った頃には稲の出穂期を過ぎ、穂が顔を出していた。

 しかし、その穂を見て僕はガッカリしていた。どう見ても前世の稲穂とは比べ物にならない程に少ない。何を失敗したのかよく分からないほどだ。

「おお!稲穂は出ているぞ、しかも、ちゃんと垂れるほど出ているじゃないか!!」

 少し前を行く姫さまも稲穂に気付いたらしいが、なぜか大げさに喜んでいる。僕のガッカリした顔は見えていないはずなのに。

 そう思っていると、周りも穂を見て喜びあっているではないか、なんで?

順大よりとも!すごいな、お前の教えた技は」

 姫さまが僕にそう言って褒めてくる。しかし、どう見ても稲穂は不作を示すほど少ない。確かに枯れたり弱っている様子はなく元気に育ってはるのだが・・・・・・、ああ、そうか、肥料が根本的に足りていないんだ。ようやくそこに思い至ったが、こればかりは解決策が無い。石灰だけでどうにかできるはずもなく、かといって田に撒けるほどの堆肥や腐葉土もないのだから。

 そもそもあの大量の堆肥や腐葉土自体、家畜や野菜を大量に飼育、栽培する事で得られた副産物であり、それをここで再現するのは不可能だ。

「なんだ、浮かない顔じゃないか」

 と言って姫さまが寄って来たので、予想より収量が少なそうだと説明した。

「なんだ、これを見てそんな事を言うとは、西国はよほど土地に恵まれているのかい?」

 と、これまでの状況を説明してくれたのだが、乾田直播であることからこの時期の出穂自体が予想外である事、さらに均等に発芽、生育するなど望んでも無理だったことから、従来は所々に歯抜け、草むらが目立つような水田も目立つ状況であったらしい。
 その状況に加えて生育不良も散見され、これほどそろった稲穂は大豊作の時に見れたら儲けものと言う状態だったとか。
 と言う事は、これで大成功って事で良いのだろうか?

 さて、姫さまの領地は水田を設けることができる水量豊富な河川を有している。東国においてこのような河川を有する領主は有力者ばかりで、多くの領主は水田などないかごく僅かでイモと麦を主体とした当た作中心なのだと教わっている。

 それはとりもなおさず、ひのと家が有力者と言う事だが、その出自はひのえと同じである。玄家も天国あまのくにあまの一族から分家した家柄であり、姫さまと僕はいわば同格と言う事になるらしい。

 僕にとってはどうでも良い話ではあったが、本来であれば東境鎮台とうきょうちんだいを担う家柄であったそうだが、百年前に東征に出て東国へと侵攻。
 しかも、そこで独立する事を選んだことから、元は治安維持を行う東境偵題とうきょうていだいの職に就いていた房尉ほうじょう家が職を継いだらしい。
 それ、都で聞いたことがない話だったんだけど有名な事なんかな?

 そんな訳で、ひのと家は東国西部の一番良い土地を領有している。そんな新参相手に東国の諸侯が戦いを挑んで、それがさらに戦いを呼び込んでしまって戦国状態にあるらしいが、そんな環境でコメの大豊作って大丈夫なんだろうか?

 などと心配しているが、そうはいっても僕にできることは特にない。玄家の出来損ないとして上の兄たちの様な領主教育など受けず、一武者としてとりあえず見栄えがする様になっただけだもの。何とか前世知識で補ってはいるが、それがここ東国で通用する保証もないしな。農業知識なら通用する事が分かったので、さらに新しい農具を提案していこう。

 疋勿あしなへ出向いた際、ちょうど麦の脱穀が行われているのも見たが、さすがにそこまで口出ししてしまうのもどうかと思ってやめておいた事をやって行こう。

 まずは汎用性が高い唐箕から。

 唐箕は中国で生まれたらしく江戸時代には日本にもあったらしい。ジャガイモらしきイモがある今世の東国には残念ながら伝わっていないのだろう、未だ見ておらず、モノを説明してもピンと来ていなかった。

 実際に四枚の風車を持つ唐箕を指導しながら作ってみたが、構造は難しくなく、さすが職人、すぐに覚えてしまった。

 そして、脱穀機。

 脱穀機と言えば誕生から百年が経つというのにいまだに多少姿を変えたのみで製造販売が続く、足踏み式脱穀機だろう。可動部分が唐箕よりも多いが、こちらも木や竹で大部分が作れる。鉄を必要とする扱ぎ歯もU字の針金でたぶん大丈夫なので確保する事が出来た。
 その頃、都合よくソバの収穫が始まったので実際に使ってみる事にした。

「おお!何だこの早さは」

 脱穀機の使い方を教えると脱穀の早さに驚く農民たち。これまでは板にたたきつけて脱穀していたらしく、かなりの重労働であったらしいが、ものの数十秒で綺麗にソバの実がこそぎ取られる姿に目や口が見開かれている。

 そして一人ずつ、実際に試してもらうと、さらに驚きの表情が広がっていく。

 あっという間に脱穀機の周りには黒い塊が積み上がっていき、それを箕で掬って唐箕の受け口へと投入。

「なんと!簡単にガラやゴミが飛んで行く」

 ハンドルを回しながら受け口のレバーを操作して実の投入量を調整してやれば、風を受けたゴミや実のは言っていないそば殻が飛び出していき、実は直下の排出口から流れ出してくる。

 唐箕はいたって簡単な構造なので工作も大した手間ではない。しかし、箕を使っての選別に比べてはるかに速く、大量に、そして確実に選別が進んでいる姿は、彼らにとって圧巻であるらしい。

 僕が実践した後は百姓たちへと代わり、彼らがどんどん作業を進めていくと、数刻で山になっていたソバの脱穀と選別が終了した。本来なら数日がかりの作業であったらしいが、一日で全てが終了してしまう。

「これは早い・・・」

 作業していた自分たちがその早さに驚くほどなのだから、ホント、機械の力は偉大だ。

 たしか、前世では千歯こきの事を後家倒しとか言って仕事を奪う事態が起きたとかなんとか聞いたが、この世界ではどうやらそんなことはないらしい。

 正確には後家さんといった人たちにも一定の仕事が割り振られるように姫さまが配慮しているという事で、僕の作った農機具は単純に労働時間の短縮を実現しているだけと言うのだ。

 そうして生まれた時間を使って、百姓たちは年貢から除外されている野菜類などを育てることで副収入を得たり食事が改善する副次効果をもたらすことになるのだろう。あと、猟師なども狩猟に割ける時間が増えると喜んでいる。
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