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6・なんか、思っていたのと違うんだけど

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「どうした?」

 普通に奪いに行くと言った姫さま、まるで驚きのない周りに僕が驚いたよ。

「ああ、そうだったね。西国は我らを恐れてるんだっけ?」

 と、思い出したように説明してもらったが、どうやら戦国時代らしいよ、ここ。

「ふむ。西国がどう考えてるのか知らないけどね。西国みたいに争いが少なかったら、東境とうきょうなんて今頃私の領地だよぉ」

 と、冗談めかしに冗談にならない事を言う。確かに否定は出来ない。悪鬼羅刹と恐れられながら、なぜ天国あまのくにへ攻めて来ないのか、今まで考えた事も無かったが、安定した統一国家ならあり得ない話だったよ。常識化した固定観念って怖いね。

「そう言えば、順大よりともは具足も武具も無いんだったね、具足は私のお古が合うかなぁ?」

 などと言い出し、金糸銀糸だろうか、金銀に輝く様なド派手な鎧が持ち込まれてきた。

「これなら合うんじゃないかな?まだ大きくなるだろうから、合わなくなったら次を用意したら良いしね」

 などと、僕を着せ替え人形のごとく扱い、側付きと共に鎧を着せられた。そして、弓を渡されたが、それは強弓よりさらに上の剛弓だった。これを使えとな?

「あの技を使うなら、その弓を使って遠射で狙った方が良いと思うんだ」

 と、にこやかに言うが、チビの僕にどうしろと‥‥‥

「大丈夫、ひと月やふた月はあるから」

 と、つまりはその間はちゃんと修練しろって事だな。たしかに、もうやるべき農業チートも暫くないだろうしね。

 そんな訳で、僕にも馬が与えられた。

 日本馬然としていた玄家の馬より馬体が大きい。ちょっと乗るのが大変だ。

 馬もそうだが、鎧にしても違いがみられる。

「物珍しそうだねぇ。仕方ないよ、西国と違ってあずまは大島と交易があるんだから」

 と、得意気に言われた。

 と言っても事実なのだから仕方がない。

 玄家には測典絵巻なる物が存在し、それはどう見ても地図だった。もちろん、前世の正確な地図には及びもつかない代物だが、たぶん海岸線の特徴は抑えているのだと思うくらいには出来がよく見えた。

 それによると、この世界の和風な場所も日本同様に大陸から適度に離れた島国らしく、本州に相当する棒状の島と付属する三つの大きな島が描かれており、天国あまのくには本州の西半分と二つの島を有している。東国は本州の東半分と北に浮かぶ島。

 ここまではデフォルメされた日本として理解できる。さらに、そこから外についても概要が描かれており、前世との大きな違いは天国が大陸と接するために必要な朝鮮半島に相当する地域が存在しない事だった。

 そのため、東国は樺太に相当する大陸北部地域と交易が密に行えるのに対し、天国は琉球に相当する南の島国を介した関節的な交流が時折行われるだけなのだ。船が精々遣唐使で使われた程度の遠洋航海に適さないモノなのだから仕方がない。朝鮮半島に相当する航路が設定できない以上、交易の中心は東国にならざるを得ず、新しい技術や文化は東国を介して入って来ていた。前世日本とはその文化的進度が逆転している事になる。

 ただ、その東国は日本と違って水資源に恵まれず、なぜかあるジャガイモを主食とする畑作中心の国となっている。このひと月少々で見聞した範囲で言えば、ここは東北や北陸よりも英国に近いのかもしれない。そのくらい高い山がない。では天国は?と言うと、まさに日本。いや、東国をイングランドやウェールズだとするなら、スコットランドと言うべきか?イギリスを横にして引き延ばして成形した姿を想像すればいいのだろう。標高で言えば西高東低って事になる。東が低くて大陸からの雲が留まらずに流れてしまうから雨や雪が少なく、水資源に恵まれないのではと推察している。

 それからは弓の修練が始まった。

 ファンタジーものみたいに補正がある訳では無いので遠射が簡単に出来るはずもなく、妖気を巧く使って剛弓をブレなく引ける様にするところから始めている。
 と言うのも、このふた月余り武装解除されていたので弓を扱う感覚が鈍っており、渡されたからと言ってすぐに扱えるほどではない。

 まずは標準的な的を射る事から始め、徐々に遠距離を狙えるように調整していった。

 ある程度慣れて来たら、今度は騎馬での修練だ。この東国も玄丙同様に騎馬武者が騎射戦を行う事が一般的なようで、玄家よりも馬が良くなり機動力が高く、騎馬武者の戦闘力は増している事だろう。

 修練をはじめてひと月もする頃には、何とか200mくらいの距離で胴を模した的に当てることが出来るようになってきた。

「騎射で二町近くを狙えるなら上出来じゃないか」

 と喜んでくれる姫さま。だが、問題は飛距離以外にもある。どのくらいの範囲で転移が成功するのか、射距離もそうだし、命中か所からの効果距離も今のところ曖昧だ。

「ふむ、ならばそれも試せばよいじゃないか」

 と言う事で、山へ狩りに出かけ、鹿狩りによって効果範囲を探り、的を狩った獣とすることで距離を探った。
 結果は200mでも十分転移が可能だったが、効果範囲はご都合主義とはいかず、1m内であること。狙った目標以外に当たっても効果がないことが確認できた。意外なところでは、木の的であってもその釘や的の一部を転移は可能だったことだろう。

 それを聞いた姫さまはさらにニコニコしている。

「そうか!ならば、順大よりともの戦い方の幅が広がるな!」

 と、とんでもないことを言い出す。

 そして提案されたのが、敵将を生け捕りにする場合には鐙や手綱などを奪い去って戦闘力を著しく低下させるとか、城攻めの際に城門へ射かけて門の要となる閂や丁番を抜き取って門を開けると言った使い方が出来るという。

 なるほど、それは確かに出来そうな気がする。

 と言う事で、実際に騎馬武者から鐙や手綱を奪ってみることにした。出来るだけ危険がない様に矢じりの無い布巻の矢を用いて実験してみると、成功した。もちろん、命中位置からの距離という制約は変わらないが、それは大きな問題ではない。

 さらに門に関しても問題なく成功した。

「なかなか良いじゃないか。これは面白いことになりそうだぞぉ」

 と、姫さまは悪い笑顔で何やら思案しているらしい。

 ちなみに、奪いに行くという石灰鉱山は北の丘を越えた先にある疋勿あしなという領地であるらしい。

「賂舐の野郎、私を厭らしい目で見やがって。あんな愚図で無能など、なぜ私が相手しなきゃならないんだ?領地以外に何の取柄もない奴だ。アレが領地を持っていること自体がおかしい。私が上手く差配してやろうというんだ、喜んで討ち取られていればいい」

 などと言っている。そして、とうとう出陣となった。
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