巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太

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77・おっさんは和んだ

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 それから10日後、サンポが言っていた様にギルマスは直ぐにギルド職員と冒険者を寄越してきた。

「いきなり団体で寄越して来るとは、ダイキが信用されているのか、あのギルマスが欲深いのか」

 サンポがそんな苦笑いしている。

「人が増えたら東の出城も回せる」

 キョーコがそう言って来る。

 今回はギルド職員と冒険者30人がやって来たので、冒険者の半数を連れて出城へと向かうおっさん達。

 冒険者達によると村跡を改修した休憩所は好評で、拠点から砦までの往来が楽になるという。
 村にあったアーチ橋にも驚いたらしく、なぜかキョーコが誇らしげにしていた。

 出城に着くと騎士や村人が忙しくしており、壁以外の部分はまだほとんど外観だけであることが分かる。
 それでも拠点と変わらない立派な壁や建物に驚く冒険者をよそに、おっさんはさっそく塔へと登ってみることにした。

 塔から西を見れば砦が見え、狼煙や灯火で連絡をとるくらいならおっさんで無くとも可能な状態である事を確認した。

 南を見れば見慣れた光景が広がり、南東には川が東へと流れを変えながら続いている。

 そして東だが、こちらが高い事は明白で、南と比べて極端に地平線が高くなっており、北へと下がっているのが見て取れた。

 それは山というにはなだらかで、丘という方が適切だが地平線が極端に高い事から、出城からの高さは数十メートルになるものと見積もれた。

「崖がある訳じゃないが、丘を形成する何かが向こうにあるのか?」

 おっさんはその丘の向こうへ行きたい衝動にかられ、以前カズキが言っていた川へ架橋する話を持ちかける。

「良いよ」

 カズキは二つ返事で快諾し、出城の目前から製作をはじめ、僅か一日で完成させた事には驚きしかないおっさん。

「この辺りは岩盤が硬いし、浅い所にあって造り易かった」

 おっさんが理由を聞けばそんな答えが返ってくる。

「もしかしたら目の前の丘は大きな岩とか露出した岩盤かも知れないね。向こうは手を加えずに橋台作れたから」

 カズキの言葉で改めて東を見れば、確かに木の生えない不自然さに気付かされたおっさん。

 完成した橋はおっさんが考えていた錦帯橋の様なデザインではなく、より見慣れたコンクリート製連続アーチ橋だった。 
 材質はコンクリートではなく、周りの砂や石を整形したり圧縮したものとカズキが説明したが、質感はコンクリートと言われていたら信じてしまう。

「村人に聞いたら地震は経験がないって話だったから、無筋コンクリート橋に近い構造で十分かな」

 そんな橋の耐用年数はゆうに数百年はあるだろうとの事で、北の村で見た錦帯橋モドキの様に永く残るらしい。

 橋が完成して直ぐ、渡り初めを行い対岸に立ったおっさんは、ショーコに辺りの植生を聞いてみる。

「本当に草しかないね。ほら、岩だから無理だよ、ここ」

 見たままの答えしか返って来ず、それ以上の興味が沸かないらしいショーコはすぐさま出城へと帰って行った。

 おっさんが丘へ登りたいと言うと、カズキと武器改良がしたいキョーコが降り、キャリーは着いてくる気が無く、拠点へ向かったメンバーだけとなった。

 翌日には準備を整えて出発したおっさんたちは時折草が生えるだけの岩を踏みしめながら進む。

「何も居ないな」

 サンポが言う様に周りには魔物の気配がまるで無い。
 おっさんが塔から見回した時も、東の丘にはまったく気配がない事に気付いていたし、そうだったからこそ来てみたいと思ったのだが。

 1日目の夕暮れを迎えてもまだ出城が見えていた。
 多少歩き辛い場所もあったとは言え、20キロや30キロは進んだはずなのに、まるで景色が変わらない。
 西や南はずっと平原が見えるばかりで、東や北はどこまでも岩しか見えない。

 そんな場所でテントを設営するのも大変だった。
 おっさんはキャリーが来なかった理由を理解する。

 翌日、日の出頃には起き出して出発の準備をし、さらに東へと歩み続けるのだが、変わった事と言えば標高が上がったのだろう、出城の見え方が徐々に低くなるばかりで、まるで変わらない景色が続いている。

 こうまで魔物の気配ひとつなく、景色に変化がないと誰も喋らなくなり、ただ東へと歩く足音しか聞こえなくなる。

 2日目の夕暮れ、まだ出城が見えている。ただ、高さはそろそろ塔の高さに達したのだろう。目線の先に塔があった。

「2日歩いた。距離にしたら砦から出城付近のはずだが、まだ東は何も見えないな」

 サンポが面白くなさそうにつぶやくが、おっさんも今さら後悔していた。まさか2日目も進んで景色が変わらないのは想定外だったからだ。

 薪になるものすら無い岩の大地で2日目の夜を過ごし、3日目も黙々と東を目指して進んで行く。

 すると、昼頃には塔が見えなくなり、ようやく丘の頂上を越えた事を確認したが、目の前の景色は相変わらずだった。
 北も同じく、西すら同じ。景色が変わらな過ぎる事で目印を付けながら進む事にした一行。

 東の景色は相変わらずでただ空が見えるのみ。

 そして、3日目が終わろうとした頃だった。

「お、東が拓けたな」

 サンポがそう嬉しそうに言い、おっさんも安堵したのだが、

「何かおかしくないですか?」

 エミリーが疑問を口にする。

 おっさんは首を傾げながら眼前の景色を眺める、異常や異変を探るのだが、何も不自然な事が見つからなかった。

「いや、山脈と大河、いや、あれは湖かな?」

 眼前に広がるのは左右の山々と切り開かれた水面が広がる光景で、何がおかしいのか理解できずにいた。
 ふとサンポを見て、ヘタを見たが、ふたりもおっさんと似たような顔である。

「ここは出城の塔と同じ高さのはずですよね?では、見えている距離はどうですか?」

 おっさんが改めて景色を見れば、不思議な事に山脈が湖に沈む様に消え、地平線と水平線が同じ所にあった。
 それが単に山脈が東へ行く毎に低くなっているなら分かるのだが、地形として明らかに不自然な見え方をしている事に気が付いた。

「確かにおかしい。山脈の地平線と湖の水平線の距離が明らかに違う」

 遠見で見れば一目瞭然だった。

 さらに山脈と認識していたものを遠見で南へと見れば、平原からの続きである事も分かる。

「これは・・・地溝帯か?」

 おっさんが導き出した回答がそれである。

 翌日、朝からさらに東へ進む毎に水面から陸が浮き上がる様に見えて来る。

「これは不思議ですね」

 おっさんとエミリーがサンポやヘタへと、世界が実は球体であり、地平線や水平線が何であるかを説明していた。

「まるで水面から陸がせり出す様に見えるなんて、ダイキさんの説明がなければ驚いていました」

 久々に現れた景色の変化にはしゃぐヘタ。

 森人の20歳は人間で言えばエミリーより年下にあたるため、年相応の姿に見えたおっさんは和んだ。

 4日目の夕暮れに見た姿は、丘の終わりと数百メートルの断崖だった。

「実はここは高原か?」

 おっさんには眼前の景色が理解できなかった。
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