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75・おっさんは慎重だった

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「おお、そうかそうか」

 責任者は報告に上機嫌である。これで直近の脅威が去ったのだから当然と言えば当然だろう。

 オーガを討伐し、オオカミたちもあまり戻って来ていない事から、さらに周辺での食料探しが行われ、樹の実やソバが多数収穫されることになった。
 解体されて残ったオーガのウロコはカズキが弾や矢、防具の材料として活用し、皮も捨てずに利用しようと村人たちが鞣している。

 平穏な日々が訪れて、おっさんはここへやって来た本来の目的を思い出した。

「そう言えば、そろそろ拠点へ報告しないといけないな」

 さすがに遅すぎる時期ではあったが、ここに居ついてしまっても何か進展があるわけではない。

「そんな事を言っていた気がするな」

 サンポも投げ槍にそんな事を言う。

「では、拠点へ戻りますか?」

 ヘタが気乗りしなさげにそう聞いてくる。

 ふと他の面々を見れば、すでにキャリーはショーコと出かけてこの場に居ない、コータも引っ張られていった。キョーコは最近カズキとエアーライフルの改良や防具の開発に忙しそうだ。

 一応、夕飯時に話をしてみるおっさん。

「あー、もうここの食料って越冬可能だよね」

 キャリーは拠点への帰還に乗り気ではないらしい。

「まだ改良点が幾つかある」

 キョーコはせっかく取り組んでいる事を中途半端にしたくないらしい。

 特に何も言わないコータについては、キャリーが離そうとしないので、本人の意思以前も問題だった。

「もっと南を探索してみたいところだがな」

 サンポまで何か言い出している。

「いや、それは準備が整ってからでしょ」

 ショーコがそんな突っ込みを入れ、言い合いを始める。

「川の近くに出城を作ってここと連携取るようにするのもありだと思う。ソバが自生してる範囲は広いだろうから、南へも出城を作って開拓地を徐々に広げていくのもありかな。その為の人も呼ばないと今の人数じゃ足りないだろうし」

 カズキが言う通り、どちらにしても現在の砦の人員ではそろそろ人手不足なので、人を呼んでこないと開拓地の回復も難しい。

 さらに問題として、ギルド支部も無ければ行政を担う官吏すら不足している始末なので、すべてを再建しなければならない。

「報告前にここの上の連中と話をした方が良さそうだな」

 おっさんの一存で出来る事ではない事から、砦の幹部たちにも話を聞きに行くおっさん。

 結局、砦の責任者から拠点当ての書類をもらい受け、それを持って帰ることになったのだが、サンポがおかしなことを言い出した。

「カズキが居れば東に新しい砦を作るのもすぐなんだろう?ここほど大きくなくて良い。2、300人も籠れたら十分だ。そのためにはさっさと拠点へ行き、ここへ戻ってくる必要がある。アレを貸してもらわないか?」

 サンポにすれば、拠点から人を呼び、自分たちは早くオーガ探しに行こうというのだが、そう簡単に話が進むのかと訝しむおっさん。

「どうせ北と比べて冬が来るのが遅いんだ、まだ時間はあるさ」

 というのでダメもとで責任者へとチャリオットを借りられないかと聞いてみれば、すんなり貸してくれることになった。
 おっさんとしてはあまり乗り気がしない乗り物なのだが、サンポは全く気にしていない様で羨ましくすら思っていた。

「馬は賢い魔物ですから、拠点との往復なら私たちでも操れますよ」

 エミリーが自信ありげにそんなことを言う。

 この砦に居る馬の数は限られるし、チャリオットは貴重な存在である。そう多く借りることが出来るわけではないので、一台のみを借り、カズキ作の改造によって4人乗りとなり、一応バネも備えた特別製に仕立て上げ、拠点へと出発する事になった。

「これは快適じゃないか」

 サンポが本気でそう思って良そうな顔で言っているが、日本でマトモな自動車に乗った経験のあるおっさんからすれば、ガタガタの泥道を自転車で走る方がまだ快適だと思える程度の改善しか感じられなかった。

 それでも並足程度であればまだ耐えられる乗り心地だったので1日目は以前発見した村後で一夜を過ごした。

「オーガはどこかへ行ったのか?」

 翌日、北へ向けて出発して尚、オーガに出くわすことなく順調にチャリオットを飛ばし、夕暮れ頃には拠点の見張り塔が見える位置までやって来た。

「どうします?急げば間に合うと思いますが」

 エミリーがそう言って聞いてくるが、見慣れない乗り物が夜にやって来ても警戒されるだろうと考えたおっさんはここで野営する事にした。

「まだ早いんじゃないか?夜までにはつくだろう」

 サンポもそう言うのだが、それでもおっさんは慎重だった。 

「南から見慣れない魔物がやってきたら警戒するのが普通でしょう」

 ヘタがそう言ってサンポを嗜める。どちらが年上か全く分からない会話をしているふたり。

「砦に向かった時を考えれば随分早かったですし」

 エミリーもおっさんに賛同し、すでに明るいうちから馬を止め、休ませている。

 こうして翌日、本当にゆっくりと拠点へと近づくおっさんたち。

 やはりと言うか、おっさんたちを発見した面々が何やら慌てて動きまあっている姿を見たおっさんは、夕暮れ時に来なくて良かったと思うのだった。

「誰だ!止まれ!!」

 やはりと言うか、拠点へと近づけば張りつめた冒険者の声が響く。

「ダイキだ!南の砦から帰って来た!!」

 おっさんが叫べば門が開いて人が飛び出してくる。

 そして近くまでやって来ると

「マジだ、帰ってきやがったぜ!」

 冒険者がそう拠点へと声を掛け、ようやく中へ入ることが出来た。

「無事に帰って来たのかい?人数が減ってるようだが」

 ギルドへ向かえばギルマスにそんな事を言われ、これまでの事を説明し、責任者から受け取った書類を渡す。

 受け取ったギルマスはそれを読み、最初は驚き、徐々に考える顔になり、時折おっさんたちを見ながら読み終えた。

「そうかい。向こうは冬を越せる程度の蓄えは準備できてるのかい。こっちは何度か東征村との行き来は出来たが、またオーガが出て来やがってね。倒すのに苦労したよ」

 少々そんな恨み言を言われるが、おっさんに何かできる訳では無かった。そこからはギルド内の政治に関する話になる様で、ギルド幹部も交えての話となり、職員数人とある程度の冒険者を砦へ送る事で話がまとまった。

「南でも中継点になる場所があるから、出来るだけの整備は頼んでおく」

 おっさんたちは昼頃には拠点を出発し、砦へと向かうのだった。
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