巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太

文字の大きさ
上 下
71 / 80

71・おっさんは確認する

しおりを挟む
 魔法瓶を心待ちにするおっさんは、今日は塔に居た。
 代わりに外の探索はサンポ、ヘタが護衛として継続中である。

 今日は少しエリアを広げてソバや樹の実を収穫するらしく、おっさんが高所から監視と援護をした方が良いとの話になっている。
 おっさんが塔から見渡せば、なるほど、畑の様に密集している訳では無いが、まだまだソバの群生地が見つかる。
 それをまわる途中に実をつけた木々も点在しているのが見受けられた。
 既にオオカミはおっさんたちを脅威と認識し、収穫チームが砦を出ると周囲から退散していくのが見えた。
 周りに転々と転がるオーガ目当てにはやって来ただろうオオカミたちだが、既に干乾びたオーガに可食部分があるようには見えないおっさん。
 ショーコのスキルは動物には対応しておらず、村人や兵士頼りの判断では、不可となっている。それでもオーガの匂いや人間の匂いに集まったオオカミたちはこの場を去ろうとはしない。

「オオカミって雑食だったかな?」

 ふとオオカミがソバを食む姿を見つけたおっさん。
 遠くを見渡せば、北や西には多少マシな緑が見え、南はさらに土色が増す風景。東は境界が斜めに走っているのだろう、徐々に緑が減少している。

 おっさんは、さらに東へ向かえば大河が存在し、それがナイルやチグリスの様な緑を育て、オーガの生存圏を形成しているのではないかと考えていた。
 それは数百キロでは足りず、千キロ以上先の事。そう考えれば増えすぎた群れが移動をはじめたなんて理屈も通るだろう。
 ただ、爬虫類なら寒さに弱いハズなのに大丈夫なのかと、他人事ながらに心配もしていた。

 そして、ふと思い出したのが北の村周辺を流れていた川である。

 水量もあったし、南ではなく東向きへと流れを変えていたなと思い出す。
 マトモな地図ひとつない東方開拓地だけに、あの川が何処へ流れているのか分からない。

 そして、おっさんはさらにもう一つの川を思い出す。

「ニジェール川ってのは、砂漠の中を流れてたっけな」

 さらに流れの面白い川が日本にもあり、四万十川など一度海岸線から数キロのところまで下り、山に遮られて山中を迂回している。

 同じ様な屈曲した流れであるなら、開拓地のはるか北方をぐるっと周り、東方へと抜けている可能性だってあるなと考える。南へ向かうと聞かされたが、東方へ至るも大河川を渡っていない。

 遠くを見ながらそんな事を考え、時折収穫に忙しいショーコたちを見る。
 オオカミは距離をとって警戒するのみであるが、よく見ればオオカミたちが群れる辺りを避けながら探索や収穫を行っているのに気付いたおっさん。
 それが考えあっての事なのか、それともスキルがそうさせているのかは、おっさんにも分からなかった。

 塔の上はとにかく暇を持て余したおっさんは遠くを観察する。
 北をずっと地平線まで見れば、来た時の道というにはか細い道筋が伸びている。
 西にも伸びており、それが東征村から直で向かう道筋だった。
 南へも道筋がわずかに見えるが、今やそちらに開拓村は存在しない。

 東を見れば、ずっと広がる薄い草原。たまに灌木が生える程度。もはや見慣れた風景になっている。

 だからこそ、僅かな変化に気が付いた。

 地平線辺りに穴を掘って出た土を盛り上げた様なモノがポツポツ見える。おっさんが以前見た時にはなかった風景だった。
 距離からすれば50キロ近い遠方のため、確認に行くにも時間が掛かる。

 おっさんはもしもを考え、責任者へと報告する事にした。

「何が見えるんだ?」

 伝令を介した報告を受けて騎士がひとり塔へと登って来るが、遠すぎてよく分からないらしく訝しむ様に呟いた。

「遠見で見ないと分からないのだが、盛り土が複数確認出来る。人の背丈ほどはあるだろうから、何か魔物が居るのかもしれない」

 おっさんがそう伝える。

「ふむ。魔弓のスキルか。こちらで探索してみる」

 騎士はそう言って降りて行き、しばらくすると騎馬兵数騎が東へと向かう。

 それを眺めるおっさんは、やはり騎馬なら速度があるなと羨ましくなるのだった。
 この世界、少なくともおっさんの知る王国の騎馬は魔物を飼い慣らして乗馬や駄馬として用いるのが主流で、西方から持ち込んだ馬や牛は王侯貴族しか所有していない。
 環境の問題もあるが、何より生息する魔物が牛馬よりはるかに強いのだから仕方がない。乗馬して魔物が頻繁に出る地域など出歩こうものなら、すぐさま魔物に狙われてしまう事うけあいである。
 結果、騎士が乗る馬すら大半は東方の馬によく似た草食性の魔物を飼い慣らしている。
 そのため、ベルシュロンの様な重種の馬に相当する巨大さである。

 体重一トンはある巨馬が複数駆けていく姿は壮観で、見事に土煙まで上げている。馬を駆る騎士も体格が良いはずだが、子供が操る様に見えるあたり、おっさんの尺度からは、馬と呼ぶのは疑問があった。

 おっさんは騎兵が目的地へ向かうのを見守っていた。
 騎兵はずっとかなりの速度を維持して走り続けている。この辺り、魔物の魔物たる所以だなとおっさんも思う。
 馬型の魔物は身体強化が使える事から馬というよりもはや自動車やバイクの様な存在で、荷馬車を曳かれせれば数トンの荷物を一頭で曳ける力を持ち、騎兵であれば一日200キロ近い移動すら可能になる。もちろん、騎士にも並ではない強靭な体が要求されるが。

 そんな騎兵が一時間ほど東へと駆けた時、盛り土周辺に変化が起こり、察知した騎兵が全速力で逃げ帰る姿を目撃したおっさんは、備え付けられた鐘を打ち鳴らす。

 ふと探索チームを見れば風上にいるせいか気付いていないらしく、おっさんは弓を出して鏑矢を飛ばす。

 ショーコやキャリーがその意図に気付くかどうか多少不安だったおっさんは、鐘を鳴らしながら探索チームを見守る。

 どうやら意図に気付いたらしい面々が塔を見上げ、そして砦へと逃げ込んで来た。

 それと同じ頃、塔へと騎士が現れたので騎兵が退避中であること、どうやら魔物の一団がこちらへ向かって来ている事を告げる。

「何だと!一大事だ!」

 騎士は慌てて塔を降りて戦闘準備を指示して回る。

 おっさんは魔物に追われる騎兵を遠見で観察していると、追いかけている魔物がオーガである事が徐々に判明し、追加で下へと伝令を出す。


 オーガが射程に入ると弓を構え、迫るオーガを狙い先頭を転がす事で一団を遅延させる事に成功した。

「よし、騎兵も帰還したな」

 おっさんは騎兵の帰還を声に出して確認すると、さらに増え続けるオーガへと視線を向けた。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...