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65・おっさんは荒てた

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 騎士の先導で要塞へと向かったおっさん一行は、途中で撤収作業中のチャリオットと合流して驚く。

「コンパウンドカタパルトか?」

 おっさんは驚きながらそう口にした。

 それはチャリオットだと思っていた馬車に搭載されていた弩の構造にあった。

 弩は強力な石弓なのだが、その分大型で、どうしても横に長くのびるので取り回しに困る代物になる。間違っても馬車で容易に移動可能なものではないのだが、そこにあったのは地球に存在した強力なコンパウンドクロスボウの様に縦長のリムを有し、滑車で繋がっているため、大きさの割に幅を取らない構造となっていた。

「砦や鎧だけじゃなくこんなものも作れるんだ」

 キョーコもそれを見て驚いていた。

「ああ、カズキは砦を強固にした上にあの塔を建て、あの鎧馬を射抜けるカタパルトまで作り出してくれた。いやぁ、さすが召喚者だ」

 騎士も上機嫌に自慢する。これであればさすがのオーガもひとたまりもないなとおっさんも思った。

 オーガに対抗するために連れて来られた軍団と召喚者であったが、当初は劣勢で、三人の召喚者の剣や魔法は全く効果がなく、兵士や騎士も多くが戦死し、冒険者たちも倒れていった。
 そして、次々冒険者が逃げ出す中、カズキは自ら作り出した弓の威力を更に向上させようとカタパルトを作り出す。
 その台座や移動用の荷車まで作れることに気付いて以後、砦の強化にも取り組み、今の要塞が完成したのだという。

「この北にあった村の橋は?」

「ああ、あれならつい10日ほど前に作ったものだ。鎧馬も最近は来なくなったんで、拠点と連絡を取ろうとあそこまでは行ったのだが、新たなオーガと遭遇して撤退したんだが、拠点へは向かわなかったのか?」

 騎士がそう語り、キョーコがおっさんやサンポたちの活躍を語る。

「まさか、アンタが魔弓使いだったのか?」

 マジマジとおっさんを見る騎士。

 さらにエミリーがこれまでの話をすると、騎氏は肩を落として溜息を吐く。

「もっと早くあんたが来てくれていれば良かった」

 そんな事を言うが、今さらである。

 そんな話をしているうちに要塞の門へと到着し、壁を見上げて唸る事になったおっさん。

「ずげぇな、これは・・・・・・」

 10メートルはある壁、そして重厚な作りの門扉。もはやレベルが違う。

「姉ちゃん!」

 そんな声が聞こえて視線を落とせば、一人の少年がこちらへと走って来るところだった。

 その少年がカズキなのだろうと思ったおっさんだが、召喚された際の彼を思い出すことは出来なかった。

 ふと見れば、あのキョーコが泣いていた事に驚くおっさん。

 再会を喜ぶふたりにもらい泣きしそうになったおっさんはそそくさとその場を離れる。

 そして、要塞内にあった物を見てさらに驚いた。

「なんじゃ、ありゃあ!!」

 そう叫んでしまい、再会を喜んでいたカズキが反応する。

「一応、作ってみたんだけどさ、動かなくって」

 そこにあったのは戦車である。種類などは分からないおっさんだったが、これが動けばオーガなど物の数ではないと思った。

「なんでテケ車九七式軽装甲車?」

 気付いたキョーコも尋ねている。

「少人数で動く方が良いかなと思って」

 と答えるカズキだったが、(テケ車って何?)と、会話について行けないおっさんだった。

 動かない理由は非常に簡単で、外観は製作できたが細かな中身までは作り出せていなかったからだという。
 
「エンジェル・ウエポンズみたいにファイアリングピンひとつから作らないとダメって事?」

 というキョーコ。

 そう言ったキョーコもエンジンやミッションなどの機械をネジ一本から再現するほどの知識は持ないため、戦車を動かすことは出来ないという。

「エンジンが完成しても燃料も無いよね?」

 と、その横で苦笑するコータの声におっさんもハッとした。

 おっさんもエンジンやミッションの構造を出来るだけ伝えようと考えていたのだが、コータの言葉でそもそもの燃料や潤滑用のオイルが手に入らないのでは動かない事を悟る。

「うん、実はそう」

 と、カズキも苦笑している。さらに

「こんなのも作ったけど、雷管が作れないから使えないんだ」

 と言ってリボルバーピストルらしきものを取り出すカズキ。その姿にはもはや笑いしか出ないおっさんだった。

「いや、それは大丈夫」

 キョーコがそう断言したのでみんながキョーコを見る。

「でも、姉ちゃん雷管の成分なんてわかる?」

 カズキがそう尋ねれば、首を横に振るキョーコ。

「ダメじゃん、それ」

 キャリーも加わって来てそう言った。

「どのくらいの威力なら使えるか試したいからオーガ拾って来る」

 そう言って出ていくキョーコ。そして、それを追いかけるカズキとコータ。

「何を作る気だ?アイツ」

 戦車を眺めていたサンポが戻って来ておっさんに尋ねたが、おっさんも何がしたいのか分からなかった。
 戻って来たキョーコは収納からオーガを取り出すが、それはもはや乾き果てたナニカでしかなかった。

 それを放り出してカズキへとおっさんにはよく分からない説明をし、カズキは不要となった剣や鎧を使ってスプリングやパイプを作り、元の砦の部材であったらしい木材をライフル銃の形へと成形していった。

「なあ、何を作っているんだ?」

 おっさんがキョーコに尋ねる。

「スプリング式エラーライフル」

 それを聞いて、おっさんは首をかしげる。

「何だ?それ。エアー?」

 おっさんが疑問に思っている間にキョーコの指示でカズキがライフル銃らしきものを組み上げた。

 そして、受け取ったキョーコはおもむろに銃身を握って銃を折り曲げる。

「おいおい、何やってんだ?」

 いきなり壊しだしたキョーコに慌てて声を掛けるが、キョーコはチラッとおっさんを見て銃身を元に戻すと、直った銃を構えたではないか。
 そして、50メートルほど離したオーガへとめがけて引き金を引くとバスンという小さな発砲音が響く。

「どう?」

 キョーコが言うのでおっさんはオーガを確認すると、胴体のウロコが割れているではないか。

「当たったな。胴のウロコが割れている」

 そう伝えるとどこか満足げに頷き、カズキへと指示を出す。

「スプリングをもっと強くして。弾芯は鋼で鉛か銅で被覆した方が良さそう。造れそ?」

 そんな言葉が聞こえ、カズキが頷いて銃を分解するふたり。

 再度の射撃で今度はウロコに穴をあけるキョーコ。

 「銃が出来たら弓とか剣なんか要らないな」

 とおっさんが軽口を言うと否定するキョーコ。

「これ、射程が短い上に射撃に時間が掛かるから壁上から撃つには良いけど、野戦だと取り回しも悪いし命中精度も微妙だから使えない。それに耐久性も考えると長くは持たないと思う」

 銃器を万能だと思っていたおっさんはキョーコの説明に考え込んでしまった。
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