上 下
51 / 80

51・おっさんは甘かった

しおりを挟む
 さっそく鎧を見に向かい、試着をしてみる。

「結構動きやすいな」

 ゴテゴテしていて動きにくいかと思ったが、思いのほか動きやすくて驚くおっさん。

「そりゃあ、軽いウロコを使っているからさ」

 と言われ、なるほどと思う。さらに、南で獲れた蛇の革も裏打ちしているので防御力と耐久性は格段に上がったと自慢される。

「おっと、蛇を狩ったのはそちらのふたりだったね」

 といって女将さんが笑う。

 槍や刀を使うエミリー、キョーコ、コータの鎧は当世具足風の袖になっており、より動きやすい。キャリーは投擲を主体とする事から腹巻となり、よりすっきりとしている。

「全員黒で揃えてみた」

 というキョーコ。

 彼女のいう通り、鎧は皆黒で統一されて一体感があると満足げなおっさん。

「なんだか飾りっ気の少ないカッチューだなぁ」

 サンポが黒で統一された甲冑を見てそう言う。

「何?文句あんの?」

 キャリーがサンポの呟きに突っかかっているが、彼曰く、甲冑と言うのは実用性よりも装飾としての用途が主で、とにかく華美でゴテゴテしているものしか見た事がないという。

 それに何より、甲冑はただ強度のある革を加工しただけとか、金属板を叩いて成形したと言った冒険者や騎士、兵士が装備している一般的な防具や鎧とは違い、とにかく実用性が低いという。

「ハァ?コレのどこが実用性が低いって?」

 キャリーの言う通り、実用性は一般的な防具やプレートアーマーと同等かそれ以上にある。貴族向けの華美な装飾品として強度の低い金や銀を使っている訳でもなく、重量がかさむ鉄を使っている訳でもない。糸だって実用性重視で選択しているほどだ。

「召喚者って言うからパレード用に作ってるのかと思っただけさ。それ、君たちの世界の武具なんだろう?」

 サンポがそう聞いてくるので、キョーコが甲冑の歴史的変遷を説明する。おっさんもその知識に驚くことしきり、なぜそこまで詳しいのかと思う様な話を紡ぐ姿に、誰もが引いていた。

「お、おう。それは悪かったよ。戦の中で発展していったんだな。そりゃあ、実用的になるはずだ」

 サンポもキョーコには一歩引いてそう答えるしかなかった。

「キョーコ。凄いですね。それで、キョーコの時代のカッチューは?」

 と、どうやらヘタだけは前のめりにキョーコの話を聞いていた。もはや防弾チョッキの話になるとおっさんも聞くのを止めた。ついてけない。

そして、兜を見たおっさんは首を傾げた。

「あれ?」

 それは兜は兜でも、鉄兜と言った方が良い代物だったからだ。

「それはテッパチをベースにしてもらった。飾り付けで兜っぽくしてある」

 というキョーコの言葉通り、離れてみれば兜ではあるのだが、手に取ると兜の裏側には工事用ヘルメットの様な作りが見え、直に兜が頭と接触する構造ではない。ある程度調整も可能な様で、被って調整する事も出来た。

「兜の中に網を張って頭に直接当たらないようにするのか。コイツは考えたな」

 サンポも興味を持って兜を覗いて感心している。

「そう言えば、アンタらって鎧とかないわけ?」

 キャリーがサンポやヘタを見ながらそんな問いかけをした。

「防具ですよ?コレ」

 ヘタが不思議そうにそう答える。おっさんも今まで周囲に溶け込むカメレオンの様な服が防具だとは知らず、驚いてしまった。

「何でダイキが驚いてるんだ?」

 サンポにそんな指摘を受けるが、おっさんにとってはアニメのエルフが前提としてあり、大体のエルフが緑系の服装で防具を着けていないか、革の胸当て程度であったため、これまでそれが当然としか思っていなかった。

「まあ、たしかにこれが防具と言われても普通は信じないだろうな。魔力を通していないと布には違いない」

 そういうサンポが魔力を通す。

「いや、布じゃん。って、え?」

 キャリーがサンポの布を突いてみると、しっかりと硬くなる。しかし、風程度では普通に布としてふるまっていた。

  おっさんもこれまで意識して見た事は無かったのだが、(なるほど、硬い訳ではなさそうだが、何かが当たっても体にダメージが入る感じでは無いな)と改めて確認していた。

「こういう効果がある糸を編んで作ってあるからだ」

 サンポは得意げな顔でキャリーにそう言い、また言い合いを始めてしまっていた。

「このような効果がある服なので、人同士の大きな戦いでもない限り、防具は身に付けません。さすがに、大剣や斧を振られたら飛ばされますけどね」

 と、サンポに代わってヘタが説明をしてくれる。

 おっさんが気にしていなかっただけで、蛇革と同程度の強度は持った服なので、防具としての性能を発揮するとともに、姿を認識し辛い効果もあるので、魔物相手にはほぼこれだけで十分との事だった。

「ただ、長が言うには開拓地へ向かう場合は盗賊にも気を付ける必要があるとの事なので、防具も持って来ていますよ」

 そういって革製の防具と、これからは暑そうな毛皮を見せる。

「その毛皮は、あの熊かい?」

 おっさんは身覚えのある薄いグレーの毛皮について尋ねる。

「はい、あの毛皮です。熊の毛皮は矢も通さないんですよ?普通は。魔弓の矢であればダメージを与えられますが、ダイキさんの様に一撃で仕留めることは我々でも出来ません」

 そういうヘタにおっさんは驚くしかなかった。

「ダイキさんの魔弓は召喚者の中でも屈指の力ですからね」

 エミリーもヘタにそう賛同し、ふたりで意気投合している。

「それで、甲冑は修正するところ無かった?」

 エミリーとヘタに声を掛けようとしたおっさんは、キョーコにそう呼び止められ、改めて甲冑の具合を確認する。
 その時になって甲冑の軽さや着心地に気付く当たり、どうやらおっさんはいつも通り少々抜けているらしい。

「ああ、特に問題ないな」

 おっさんは知らない。キョーコの助言によって甲冑の構造は後ろ開きから横開きへと変更され、まるで防弾チョッキの様な機構になっている事を。
 その上、内張にも工夫を凝らし、もはや甲冑の域を超えている事を。

 暢気にキョーコに同意し、鎧の代金を聞いたおっさんは驚くことになった。

「え?金貨1万枚?高くなってない?」

「いやぁー、こちらのお嬢さんの要望を聞いて改良を加えたからねぇ。これでもウロコや蛇革は持ち込みだから安く出来た方だよ」

 との言葉に驚愕してしまう。そこで確認したことによると、キョーコの助言によって甲冑の構造が大幅に変更となり、おっさんの甲冑も半ば作り直していたらしい。カネに糸目はつけないと言ったおっさんが甘かったのだと今更気づいたが、後の祭りだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とある中年男性の転生冒険記

うしのまるやき
ファンタジー
中年男性である郡元康(こおりもとやす)は、目が覚めたら見慣れない景色だったことに驚いていたところに、アマデウスと名乗る神が現れ、原因不明で死んでしまったと告げられたが、本人はあっさりと受け入れる。アマデウスの管理する世界はいわゆる定番のファンタジーあふれる世界だった。ひそかに持っていた厨二病の心をくすぐってしまい本人は転生に乗り気に。彼はその世界を楽しもうと期待に胸を膨らませていた。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます

ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。 何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。 生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える そして気がつけば、広大な牧場を経営していた ※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。 7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。 5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます! 8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!

異世界サバイバルセットでダンジョン無双。精霊樹復活に貢献します。

karashima_s
ファンタジー
 地球にダンジョンが出来て10年。 その当時は、世界中が混乱したけれど、今ではすでに日常となっていたりする。  ダンジョンに巣くう魔物は、ダンジョン外にでる事はなく、浅い階層であれば、魔物を倒すと、魔石を手に入れる事が出来、その魔石は再生可能エネルギーとして利用できる事が解ると、各国は、こぞってダンジョン探索を行うようになった。 ダンジョンでは魔石だけでなく、傷や病気を癒す貴重なアイテム等をドロップしたり、また、稀に宝箱と呼ばれる箱から、後発的に付与できる様々な魔法やスキルを覚える事が出来る魔法書やスキルオーブと呼ばれる物等も手に入ったりする。  当時は、危険だとして制限されていたダンジョン探索も、今では門戸も広がり、適正があると判断された者は、ある程度の教習を受けた後、試験に合格すると認定を与えられ、探索者(シーカー)として認められるようになっていた。  運転免許のように、学校や教習所ができ、人気の職業の一つになっていたりするのだ。  新田 蓮(あらた れん)もその一人である。  高校を出て、別にやりたい事もなく、他人との関わりが嫌いだった事で会社勤めもきつそうだと判断、高校在学中からシーカー免許教習所に通い、卒業と同時にシーカーデビューをする。そして、浅い階層で、低級モンスターを狩って、安全第一で日々の糧を細々得ては、その収入で気楽に生きる生活を送っていた。 そんなある日、ダンジョン内でスキルオーブをゲットする。手に入れたオーブは『XXXサバイバルセット』。 ほんの0.00001パーセントの確実でユニークスキルがドロップする事がある。今回、それだったら、数億の価値だ。それを売り払えば、悠々自適に生きて行けるんじゃねぇー?と大喜びした蓮だったが、なんと難儀な連中に見られて絡まれてしまった。 必死で逃げる算段を考えていた時、爆音と共に、大きな揺れが襲ってきて、足元が崩れて。 落ちた。 落ちる!と思ったとたん、思わず、持っていたオーブを強く握ってしまったのだ。 落ちながら、蓮の頭の中に声が響く。 「XXXサバイバルセットが使用されました…。」 そして落ちた所が…。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

ハズれギフトの追放冒険者、ワケありハーレムと荷物を運んで国を取る! #ハズワケ!

寝る犬
ファンタジー
【第3回HJ小説大賞後期「ノベルアップ+」部門 最終選考作品】 「ハズワケ!」あらすじ。 ギフト名【運び屋】。 ハズレギフトの烙印を押された主人公は、最高位のパーティをクビになった。 その上悪い噂を流されて、ギルド全員から村八分にされてしまう。 しかし彼のギフトには、使い方次第で無限の可能性があった。 けが人を運んだり、モンスターをリュックに詰めたり、一夜で城を建てたりとやりたい放題。 仲間になったロリっ子、ねこみみ何でもありの可愛い女の子たちと一緒に、ギフトを活かして、デリバリーからモンスター討伐、はては他国との戦争、世界を救う冒険まで、様々な荷物を運ぶ旅が今始まる。 ※ハーレムの女の子が合流するまで、マジメで自己肯定感の低い主人公の一人称はちょい暗めです。 ※明るい女の子たちが重い空気を吹き飛ばしてゆく様をお楽しみください(笑) ※タイトルの画像は「東雲いづる」先生に描いていただきました。

処理中です...