上 下
46 / 80

46・おっさんは頂かれる

しおりを挟む
 おっさんはヘタの言葉を聞いてどう答えて良いのか分からずウルホを見る。

「いやぁ、ここまで積極的とはね。しかし、ヘタだけを向かわせるわけにはいかない。まだ影熊ステルスを巧く探れないでしょう?」

 その言葉にホッとするやら、もっと他にないのかと言いたくなるやらのおっさん。

 そんなおっさんを余所にウルホによるヘタの説得が行われる中で、ヘタが二十歳だという事を知る。ただ、その年齢が人間基準でいくつ相当なのか分からない。

「分かりました。長に従います」

 ヘタはどうやらウルホの説得を受け入れるらしい事にホッとするおっさん。

「ここは獲物探しが得意な者が良いですね」

 そう言って考えるウルホの姿は画になっている。

「ダイキさん?森人と言っても長は男ですよ?」

 ウルホに見とれるおっさんにそんな声を掛けるヘタ。おっさんは言い訳をしようとするが、すかさず口を開いたのはヘタだった。

「そうですよね。西方人や召喚者には見分けがつかないようですから。しかし、私がしっかり教えてあげますよ」

 なぜか自信ありげにそんな事を言うヘタなのだが、身長はともかく、女の子らしさはエミリー以下である。もしかして森人の二十歳はまだ子供なのかとも疑うおっさんだが、冷静に考えてそんな子供であればさすがにウルホが止めるだろうと考え直すのだった。

「ここはマリに頼もう」

 ウルホがようやく探索を行う人物に当たりを付けたらしく、そう口を開いた。

 おっさんは先ほどミカと言う人物が男であったことを思い出す。日本人の感覚とは名前が逆転しているという事でマリも男だと踏んだ。

 ウルホに促されてヘタがマリという人物を呼びに行ったことから、おっさんは森人の年齢についてウルホに尋ねた。

「ヘタの年齢かい?20歳だよ。まだ成人したばかりで危なっかしい所も多い。それでも外への興味を持っているから一番に声を掛けて来たんだろうね」

 と、ニコニコ答えている。これからこんなおっさんがうら若い自身の孫に手を出すも知れないというのに、なぜなのか不思議がるおっさん。

「そうだね。貴族たちもそう言った考えを持っているみたいだけど、ここでは子を産めるかどうかはとても重要な事。初産を終えて初めて本当の意味での成人なんだよ」

 もはやおっさんにはついて行けない世界である。子供を産める様になる年齢が18~20歳と言う事で、おっさんはある事に気がついてしまった。
 そう、人間でそう言う体の変化が起こるのは小学校高学年頃。つまり、人間で言えばまだ13歳前後でしかない事になる。早い場合は11歳ごろと、それはどう言いつくろっても犯罪行為である。

「いえいえ、森人では普通の事ですよ。ほら、ダイキのいう年齢の子たちはあんなに小さいじゃないですか」

 そう言ってウルホが指す方には、確かに小学生ほどの子供たちがこちらを窺っている。

「子供を埋める体になっているから、それを証明しないと大人とは言えないんですよ。ええ、もちろん男の方も同じですから、双方に相手が選ばれるんです」

 魅惑的な笑顔でそう答えるウルホに見惚れるおっさんはそれ以上の思考を放棄してしまった。

「連れてきました」

 ヘタの声がして振り返れば、ヘタと同じくらいの身長の人物が並んでいた。ヘタと比べて年齢が上だろうとは何となく分かったおっさんだが、それ以上は分からない。

「マリは39歳、ダイキと変わらない歳だね」

 ウルホがそう補足して来るが、どう見ても20代前半である。

影熊ステルスを狩るんだそうだね。しっかり協力させてもらうよ」

 ウルホと変わらないほどの美貌の持ち主がそう声を掛けて来るので、おっさんも釣られてあいさつを交わすのだった。性別など全く分からないのだが、イケメンなら女、きっとマリは美女だから男だろうと判断するおっさんだった。

 そして、その後はおっさんを歓迎する宴となり、食べ物や飲み物の準備が行われる。

「ダイキは面白いことを言うね。弓が得意なのであれば、狩猟を行っているのだから、肉を食べないわけがないじゃないか」

 おっさんは日本での森人、つまりエルフについて話をしたところ、ウルホに笑われてしまった。

 確かにおっさんもおかしいとは思っていた事だ。

 エルフと言うのは森に棲んでいて弓が得意と言うのが多くの物語で共通している。しかし、エルフは弓が得意にも拘らず、肉を食べるのではなく木の実などを主食として肉に手を付けないという設定が存在する事を話題に挙げたところ、案の定笑われてしまった。

「ダイキさんの世界にはその様な者が居るのですか?」

 ヘタも隣で話を聞いており、その様に聞いてくるので、あくまで物語に出てくる架空の存在だと説明した。

「それは変な事を考える人も居たものですね。自ら獲物を捕まえるために弓の腕を上達させるのでないとすれば、他の部族と争うために技を身に着けるという事でしょう?そのエルフという部族は常に争いごとを起こしているんでしょうか?」

 ヘタの疑問はもっともだと思うおっさん。

 確かに、自らの糧として肉を得る事を目的に弓の技術を修練しているのでなければ、それは武士や兵士と言った戦闘職の事を指すのは当然の発想である。
 この世界では冒険者が魔物から身を守るため、村や町を守るために戦闘技術を身に付けてはいるが、もちろんそこには糧を得るという目的も含まれている。
 襲われる危険や飢餓の脅威が著しく低下し、ただ純粋に技を競うために技術を身に着けるスポーツなどこの世界では想像すらできないのだから、ただ技を高めるなどと言っても理解されることの無いおっさんだった。

「その様な満ち足りた世界からやって来た召喚者が、我々以上の技を持ち魔物に立ち向かい打ち倒すというのは本当にすごい事なのですね」

 ウルホから聞いた通り、どうやらヘタは小中学生レベルの純真さで話を聞いているのだと実感し、どこかうしろめたさを感じ始めるおっさん。

 そうこうするうちに宴の準備は整い、ウルホの音頭と共に飲み食いが始まっていく。

 おっさんが口を付けた物はどうやら度数のあまり高くない、それでいて澄んだ酒であった。

 手に取った食べ物はまるでバナナであった。

「どうだい?その酒は壺花の蜜で作った酒だよ。食べているそれは、キミオがバナナと名付けた果実。どうやら地球と言う世界では、常夏の地域に育つ草木らしいね」

 おっさんは植物の生態まで地球とはまるで違う事に驚きを隠せなかった。

 その夜、調子に乗って飲み過ぎたおっさんは翌日から探索に向かう仲間となるマリによって寝所まで運ばれ、男だと思って安心しきっていたところをおいしく頂かれてしまうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とある中年男性の転生冒険記

うしのまるやき
ファンタジー
中年男性である郡元康(こおりもとやす)は、目が覚めたら見慣れない景色だったことに驚いていたところに、アマデウスと名乗る神が現れ、原因不明で死んでしまったと告げられたが、本人はあっさりと受け入れる。アマデウスの管理する世界はいわゆる定番のファンタジーあふれる世界だった。ひそかに持っていた厨二病の心をくすぐってしまい本人は転生に乗り気に。彼はその世界を楽しもうと期待に胸を膨らませていた。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます

ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。 何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。 生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える そして気がつけば、広大な牧場を経営していた ※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。 7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。 5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます! 8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!

異世界サバイバルセットでダンジョン無双。精霊樹復活に貢献します。

karashima_s
ファンタジー
 地球にダンジョンが出来て10年。 その当時は、世界中が混乱したけれど、今ではすでに日常となっていたりする。  ダンジョンに巣くう魔物は、ダンジョン外にでる事はなく、浅い階層であれば、魔物を倒すと、魔石を手に入れる事が出来、その魔石は再生可能エネルギーとして利用できる事が解ると、各国は、こぞってダンジョン探索を行うようになった。 ダンジョンでは魔石だけでなく、傷や病気を癒す貴重なアイテム等をドロップしたり、また、稀に宝箱と呼ばれる箱から、後発的に付与できる様々な魔法やスキルを覚える事が出来る魔法書やスキルオーブと呼ばれる物等も手に入ったりする。  当時は、危険だとして制限されていたダンジョン探索も、今では門戸も広がり、適正があると判断された者は、ある程度の教習を受けた後、試験に合格すると認定を与えられ、探索者(シーカー)として認められるようになっていた。  運転免許のように、学校や教習所ができ、人気の職業の一つになっていたりするのだ。  新田 蓮(あらた れん)もその一人である。  高校を出て、別にやりたい事もなく、他人との関わりが嫌いだった事で会社勤めもきつそうだと判断、高校在学中からシーカー免許教習所に通い、卒業と同時にシーカーデビューをする。そして、浅い階層で、低級モンスターを狩って、安全第一で日々の糧を細々得ては、その収入で気楽に生きる生活を送っていた。 そんなある日、ダンジョン内でスキルオーブをゲットする。手に入れたオーブは『XXXサバイバルセット』。 ほんの0.00001パーセントの確実でユニークスキルがドロップする事がある。今回、それだったら、数億の価値だ。それを売り払えば、悠々自適に生きて行けるんじゃねぇー?と大喜びした蓮だったが、なんと難儀な連中に見られて絡まれてしまった。 必死で逃げる算段を考えていた時、爆音と共に、大きな揺れが襲ってきて、足元が崩れて。 落ちた。 落ちる!と思ったとたん、思わず、持っていたオーブを強く握ってしまったのだ。 落ちながら、蓮の頭の中に声が響く。 「XXXサバイバルセットが使用されました…。」 そして落ちた所が…。

特典付きの錬金術師は異世界で無双したい。

TEFt
ファンタジー
しがないボッチの高校生の元に届いた謎のメール。それは訳のわからないアンケートであった。内容は記載されている職業を選ぶこと。思いつきでついついクリックしてしまった彼に訪れたのは死。そこから、彼のSecond life が今始まる___。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

処理中です...