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42・おっさんは呟いた

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 それから何をして二人の武器が完成するまで待とうかと言う話になったが、こちらでは特にやることが無いので、おっさんは太鴨ネコ狩りでもう少し儲けようと言った。

 しかし、それでは自分たちの役割が無いという三人組が不満そうではあったが、開拓地とは違って既に拓かれた土地であるため、彼らが満足するような依頼は存在しない。蛇を狙うのも一つの手ではあったが、今回手に入った素材の量が膨大なため、あまり狩りまくっても値崩れを起こすだけになると止められている。

「じゃあ、あたしら休みだね」

 と言うキャリーを見てふと思いついたおっさんは、キャリーの投擲を鍛えて太鴨ネコを墜とせないかと考える。

「はぁ?ヤバいって」

 嫌がるキャリーを引き連れ太鴨ネコ狩りに繰り出すおっさん。エミリーはその提案に賛成で、コータも積極的にキャリーを説得して連れ出す事が出来た。

「センリンって何?」

 おっさんが投擲武器として示したものが分からないキャリーに対し、おっさんも説明に窮した。

「チャクラ。坊主が敵に投げつけるやつ」

 助け舟を出したのはキョーコだった。おっさんもチャクラは知っていたが、その説明が伝わると思っていなかった。

「あ、あのアニメね。分かる分かる。あのブンブン投げてた輪っか」

 どうやら彼女ら世代には馴染みのアニメに登場していたらしいが、おっさんには分からない。アニメに忌避は無いが世代間格差である。

「じゃあ、外側が刃物でバッサリ斬れるんだ」

 理解したキャリーに実演してもらうと、的にした木へと見事に刺さる戦輪。その威力に納得のおっさんだった。

 いざ実戦と太鴨ネコを狩りに繰り出すが

「ちょっとムリ!」

 太鴨ネコの降下速度に慣れないキャリーは投げるタイミングを逃し攻撃されそうになる。

 おっさんが援護を行い、何とか攻撃を回避するキャリー達。

「おっさん!どこが簡単だ、どこが!」

 そう怒るキャリーだが、負けず嫌いの彼女は再度撃墜に挑む。

「クソ!」

 二度目はタイミングを見計らって戦輪を投げたが回避される。
 続けざまに投げたが戦輪によって軌道を乱された太鴨ネコも射線につけずに上昇して行く。

「逃がすか、コノヤロー」

 キャリーが思いっきり投げた戦輪は僅かにズレ、翼を掠めただけに見えた。

 そして再び攻撃態勢をとり降下してくる。

 太鴨ネコが降下をはじめたところへ戦輪を投げつけるキャリー。
 小刻みに軌道を変えて避けようとする太鴨ネコだったが避けきれずに戦輪が右翼を掠めていく。

「これでどうだ!」

 おっさんが援護しようと弓を構えた時、キャリーが大振りにふたつの戦輪を器用に投げる。

 それを躱そうとした太鴨ネコだったが、片方を避けた所にもう一つが飛び込み、見事に先ほど痛めた右翼へと刺さり、錐揉みをはじめ、バタバタもがきながら墜落していった。

「よし、ゲット!」

 キョーコとコータを連れて獲物へと接近し、トドメの投擲を行うキャリーだった。

 さらにもう一機狙うと息巻くキャリーに連れられ、キョーコがおびき出すが、今回は二機が向かって来た。

「コンビがなんだ!」

 先ほどの狩りで勢いに乗るキャリーは左右腕から4つの戦輪を器用に投げ、二機同時に相手している。
 その姿におっさんも驚きを隠せなかった。

「キャリーもやりますね」

 そんなエミリーの声に頷きながらも、いつでも援護出来る様に見守るおっさん。

 二機を相手どって戦輪を投げまくるキャリーだったが、さすがに決定打に乏しく、そろそろ射程に入るというタイミングで先頭の太鴨ネコへと戦輪を飛ばすキャリー。

 そして先ほどと同じ戦法で錐揉みさせる。

 おっさんはもう一機を墜とすべく弓を構えたが、錐揉みするところへ衝突する軌道にある事を予測してひと呼吸待つ。

「よっしゃー!」

 おっさんが衝突を目撃すると同時に叫ぶキャリー。

 二機目の衝突した勢いのままに墜落する太鴨ネコ

「肉として問題はないけれど」

 勢いよく墜落した事で翼が折れ、首があらぬ方向に曲がり、その衝撃を物語る姿には皆で苦笑するしかなかった。 

「あー、なんか疲れた」

 先ほどまで元気のあったキャリーだが、連投の疲れが喜びに勝って来たらしく、腕をダランと垂らしてそんな事を言う。

「あれだけ投げれば疲れもするさ」

 おっさんはキャリーを労いながら翼をもぎ取った獲物を収納するのだった。

「あたしもなんか投げる道具とかないのかな」

 キャリーのそんな声に反応したのは意外にもコータだった。

「たしか、投石に使う道具ってあのアニメにもあったよね」

 などと語りかける。

「コータがカオリを意識してるからくっつけたら面白そう」

 コータに知恵を付けたらしいキョーコがおっさんにそんな事を言ってくる。
 それもアリかと頷くおっさん。 

「そうですね。あまり自由にしすぎるのもよくないです。子をなす時には特定の関係を保つべきです」

 と、話に割って入るエミリー。

 おっさんは何のことかとエミリーを見返すが、彼女の説明によれば召喚者と言う希種ならば貴族や冒険者から引く手あまただろうという。
 王都の様な都会においては地球の常識に近い価値観が浸透しているが、それ以外では先日助けた冒険者たちの様な考え方も普遍的に存在している。
 現在、キャリーたちが誰かに攫われたり強引に付きまとわれていないのは、おっさんのハーレム要員と認識されているからだという話を聞かされ、驚くしかなかった。

「いや、そんなつもりは・・・・・・」

 おっさんはそう呟いたが

「中身の問題ではありません。そういう装いでいた方がみんなを守り易いんです」

 と力説するエミリーに根負けして頷くおっさんだった。

「じゃあ、私もダイキファミリーの一員」

 と言ってキョーコも悪乗りしてエミリーの肩を持つのだった。

「ちょっと!そこでなにやってんの!」

 三人で騒いでいるのを見とがめたキャリーが騒ぐ。

 そして、三機撃墜という勲章を持って帰ったキャリーもギルドで一目置かれる存在となっていた。

 翌日にはコータが提案し、二人で努力して実現させたアトラトル槍投げ器を用いて一機墜とし、その次の日にも一機墜としたことでエースに名を連ねたキャリーを褒めるおっさんだったが、おっさんはキャリーの援護を行いながらさらに撃墜数を伸ばし、屈指の撃墜王となっていた。

 さすがにおっさんの魔弓を冒険者たちに教えることは出来ないため、キョーコやコータが中心となってアトラトル槍投げ器スリング投石器を鍛冶師も巻き込んで試作し、太鴨ネコ狩猟道具として冒険者たちにも広まることになっていく。
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