巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太

文字の大きさ
上 下
30 / 80

30・おっさんは首をかしげる

しおりを挟む
 北の村までの道を歩き出して半日、もうすぐ日没と言う頃にキョロキョロとあたりを探り出すキョーコの不審な行動におっさんは首をかしげるが、それよりも周辺の警戒を優先して辺りを見回してみる。

 おっさんは数キロ先まで見通す事ができるので、パーティの中では索敵担当である。それもあって時折、周辺に何か居ないか見回しながら警戒しているが、遠くに小動物っぽい反応こそあるものの、近づいてくるような気配はない。

「ん?」

 その時、おっさんは雪の陰になった場所に僅かな熱反応を見つけた。それも随分と近く、よくよく見ればウサギのように見えた。ウサギの魔物と言えば王都でよく狩っていたので見間違える事もない。

 おっさんがそんな事を考えながら弓を出そうとした時だった。キョーコがサッと剣を抜いて、それを僅かなスナップで振るい、斬撃を飛ばす。流石にウサギとは言え、それでは逃げるだろうと思いながら見ていると、見事に後ろ脚を直撃した斬撃によって脚を傷つけらえたウサギは上手く飛べないらしい。

「あ、ウサギ!」

 キョーコが剣を抜いたことでそちらへ注意を向けたキャリーが気付いて追い討ちとばかりに投擲を行い、止めを刺した。

「今日の肉は確保」

 というキョーコの呟きに、おっさんはキョーコが何を探していたのかを悟る。手持ちの保存食などたかが知れているし、干し肉なんて三人にはもはや食えたものではないらしい。出来れば他の食材をと言うも居があったのだと思い至る。

「じゃあ、解体は頼んだ」

 なぜかキャリーが仕切って解体をコータに押し付ける。間違いなく、自分が解体や料理をやりたくないのをおっさんは感じたが、何も言わずに流して歩みを進めていく。

「なんで?キョーコさんの獲物だよね?」

 そんなコータの抗議は二人には聞き入れられず、渋々解体を行うコータ。

 おっさんは商人に野営の提案をし、エミリーとカマドの準備と薪をとり出して夕飯の支度である。

 キャリーとキョーコもそそくさとテントの準備を行い、コータに隙を与えない。

「さすが、冒険者の護衛が居ると夕食もにぎやかだねぇ」

 などと商人が声を上げる。

 何という事か、護衛内容が昼間に会った時点で追加され、「赤メダルが居るなら道中の食料も頼もうかね」などという話になり、おっさん達が用意する事になったのだった。さすが商人なので魔物除けテントは自前で用意していた。しかし、出発予定に関しておっさん達のパーティの魔力量から商人は大した準備もなく待ち合わせ場所へ現れ、そのまま出発と言う、どうにも図々しいものとなったのは、交渉役が年少のエミリーだけという事に原因もあった。
 
 ただ、今回の場合は悪い話ではない。質の良いウロコを供給可能なおっさんが向かえば、高額の輸送報酬だって期待できるので、道中の食事を用意するのは苦にもならないだろうとおっさんも考えていたのだから。

 翌日はもう少し大きな獲物は居ないかとさらに欲を出して辺りを見回しているキョーコ。護衛と言う事をどこか失念してやる気なく歩いているキャリー、真面目に商人の護衛をしようと気を張るコータ。

 護衛依頼と言う事で、一応道筋ははっきりしているが、案内役として先導するエミリー、そして、後衛兼広域索敵を担うために最後尾を行くおっさん。

 二日目は期待した獲物も手に入らず、手持ちの食料で凌ぐことになったので不満げなキャリーと無駄に疲れたらしいキョーコをエミリーが宥め、三日目には早くも北の村へと到着したのだった。

「おばさんさ、歩くの速くない?」

 と、驚きの声を上げていたキャリー。

 それもそのはず、軽装で大型マジックバックを持つ商人である。魔力量もそれなりであり、自身の持ち分も大きい。
 主に王都や東征村の職人向けに素材を卸したり冒険者ギルド品の輸送を担うらしいが、なるほど、だからこそ冒険者相手の交渉に手慣れていて、エミリーが手玉に取られたのだなと、どこか納得のおっさん。手の内を後戻りできなくなるまで明かさない辺り、商人だった。

「あたしの商売分の買い付けはこれからだよ。二、三日は村で狩りをするなり休むなり自由にして居な」

 といってギルド前を後にする商人。おっさん達はまずはギルドで鳥魚バードフィッシュに関する情報を当たり、ウロコがだぶついているという話を聞いて、鎧の注文に向かう事にした。

「おや、お前さんら」

 鎧の注文をしようと向かうと、ちょうど商人がそこに居た。鎧の注文をしようとしていたと伝えると、商人だけでなく女店主も驚きの声を上げる。

「まだ注文するのかい?そこの四人分となると糸が足りないよ」

 半ば冗談のつもりであろう店主がそう口にしたが、おっさんはその四人分であると告げる。

「そう言う事らしいよ。追加の注文が必要だねぇ」

 と、商人に伝え、どこかほくほく顔で店から出ていった。

 そして、おっさんは自分の鎧について尋ねると、すでに完成している袖を見せて貰った。

 それに反応したのはキョーコだった。

「うほ。鎧の袖。でも、この作りは大鎧かな?当世具足の造りに倣ってウロコの加工を最小限にして縫い合わせるともっと時間短縮になるはず」

 と、構造にまで言及して自分の鎧の形までああだこうだと話始めてしまったので、おっさんはもはやついて行けなかった。
 おっさんの鎧はこれまでの様式を踏襲してウロコを小さく加工して縫い合わせていたらしいが、キョーコが言うにはもっとウロコの原型を残した作りでも可能なはずだという。おっさんの鎧の袖を見て、造りに関する話をはじめ、職人たちは慌ててカタログを持ち出してきた上に、おっさんの鎧まで持ってきてキョーコの話を聞いている。

 キョーコがただの陰キャではなく、こんな才能もあったのかと驚くおっさん。

「え?防水透湿の上に遮熱効果まであるの?!その上に強度と魔力浸透までとなると、鎧下に背骨と筋肉の補強も出来るように‥‥‥」

 もはやおっさんにはついて行けないレベルの話を始めてしまい、四人の鎧だけでなく、おっさんの鎧の仕様変更まで話が及んでしまった。
 金額に関しては余裕があるが、製作にどれほどかかるのか想像すらできそうにないなとおっさんは思った。

「春になったら東征村から職人を呼ぶよ。コイツは召喚者のもたらした新しい技術だ。アタシらだけで独占したら恨まれちまう!」

 などと店主がものすごく乗り気で話をしている事も不安材料だったおっさん。

「何だい?そんな顔をしなさんな、あんたの鎧だって大したもんだよ。このお嬢ちゃんのアイデアだって取り入れるんだ。問題ないさ」

 と、違う事を言って来るので、納期について尋ねるおっさん。

「そうさね。東征村に話を持っていくにしても製作には時間が掛かるから、初夏だろうかね」

 と、おっさんの予想よりも早く出来そうだった。

「私たちの鎧は腹巻が基本だから。徒歩で槍や腱を振るうのに大鎧は邪魔だし、カオリさんなんて投げられなくなるから」

 と答えるキョーコ。その腹巻が分からず、おっさんは本当に腹巻を想像して首をかしげるのだった。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

最強付与術師の成長革命 追放元パーティから魔力回収して自由に暮らします。え、勇者降ろされた? 知らんがな

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
旧題:最強付与術師の成長革命~レベルの無い世界で俺だけレベルアップ!あ、追放元パーティーから魔力回収しますね?え?勇者降ろされた?知らんがな ・成長チート特盛の追放ざまぁファンタジー! 【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】  付与術のアレンはある日「お前だけ成長が遅い」と追放されてしまう。  だが、仲間たちが成長していたのは、ほかならぬアレンのおかげだったことに、まだ誰も気づいていない。  なんとアレンの付与術は世界で唯一の《永久持続バフ》だったのだ!  《永久持続バフ》によってステータス強化付与がスタックすることに気づいたアレンは、それを利用して無限の魔力を手に入れる。  そして莫大な魔力を利用して、付与術を研究したアレンは【レベル付与】の能力に目覚める!  ステータス無限付与とレベルシステムによる最強チートの組み合わせで、アレンは無制限に強くなり、規格外の存在に成り上がる!  一方でアレンを追放したナメップは、大事な勇者就任式典でへまをして、王様に大恥をかかせてしまう大失態!  彼はアレンの能力を無能だと決めつけ、なにも努力しないで戦いを舐めきっていた。  アレンの努力が報われる一方で、ナメップはそのツケを払わされるはめになる。  アレンを追放したことによってすべてを失った元パーティは、次第に空中分解していくことになる。 カクヨムにも掲載 なろう 日間2位 月間6位 なろうブクマ6500 カクヨム3000 ★最強付与術師の成長革命~レベルの概念が無い世界で俺だけレベルが上がります。知らずに永久バフ掛けてたけど、魔力が必要になったので追放した元パーティーから回収しますね。えっ?勇者降ろされた?知らんがな…

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

処理中です...