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29・おっさんは護衛依頼を受ける

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 翌日、とうとう東征村へ到着したおっさんはドッと疲れが出てしまった。

 騒ぎの元であるキャリーは当然として、とにかく冒険に前のめりなキョーコを宥めるのにも一苦労であった。マイペースなコータだけが安心材料である。

「ここが『始まりの街』かぁ」

 と、まるでゲーム感覚にはしゃぐキョーコ。たしかにそう言う雰囲気が漂う街であり、規模からして村でない。
 行きかう多くの冒険者らしき人たちが居るが、意外と武装している割合が低いのは、今が冬だからだと、以前エミリーから聞いていたおっさん。しかし、普段着の連中もどこか以前と違ってピリピリしているように感じ、首を捻る。

「どうかしましたか?」

 ギルド前で立ち止まったおっさんに疑問を持ったエミリーが声をかけて来たので、おっさんは街の雰囲気が依然と違う事を伝えた。

「ああ、もうそんな時期でしたか」

 と、何かひとり分かったような事を言うエミリー。

 東征村は名前の通り、東の開拓地へ向かうために作られた冒険者の村な訳だが、北の村へ行くために訪れた頃、ちょうど東方から最終の連絡便が来る時季だったそうで、それと共に多くの冒険者が帰還していた。
 そして、王都へ帰る頃は休暇の真っ最中だったわけだ。

 そんな時期だったので只々陽気で、まさしく「始まりの街」の雰囲気だった。

 そして今、北の村より過酷な冬を過ごした東の開拓地から、越冬者が冬の間の情報をもって訪れる頃合いだという。
 召喚が行われたことは既に周知されており、この春の状況がどうなっているかは、ここに居る多くの者にとって最大の関心事と言えるだろう。

「東ってそんなに厳しい所なのか?」

 おっさんからすれば、北の村でも相当ヤバかった。吹雪も酷かったし、あの寒さは予想を超えていた。

「はい、氷風狼ブリザードウルフの防寒具が必須になるような場所がいくつもあります。その上、10日くらい嵐が続いて何もできない事もザラなんです。そんな状況なので、冬に連絡便を出す事も出来ず、この時期まではただただ耐え忍ぶのが開拓村の生活だと言われていますよ」

 と、とんでもなく厳しい環境であるらしい。ただ、北の村の周辺を流れていた川よりさらに大きな大河があったり、その周辺がものすごく肥沃で畑に向いていたりと、開拓するにはもってこいであるらしい。

 ただし、川沿いを中心に存在する林には強力な魔物が生息し、氷風狼ブリザードウルフ級の魔物が普通に徘徊しているという恐ろしい場所でもあるという。
 それらを狩って開拓を助けるのが冒険者の仕事であり、危険も大きいが収入も良いらしい。

「何それ、本当にファンタジー世界じゃん」

 と、どこか未だに召喚の事実から逃避気味のキャリーが言えば、

「だから、ここはファンタジーなのは分かってるよね?カオリさんが使ってるのって魔法でしょう?」

 と、突っ込むキョーコ。

 そんなやり取りを横目にギルドの扉を開けて中へ入ると、あまり人は居なかった。

 多くの冒険者は開拓地での疲れを癒し、冬を避けるために東征村に居る。ここでは本格的な狩りや討伐は行われておらず、北の村での鳥魚バードフィッシュ駆除がこの時期のメインと言える。
 南へ行けばイノシシ系の狩猟や討伐もあるらしいが、数日の距離なので、ここで依頼を出している訳ではない。何かあれば応援要請が張り出されるのは、北の村と同じであると、以前聞いているおっさん。

「さて、北の村からの要請とかはもうないのかな?」

 と、暢気に依頼について受付で尋ねるおっさん。

「北の村?もう鳥魚バードフィッシュもピークを過ぎてるからねぇ。ポーターの仕事ならあるんだけど。ウロコ運びとかさ」

 という受付。

氷風狼ブリザードが出たりは?」

 と、食い下がってみる。

「さすがに・・・、お、容量のデカイマジックバック持ちを護衛兼任でってのがあるけど、これなんかどうだ?」

 と、荷運びメインの依頼があるらしい。

「数日向こうで自由になる時間がある方がうれしいんですけど」

 と、エミリーが割って入る。おっさんはどこかこの世界に慣れ切っていない。定価などない世界だし、依頼を受けるにしても、自分からしっかり条件を提示しないと、割に合わない条件を突きつけられたりすることもある。荷運びや護衛なんかはそう言う部類だが、そうした経験のないおっさんは狩猟や討伐と同じだとしか思っていなかった。

「それは大丈夫だろう。運ぼうとしてる量が量だからな。鋼級に黄銅級。まあ、あんたらなら商人も嫌とは言えんさ」

 と言う事で、受付は条件を追加した依頼書を手渡し、商人に連絡してくれることとなった。

 おっさんからすれば、そんなにウロコをかき集めてどうするんだと思うが、商人たちにとっては、この時期に多く抱えておいて、夏から秋の品薄な時期に出せば儲けが出るという算段太郎と教えてもらい、なるほどと納得した。

「ついでに、自分たちの分くらいは狩っても良いかもしれんなぁ」

 と、ふと思いついたおっさん。

 その日の宿はおっさんが鋼級と言う事もあって、パーティで部屋を抑える事ができた。もちろん、キャリーが騒ぐだろうから、大部屋ふたつを確保し、男女で分かれたのは言うまでもない。

 そして翌日には商人と連絡がつき、昼前には待ち合わせ、そのまま出発となった。

「また歩きなの?馬車とかソリってないの?」

 と、うんざり気味のキャリー。

「そろそろ雪が溶け出す時期だから、どっちも危ないんだけど。ここに来るまでに見たでしょ?」

 と、呆れた口調でエミリーが言う。そう、まだ溶けきっている訳ではなく、凍った雪が中途半端に緩んでいるような状態。締め固まっていたのが緩み、とてもソリで走れる状態ではないし、そもそも馬車など車輪が嵌って動けないのは見るまでもない。

「徒歩移動の方が冒険らしくて良いでしょう?」

 と、キョーコはウキウキである。ここまでの道中でとうとう斬撃を飛ばせるようになり、その射程はキャリーに迫る。ただ、ピンポイントで狙える投擲とは違い、範囲攻撃なので近距離での威力はあるが、距離が離れるごとに減衰し、投擲と同等の30メートル付近ともなれば薄く広くの状態となり、浅いダメージしか負わせられない。あくまで剣の間合いが三倍程度に伸びたと考えた方が良く、必殺距離は数メートルである。

「はいはい。なんで異世界来ると元気になるかなぁ」

 と、キャリーも現実が分かっていない訳ではない。一言言ってみたいだけなのだろうとおっさんはため息を漏らすのだった。

「それじゃあ、行こうかね」

 商人のおばさんが音頭をとって出発するのだった。
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