巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太

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24・おっさんは驚かれる

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 縞大猫キジトラと名付けられているホワイトタイガーを収納しながら、ますます命名したであろうテイマー召喚者の趣味に疑問を抱くが、どんな文句を言っても過去の人間である、今さら修正されることはあり得ない。そうと分かっていても、文句を言いたくなるおっさんであった。

「なぜテントを出たんですか?」

 エミリーからそう問われたおっさんは、何か近くで物音がしたのであたりを警戒していたことを告げる。

「テントの機能は分かっていますよね?確かに、幻の魔物を狩れたのは良かったです。でも、ダイキさんがテントを出なければ、襲われる事も無かったんです」

 と、真剣に説教を始めるエミリーであった。曰く、魔道具テントというのは確かに高価であるが、その分の価値はあり、大抵の魔物に察知されなくなるという。においや音に敏感な魔物であっても、興味を示さなくなるほどの効果を持つので、わざわざ外に出なければ襲われる事などない、と。それを聞いて、そんなすごい魔道具があるなら、もっと便利な魔道具もありそうなのになぁと考えたおっさんだった。

 もちろん、無い訳ではなく、エアコンや冷蔵庫の機能を持った魔道具も存在するが、エアコンはこの地域には必要性が乏しい。冬は寒いが一般的な方法で温まれるし、そもそも供給する魔力が膨大なので召喚者でもなければ収支が釣り合わない。夏は日本と違って乾燥しているので陰に入れば涼む事ができる。冷蔵庫も似たような理由から、貴族や豪商でもなければ使えない代物だ。と、以前エミリーに教えてもらっているおっさん。

 召喚モノならば、他にも無線なり電話なりの遠距離通信機器がありそうだが、記録は残るものの、機器は現存しないと聞いて、ロストテクノロジーなんだなと感想を持つおっさんだったが、イギリスの赤旗法という小ネタを思い出し、利便性よりも既得権益が勝ったのかと納得もした。

 ならば魔物の名前もどうにかならんのかとは思うが、ギルドという組織を創設したのが召喚者であることから、魔物の命名は既存勢力からの影響を受けないのだろうという、ちょっと残念な結論を導き出し、ポーター少女への突っ込みを思いとどまるおっさんだった。

「まだ夜中だよ。そろそろテントに入って寝ようよ」

 エミリーとおっさんの間に入った少女が呆れたようにそう言ってテントへと促す。その眼には夕暮れ時までの色合いは無く、どこか白けた感じすらあったが、おっさんがそれを知ることは無かった。

 おっさんが次に目覚めたのは辺りが明るくなってからだった。すでに二人の姿はテント内になく、外で物音がしているので朝食の準備だろうとのっそり起き上がるおっさん。
 防寒着を着込んで万全の体制で外を覗くと、すでに食事の準備が終り、テント内へと持ち込むところであったらしい。

「おはようございます。朝食が出来ましたよ」

 というエミリーがおっさんに食器を渡し、中へと促す。すぐに二人もテント内へと入り、昨日と同じ献立の朝食を食べるのだった。
 朝食を終え、テントを片付ける頃にはマグロが湖で飛び跳ねる音が聞こえだす。

 その音を聞きながら南下を続けていると、冒険者が湖畔に複数確認できるようになった。

鳥魚バードフィッシュ釣りでもやってんのか?あれ」

 というおっさんの疑問にポーターが

「そうだと思うよ。みんな竿を持ってるみたいだし」

 との事で、望遠で見れば結構長い竿を思った集団だと知れた。その竿から延びる糸の先には、フライフィッシングよろしく毛の付いたナニカが結ばれている様だった。
 観察していると、それを湖面へと投げては引き上げることを繰り返しており、フライフィッシングとよく似た釣り方をしているのも見える。

「お、釣れたか?」

 おっさんが望遠で見ていると、一人の竿が大きく撓り、慌てて隣の冒険者たちが助けに回っているのが見える。 
 そこからしばらく格闘していた四人組は何とかマグロを釣り上げることに成功して喜んでいるではないか。

「あれだけの群れだから、ああやって湖や川にモノを投げ込んでたら突っ込んでくるだろうからね」

 というポーターの言葉通り、また釣れた冒険者が歓声を上げている。

 どうやら今年のマグロは豊漁らしいなと思うおっさん。その多さに釣りを楽しむよりも駆除を優先しろと文句を言うポーター少女。

 その釣り人たちを横目に進めば、下流側の橋が見えて来た。

 そこにも冒険者が居り、飛び立つマグロを狙って魔法を放ったり矢を射かけたりしている。

「ダイキじゃない。最近見なかったけど、どこ行ってたの?」

 新年会でからんで来た女冒険者がおっさんを見つけて声を掛けてくるので、大山猫タマを探しに行って湖を一周してきたことを告げると、エミリーとポーターを見て一言

「若い子ばっかり連れちゃって」

 と、なぜか文句を言われるおっさんであった。

 素通りするのも悪いかと思ったおっさんは、そこで少しの間冒険者たちに混ざってマグロが飛び立つたびに矢を射かけ、川へと落としていく。今日は川に船を出した漁師たちも参加しているので、落として水面に浮いたマグロは彼らが回収し、陸地に落下した分を冒険者たちが回収していく。
 とは言っても魔法で落とす個体の状態はあまりよろしくないが、多くの冒険者や漁師にとって、目的は駆除なのでそれで良いらしい。

 それから日暮れまで彼らと共にマグロ駆除をおこなうおっさんだった。

 村へ戻ると湖畔周遊で得た成果を買い取って貰おうと意気揚々ギルドへ向かうおっさん。

「お、ダイキ、ようやく戻ったか」

 ギルドへ入るとマグロ駆除の支払いでごった返す中、目敏くおっさんを見付けたギルド長が声をかけて来る。どうやら手が足らずにギルド長自ら応対に当たってる姿が目に入る。
 ギルド長は応対の手を止めておっさんを呼び寄せる。

「さっさと帰って来いよ。お前らが出発したあとに吉報だ。ほれ」

 そう言ってギルド長がおっさんに示した物は、おっさんとエミリーの黄銅級昇格の書類であった。

「やった!黄銅級ですよ!タイキさん」

 それを見て喜ぶエミリー。邪魔そうに眺める待ちぼうけの冒険者。おっさんは冒険者に気遣いながら、礼を言って列に並び直すのだった。

 そしてしばらく待てば、おっさんたちの番になる。

「ハァ?大山猫タマ縞大猫キジトラだとぉ?!」

 狩った魔物の名前を聞いたギルド長は素っ頓狂な声を発し、周りの冒険者たちもおっさん達に注目する。

「ああ、それぞれ一頭倒すことが出来た」

 おっさんは何でも無いように答えるが、ギルド長は胡散臭そうに見返す。

「オオカミと間違えてないよな?」

 と、ポーターを見るギルド長。ポーター少女も「間違い様がないよ」と返す。

 モノを解体場へ持ち込むと言うおっさんに対し、ぞろぞろと見物人がついて来る。中には駆除の精算すら放りだしてやって来る者までいる始末である。

「マジかよ。オオカミとは似ても似つかないコイツは間違いねぇ」

 あたりのざわめきのなか、ギルド長はそう呟くのだった。
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