巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太

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14・おっさんは救援に向かう

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 結局その日は夜になってもギルドに動きはなく、おっさんとエミリーはただのんびりと酒場で食事を楽しんだだけに終わった。

 翌日、おっさんはいつものように日の出頃には目が覚める。

 ギルドに顔を出す時間こそ遅いが、起きるのはそんなに遅くは無い。特に昨日の事があるので今日の目覚めは早かった。いつものようにすでに起き出した冒険者たちが廊下を歩く音が聞こえるが、いつも通りで何か急ぐそぶりはない。
 いつもであればのんびり身支度を整えるのだが、昨日の今日である。エミリーが救援依頼を聞いて叩き起こしに来ないとも限らないので早々に歯磨きに部屋を出るおっさん。

 さすが召喚者が複数やってきた世界である。ギルド飯が日本ナイズされているのは当然として、生活においてもギルドには地球の習慣が根付いている。歯ブラシと歯磨き粉もその一つで、城よりも快適に過ごせる一因となっている。
 歯ブラシは何か魔物の毛を使ったものらしく、日本で売られている歯ブラシよりも耐久性が高い。そして、驚きなのは歯磨き粉だ。
 異世界と言えば地球の中世や古代の技術や知識レベルというのが、ラノベでは常識なのだが、ここは千年前には召喚者が現れ、冒険者ギルドを創設した世界。当然ながら地球とは時間の流れが違うのか、それとも召喚される時間が似たような時代なのか、ギルドの習慣は21世紀日本のそれと違和感がない。一番近い召喚が200年前らしいが、習慣に違いが生まれたという話は無く、千年前のモノが踏襲されているらしい。
 その歯磨き粉の成分はナントカという魔草を乾燥させて粉にして他のジェル状の物質の練り合わせたモノという。それを製造するための魔草は農場で生産されているので採取以来の対象ではなく、おっさんはよく知らなかった。だが、すでに歯槽膿漏の気があったおっさんの歯茎が、冒険者として生活するうちに改善している。おっさんにとっては天国というしかなかった。

 ただ、やはりここは異世界。風呂は貴族や豪商の家にしか存在せず、冒険者はサウナを利用するのが一般的だ。まあ、サウナがあるだけマシとも言えるが、サウナ好きのおっさんにはこれも好感触と言えた。ギルドは冒険者やポーターの健康維持のためにサウナを運営している事もあり、そこらの騎士や貴族よりも清潔というのは、やはり日本の習慣が影響しているとおっさんは思っている。

 そんな快適な朝の歯磨きを終え、部屋へ戻ると案の定、エミリーが待ち構えているではないか。

「ダイキさん、昨日のパーティが帰って来ていません。ギルドは捜索依頼を出しましたがどうしますか?」

 そう言いながらも、すでに馴染みのポーターを抑えて待機してもらっている辺り、おっさんに拒否権は無いらしく、頷く事しかできないおっさん。

「わかった。すぐに準備するから行こうか」

 予想通りの展開に、すぐに身支度を整え出発するおっさんとエミリーだった。

 ギルドに着くとすぐさま馴染みのポーターが声を掛けてくる。

「ダイキ、エミリー遅いぞ」

 彼の場合は年少の見習いではなく、村の猟師をしながら応援にやって来る冒険者の道案内をやる青年である。

「ミツヨシさん、すいません」

 おっさんはついつい癖で相手に謝罪をするが、ここは日本ではなく異世界なのでそう言った風習は無い。が、ミツヨシももはや慣れたもの、一切スルーで依頼のは説明を始める。

「昨日、オオカミを追いかけた連中だが、今朝になっても戻ってこない。流石にギルドも様子を見に行かざるを得んという話だったが、事態はそれどころじゃなくなった」

 おっさんが倒した氷風狼ブリザードウルフもはじめは人ではなく村の畑を荒らしに来る魔物を狙っていたらしい。そこで偶然にも人に遭遇し、そこからは日本でもよくある事だった。今回も追いかけたパーティが返り討ちに遭い、夜明けとともに見回りに出た地元パーティによって逃げ切れた生き残りを発見、先ほどギルドに帰って来たという。

「今回は以前のひよっこ連中じゃない、獲物を狩り慣れたオオカミ共だ、ダイキ、お前さんのスキルも過信するんじゃない」

 やはりと言うか、昨日、四頭しか発見できなかったのはオオカミが巧く隠れていたからだとミツヨシは説明した。

「ま、それはふたりのソレにも当てはまるんだがな」

 といって氷風狼ブリザードウルフの毛皮を指す。毛皮が白い事で姿が見えにくいというだけではなく、白い毛自体が探知スキルの欺瞞に効果があるのだというミツヨシ。

「ソレがあるおかげでこっちも見つかりにくくなる。今日はオオカミとの知恵比べだ」

 猟師らしく獰猛に嗤ったミツヨシの顔に、おっさんは背筋がゾワリとするのだった。

 三人はギルドで仕入れた最新情報をもとに現場へと向かう。昨日あれだけ苦労した雪の上だというのにミツヨシは軽々と歩き、そして、上手く雪に隠れたくぼみや斜面を避けて通っていく。

「ああ?雪を見りゃわかるだろ」

 と、事も無げにおっさんの疑問を切り捨てるミツヨシ。だが、おっさんにはその違いが全く分からなかった。エミリーも何となくしか分からないので見落としが多い。

 昨日の倍のスピードはあるだろう雪中の移動によって、それほど苦労することなく複数の足跡がある地点まで到達した。

「どうやらアッチの丘の向こうから逃げて来たのを保護したらしいが、無茶苦茶に逃げたらしくて襲われた場所はいまいちわからん」

 というミツヨシ、そこからおっさんが望遠と熱探知で探ってみるが、同じ様に捜索に参加している冒険者の姿しか発見することは出来なかった。
 そこからは慎重に足跡をたどりながら周囲の警戒を怠らない。

「チッ、コイツは逃げ帰った奴のじゃねぇな」

 しかし、ある地点でミツヨシがそんな事を言う。どうやら他にも逃げ出せた冒険者は居たらしい。もちろん、未だに発見できていないという事は、もう生きてはいないだろうが。
 捜索に参加している冒険者の足跡に混乱してバラバラに逃げた被害者パーティの足跡。そしてミツヨシが見つけたオオカミの足跡。しかしそれは巧妙にどこへ向かったか辿れない様に巧く付けられていて、下手をするとオオカミの罠へと誘い込まれるとミツヨシが警告した。
 おっさんは昨夜、エミリーと熱感知について話していた時、サーモグラフィーは周囲から動物が浮き出るだけでなく、地面や木の温度差も分かるだろう事を思い出していた。
 それをイメージして木と地面と雪、石、それらの見分けを必死に行っていた。そして、違和感に気付く。

「止まってくれ」

 おっさんは警戒しながら被害者の足跡を追うミツヨシを制止し、おもむろに弓を出現させて射る。

 不思議そうにそれを見ているミツヨシだったが、おっさんが弓を放った方向を見てあることに気付く。

「追い込みやってたのか、オオカミの野郎ども!」

 おっさんの放った矢が雪の中に同化していた氷風狼ブリザードウルフを射抜き、小さな血だまりを作ったことでミツヨシにも事態が把握できた。

 わざわざ一人を追い込み、その後に誘われて追いかけてきた仲間を一網打尽に狩りつくす。そんな狡猾な罠がそこには張られていた。
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