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13・おっさんは満足する

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 翌日からおっさんとエミリーはいつもの様に巡回に戻る。

 異世界の冒険者と言えば、ギルドで思い思いの依頼を毎日気分次第で受けるもの。なのだが、今回の依頼は氷風狼ブリザードウルフに由来する変事に端を発するモノで、おっさんがすでに討伐し終えてしまった。
 しかし、あの群れだけという確たる証拠は誰も持ち合わせておらず、未だに当初の依頼が生きており、こうして巡回を行っている。

「今日も何もありませんでしたね。あの群れの仕業で良いのではないでしょうか」

 5日も経った頃には、熱探知によってシカを探すことにも飽きたエミリーがそんな不満を漏らす。群れの討伐以後もしばらくは東征村への応援依頼が残されていたので冒険者パーティの数は更に増え、巡回コースは固定となって面白味の無さが際立っている。
 冒険者がそこかしこをウロツク状況に魔物達も村への接近を警戒する様になり、本職の狩人や地元冒険者の狩猟パーティくらいし魔物に当たらない日々が続いていた。

「オオカミが居ないなら、そろそろ依頼も終わるだろう。もう少しの辛抱だよ」

 おっさんはそう励ましながら、時折またマグロが飛んでこないか空を見上げていた。

 そんなのんびりした村での生活が続き、何事もなく防寒着が完成し、試着をするふたり。白い毛皮は暖かく、これまでの寒さは何だったのかと笑い合いながら、職人達による手直し箇所の見直しに付き合った。
 そう時間の掛からない手直しだったので店でしばらく待つ。

「はい、出来ました」

 渡された防寒着を着て店を出たエミリーが歓声をあげて喜ぶ。

「凄いですね。聞いた以上かも」

 その喜び様に頷くおっさん。地球の防寒着とは考え方から違い、魔物の持つ特性によって性能が左右されるため、目的に合わせた魔物素材を用意する必要があり、防寒対策には寒い地域に住む魔物素材が最適であるのは言うに及ばない。

 その中でも氷風狼ブリザードウルフの様に風雪を操る魔物の防寒性能はとりわけ高いと聞いたおっさんは、倒した六頭から二人分の毛皮を貰っていた。
 一着あたりの製作費もバカにならず、マグロを狩るまで製作してもらうか、一般的な防寒着でしのぐか迷っていたが、大漁のマグロに勢い発注したのだった。
 話に聞いた以上に満足な防寒着にエミリーがはしゃぐのも分かるおっさんだった。

 翌日はもはやピクニック状態での巡回となっているおっさんとエミリー。ここの所、同じコースしか歩いていないのでポーターも付けずにふたりでまわるようになっていた。
 ただ、おっさんはまたマグロが来ないかと探していたし、エミリーも何か雪に紛れて居ないかと辺りの観察は怠っていなかった。

「人か?」

 かなり遠くに複数の熱源を見つけた気がしたおっさん。望遠のスキルで熱源を見ようとするが、そこには雪しか見えない。

「何か居ましたか?」

 おっさんが立ち止まり、遠くを見ているのでエミリーもそれに倣う。流石に望遠は修得出来ていないのでよく分からないであろう中でも異変を見つけた。

「何か居そうです。オオカミ?」

 エミリーの声でおっさんも人ではなく魔物を探し出す。
 長年ポーターをやり冒険者となったエミリーの方がこうした勘は上であるらしく、望遠や熱探知を持ちながら、おっさんが遅れをとっているが、それでもチート持ちの召喚者である。エミリーの言葉に従って探せば、そこには氷風狼ブリザードウルフを見つける事が出来た。

「まだ気付かれていないな」

 そう言うおっさん。

「さすが、ダイキさんです。何頭います?」

 キラキラした顔で聞くエミリー。

 おっさんは更に辺りを探り、四頭ほど見付けたが、以前よりも隠れるのが巧い群れだと思った事をエミリーに伝える。

「あの六頭は若い群れだったんでしょうね。仲間がやられたら隠れる事が多いと後から聞きましたし」

 と、続けるエミリーである。六頭まとめて倒した事に驚かれたのには、そうした意味もあった。

「なら、コイツ等は一筋縄じゃ行かないって事だな。下手をしたら他にも隠れているかもしれない」

 そう感じたおっさんは様子を見ながら巡回コースを進んで行く。(アイツ等、こっちにまるで興味が無いみたいだな。何か狙ってるのか?)

 おっさんはそう思いながらゆっくり歩みを進めていると、オオカミを見つけた少し先に白い壁の様な物が出現するのを見ることになった。

「ダイキさん、ブリザードです。狩りをしてるみたいですよ」

 エミリーの声で、どうするか考えるおっさん。

「見に行くか?」

「はい。詳細の分からないものは報告も出来ません」

 おっさんの問に即座に答えたエミリーとともに現場を目指すふたりだったが、地理に疎いふたりには非常に困難な道のりとなった。
 いつもの道はポーターととも道を作っているので吹雪にでもならない限り、消えてなくなる事もない。しかし、今分入っているのは見ず知らずの草原なので、雪によって地形すら把握しにくい状態である。
 案の定、ふたりは雪に隠れた僅かな斜面やくぼみに足をとられてうまく進むことができず、現場に着いた頃にはオオカミは消え去り、残されていたのはイノシシ系魔物の無残な死体だけだった。

「やはり、まだ居たんですね」

 というエミリー。周囲を探るが、すでにオオカミは見当たらない。
 足跡はあるが、ここまでの苦労を考えると追うことも無理だった。

「村周辺で活動する群れが他にも居た事を報告出来るんだから、良しとしよう」

 おっさんは血気盛んな若者ではないので途中で退く事に躊躇いはない。
 エミリーもポーターからの経験があり、前のめりに無理な探索を続ける様な浅はかさは持ち合わせていなかった。

 ふたりが巡回を終え、事の次第を報告したのだが、狩りに伴うブリザードを目撃したのはふたりだけではなかったらしく、オオカミを追いかけたパーティがあるらしい。
 それも、地元パーティではなく、東征村からの応援組だと言うのだから穏やかではない。

 ふたりはいつ救援依頼が来ても良い様、しばらく酒場で待機がてらの食事を楽しむ事にした。

「居るんですよ。私みたいなポーター上がりばかりじゃないので、ポーターを経験せずに冒険者になって、魔力量が多かっただとか、幸先よく等級を上げた冒険者って、危険を顧みずに突っ走るんです」

 そう説明するエミリー。

 彼女は親が冒険者で、学校代わりにポーターをやっていたらしい。教育機関でもあるギルドのポーター制度を利用する冒険者も珍しくはなく、孤児院なども適齢の子供をポーターとしてギルドに連れて行くという。
 しかし、比較的裕福な商人や地主階級の農家などはそんな回りくどい事をしない例も多く、初めっから適度な武器防具を揃えて下積み無しに冒険者となる。

「若気の至りって言うんだ。ただ、冒険者でそれは危険な蛮勇だろうけどな」 

 おっさんも自分の若い頃を思い出しながら呟いた。
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