巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太

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4・おっさんは懐かれる

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 驚きの初日を終えて翌日。

「お、亀殺しのお出ましだな」

 おっさんが冒険者ギルド直営の宿からギルドへと顔を出すと、そんな声が聞こえてきて顔をしかめた。

 この世界の冒険者ギルドはラノベでよくある等級分けとは少々異なる制度を持っており、おっさんは魔力保有量ではトップクラスのピンク。その為、経験が少ないにもかかわらず有力冒険者の一角と言う見なされ方をしており、岩鎧亀ロックタートルを狩って帰った事にも驚かれこそすれ、魔力量を知った冒険者たちは納得顔だった。

 そして、それとは別に冒険者ギルドにおける信用度は実績に比例するため未だ初心者である石級。こちらは提携するギルド以外では通用せず、別のギルドへ行けば石からのやり直しになるため、ギルド内での評価基準となる。ただ、大きな功績を挙げた場合はギルドや国を跨いで評価され、その場合は引き継がれる事もあるが、石、銅、黄銅、鉄と言った一般的な冒険者には適用されにくい。あくまでそれ以上、ラノベにおけるB級に相当する鋼、A級に相当する銀、S級に相当する金と言ったごく一部の「英雄」たちの場合であった。

「おはよう、ダイキ。今日もヤギ狩りに行くか?カメを倒したからカネはあるだろう?兎に挑戦するのもありかもしれないね」

 昨日と同じ受付の女性がそう声を掛けて来た。

 ヤギの狩猟は常時依頼として行われており、一頭いくらで計算されるが、岩鎧亀ロックタートルは魔力量が黄色以上でないと危ないとされ、制限が掛けられている。その制限を満たしているおっさんだったが、依頼を受けての狩猟では無かったことから信用評価には反映されていない。冒険者間での助け合いは個人的な物であってギルドは介在しないからだ。
 ちなみに、矢を二本しか受けていない亀の素材は高値で買い取られ、この世界で初めて金貨を手にしたおっさんだったが、日本の基準で見たら30万円相当と決して高額とは思えなかったので浮かれてはいない。
 もちろん、日本の基準では推し量れない事を失念していたのだったが。昨日得た報酬は、普通に生活するなら半年近く暮らせる金額であることは教えられていないので、おっさんはその価値を知らなかった。

「そうだな。角兎ホーンラビット牙兎ファングキラーどっちがやり易いんだ?」

 と聞くおっさん。それを聞いて考える間もなく受け付けは即答する。

「スリルも値段も角兎ホーンラビットが上さ」

 そして、角は薬にもなるし、槍先や矢じりとして加工する事もあり、需要が高い事を教えられる。牙兎ファングキラーは兎なのに肉食なの事もあって食用にもならず、生息地が少々遠い事もあって腕試しの対象ではあっても稼ぎにはなりにくいと教わる。
 おっさんは今日もケインから色々教わろうと考えて辺りを見回すが、姿が見えなかった。

「ケインならヤギ狩りの連中について行ったよ。昨日はたまたま早帰りした奴に付いてってたから居ただけさ」

 と、おっさんの重役出勤をとがめられることとなった。今ギルド内でたむろしている連中は、今日は依頼を受ける気が無いか、仲間探しをしている連中だと教えられた。(日が昇ったら働き出すのか、ここは。中世っぽいしそんなもんか)と、おっさんは納得した。

 確かに血抜きをして、解体も済ませて持って来た方が高く売れるのだが、角だけでも日当程度の稼ぎは出ると聞いて、おっさんはひとりで草原へ向かおうと受付を後にした。

「あの!」

 少し歩いたところで声を掛けられたおっさんが振り向くと、そこには女性がひとり。顔と革鎧から昨日助けたエミリーだなと思い出す。

「私がついて行っちゃダメですか?」

 見た目は女子大生くらいなのに、実は15才と聞いているので少々腰が引け気味のおっさんである。なにせ、相手は中学生相当なのだ。流石にアラフォーが連れているのはヤヴァイだろと思って受付を見ると、なぜかニヤニヤされている。

「ああ、ダメじゃないが、俺は角兎ホーンラビットの事を何も知らない。無為に1日過ごすだけかもしれんぞ?」

 と、返してみたが、エミリーは食い気味に距離を詰めてくるので後ずさるおっさん。

「大丈夫です!私もポーターからやっているので結構詳しいです。ケインみたいに居場所や性格、解体方法も教えられます!」

 と言われては断る訳にもいかない。受付を見れば「イケイケ」と言われているような気がして了承したおっさんだった。

 兎の生息地は東門を出て練習場を超えた先の草原だという。やたら食い気味のエミリーにあれこれ聞かれ、自身が召喚者であることやスキル間違いで城を追放された話をしたところ、やたらと感情移入されて困惑するおっさん。

「それはおかしいです!あれだけの弓の腕があるなら、ダイキさんは勇者パーティでやっていけるはずなのに!!」

 などと盛り上がっている姿に、(間違いを起こさないようにしないとなぁ)などと考えるおっさんだった。 

 そんな会話をしながら歩いていると、エミリーから狩り場に着いた事を知らされる。
 角兎は穴を掘って巣穴としていると語るエミリーの説明に頷き辺りを見回すおっさん。

 おっさんはミーアキャットの様な可愛い小動物が巣穴から顔を出している姿を想像していたが、実物を見て驚愕する。

「あ、居ますよ。アレです」

 エミリーが指差す先には中型犬クラスはありそうな図体をした凶悪そうな一角獣が居るではないか。

「デカいな。アレでウサギを名乗るのか?」

 おっさんでなくとも地球人なら誰もが思うだろう。全く名前と実物の姿が違いすぎる。

「ウサギはああいった魔物ですよ?一体どんな姿だと思いました?」

 と、聞かれて地球のウサギの説明をすると、エミリーも目を輝かせるが、すぐに切替えて「今は狩りをしなきゃでした」と真顔に戻る。
 おっさんは感心してエミリーを見ていたが、エミリーから警告が飛ぶ。

「ダイキさん、来ます!」

 おっさんには意味不明である。「来ます!って、何が?」と前を向くと、とんでもない跳躍力で迫る凶悪な魔物が目に入る。

 咄嗟に弓を出現させて矢を放つが、矢じりまでしっかり考えていなかったので魔物に刺さりはしたが、ダメージは少なそうだった。

「怯みましたよ。次は後ろ脚を狙ってジャンプを封じましょう。トドメは私が槍で刺します!」

 意気込むエミリーに感心するおっさんは、今度はしっかり矢じりを生成して後ろ脚へと放ったは

「クソ、間合いを外しやがった!」

 矢を放つタイミングを見計らう様に跳躍したウサギという名の凶悪な魔物。
 しかし、おっさんの予想に反し、矢はまるで誘導されているかの様に軌道を変えて魔物の後ろ脚へを貫通していく。

 驚くおっさん。褒めそやすエミリー。

「骨も断った様なので、トドメを刺しに行きます!」

 片脚の自由が効かずにヨタヨタしている魔物へとプロアスリート並の加速で突っ込むエミリーを唖然と見送り、槍が深々と刺さるまで眺めるだけのおっさんだった。
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