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長州征伐で国内が荒れ狂っていた頃、外国奉行から老中格となる外国事用人という、今で言えば外務大臣と外務次官を兼ねる様な役職についていた小栗は、盛んに南北戦争のための生産確保に奔走し、新興の工業国であったプロイセンとの接触を図っていた。
すでに欧米使節団としてロシアやイギリス、フランスでプロイセン、オーストリアなどの大使や公使と面識こそあったが、それ以上の関係を築いていた訳ではない。
そんな折、プロイセンでは閂筒と同じような発想から開発されたドライゼ銃が存在する事を知り、再びプロイセンと接触を図った。
幸運な事にプロイセン側の相手は駐ロシア大使として面識のあったビスマルクであった。
初めは適当にあしらわれることになるが、ドライゼ銃の欠点を指摘し、その解決策が日本にある事を説明すると態度を変え、協力を取り付けることに成功し、プロイセンにおいて弾薬製造に必要な工作機械の調達を行うとともに、南部連合向け弾薬の量産についても合意する事となった。
あえてプロイセンに話を持って行ったのは何故かというと、この頃すでにイギリスが自国の経済的な問題を理由に工作機械の輸出を絞っていたからだった。
これは当時のイギリスとすれば当然で、遠く離れた極東において日本と言う得体のしれない国が工業国として自立してしまえば、清に得た権益が侵されるとの警戒心からだった。
そうしたイギリスの思惑から南部連合への輸出が遅延しだしていた幕府にとって、他国の助力を得ようというのは間違った事では無かった。そして、その国は出来ればまだ、日本周辺に進出しておらず、足元を見られない国である方が好都合であったのはいうに及ばない。
そうした事からプロイセンへと接触し、タイミングもよく両者の利益が合致し、南部連合向け弾薬の供給が満足に出来るようになる。
この合意によってプロイセンは金属薬莢技術を手にし、ドライゼ銃の改良型Gew67を開発する事となる。
こうして新たな工作機械の入手先を得、さらに最新の製鋼技術の入手にも成功した事で、より一層の発展を見ることとなる。
こうして得た技術で関口大筒はさらに洗練され、現在の鎖栓式を確立する事となった。
その様に外交成果を積み重ね、外交だけでなく殖産興業分野にも明るい小栗は、将軍後継が未だ決まらない1867年5月、パリ万博において幕府とは別に、薩摩が独自の出展を行っている事を知って驚愕する事となった。
薩摩が独自に出展できたのは、当然ながらフランスの後押しと工作あっての事である。幕府はフランスと薩摩双方に抗議したが、薩摩は一切耳を貸さず、フランスは薩摩から聞いたのであろう、藩ごとの独立性を盾に薩摩の出展が如何に正当かを説いてくるほどだった。
この時、薩摩は焼酎や特産品などを出品していた。それに対して幕府も似たような日本の文化風習に関するものもあったが、工業力のアピールも忘れなかった。
蒸気機関や内燃機関の出品は当然の事、久米筒も出品していた。
しかし、欧州の人々がそれよりも驚愕したのが缶詰であった。
当時の缶詰ははんだ付けで蓋をするのが当たり前だったが、幕府が出品した缶詰はハンダやロウを使うことなく蓋がされていた。
開会期間中ずっと展示され、終了間際の数日のうちに開封され、中身を確認できるようにしていった。
中身が入っている事にも驚いた人々であったが、まさかそれが腐りもしていない魚の油煮や水煮であったことにも驚くことになる。
仮にその缶詰が開会当初から展示されていたものとはすり替えられていたとしても、フランスにはその様な缶詰を製造できる施設はない為、どこか遠方から持ち込まれているのは確実で、何日も放置した魚料理が腐っていないはずもなく、そうであるなら、既存の缶詰同様に実用的な物であると、誰もが納得したくないが納得するしかなくなっていた。
この時展示されていたのが、平賀源内が書き残した様々な発明品の書「源内御手帳」を基に開発された巻き鉸め技法だったのだが、万博会場ではその方法が誰にも理解できず、まるで魔法を見せられたようだという声が上がる事となった。
当時開発されていたのは手作業で缶を一つ一つカシメていく器具であり、まだまだ改良の余地が多く残る代物だった。
それでもヨーロッパを驚かせたことに違いはなく、万博の後に各国で特許を出願、使用料も相応の額に設定されたので一時は缶詰産業を日本が席巻した程だった。もちろん、食文化の違いもあってそう長く続くものでは無かったが、兵器や産業機械などより、よほど大きなインパクトを与えたことは確かであった。
現在においても、パリ万博と言えば缶詰ショックと言われるほどインパクトのある話題だが、当時の幕府にとっては缶詰よりも薩摩が独自に出展している事の方が大きな関心事であり、それを後押しするフランスに対しての不信感を抱く大事件となった。
この時、薩摩出展問題のために渡仏していた小栗は、フランスとプロイセンの関係が悪化し、近く戦争になるだろうという話を耳にする。
その情報を基に、出来る事ならプロイセンを利用してフランスが薩長に関われなく出来ないかと思案を巡らせ、プロイセンと接触する事になった。
すでに欧米使節団としてロシアやイギリス、フランスでプロイセン、オーストリアなどの大使や公使と面識こそあったが、それ以上の関係を築いていた訳ではない。
そんな折、プロイセンでは閂筒と同じような発想から開発されたドライゼ銃が存在する事を知り、再びプロイセンと接触を図った。
幸運な事にプロイセン側の相手は駐ロシア大使として面識のあったビスマルクであった。
初めは適当にあしらわれることになるが、ドライゼ銃の欠点を指摘し、その解決策が日本にある事を説明すると態度を変え、協力を取り付けることに成功し、プロイセンにおいて弾薬製造に必要な工作機械の調達を行うとともに、南部連合向け弾薬の量産についても合意する事となった。
あえてプロイセンに話を持って行ったのは何故かというと、この頃すでにイギリスが自国の経済的な問題を理由に工作機械の輸出を絞っていたからだった。
これは当時のイギリスとすれば当然で、遠く離れた極東において日本と言う得体のしれない国が工業国として自立してしまえば、清に得た権益が侵されるとの警戒心からだった。
そうしたイギリスの思惑から南部連合への輸出が遅延しだしていた幕府にとって、他国の助力を得ようというのは間違った事では無かった。そして、その国は出来ればまだ、日本周辺に進出しておらず、足元を見られない国である方が好都合であったのはいうに及ばない。
そうした事からプロイセンへと接触し、タイミングもよく両者の利益が合致し、南部連合向け弾薬の供給が満足に出来るようになる。
この合意によってプロイセンは金属薬莢技術を手にし、ドライゼ銃の改良型Gew67を開発する事となる。
こうして新たな工作機械の入手先を得、さらに最新の製鋼技術の入手にも成功した事で、より一層の発展を見ることとなる。
こうして得た技術で関口大筒はさらに洗練され、現在の鎖栓式を確立する事となった。
その様に外交成果を積み重ね、外交だけでなく殖産興業分野にも明るい小栗は、将軍後継が未だ決まらない1867年5月、パリ万博において幕府とは別に、薩摩が独自の出展を行っている事を知って驚愕する事となった。
薩摩が独自に出展できたのは、当然ながらフランスの後押しと工作あっての事である。幕府はフランスと薩摩双方に抗議したが、薩摩は一切耳を貸さず、フランスは薩摩から聞いたのであろう、藩ごとの独立性を盾に薩摩の出展が如何に正当かを説いてくるほどだった。
この時、薩摩は焼酎や特産品などを出品していた。それに対して幕府も似たような日本の文化風習に関するものもあったが、工業力のアピールも忘れなかった。
蒸気機関や内燃機関の出品は当然の事、久米筒も出品していた。
しかし、欧州の人々がそれよりも驚愕したのが缶詰であった。
当時の缶詰ははんだ付けで蓋をするのが当たり前だったが、幕府が出品した缶詰はハンダやロウを使うことなく蓋がされていた。
開会期間中ずっと展示され、終了間際の数日のうちに開封され、中身を確認できるようにしていった。
中身が入っている事にも驚いた人々であったが、まさかそれが腐りもしていない魚の油煮や水煮であったことにも驚くことになる。
仮にその缶詰が開会当初から展示されていたものとはすり替えられていたとしても、フランスにはその様な缶詰を製造できる施設はない為、どこか遠方から持ち込まれているのは確実で、何日も放置した魚料理が腐っていないはずもなく、そうであるなら、既存の缶詰同様に実用的な物であると、誰もが納得したくないが納得するしかなくなっていた。
この時展示されていたのが、平賀源内が書き残した様々な発明品の書「源内御手帳」を基に開発された巻き鉸め技法だったのだが、万博会場ではその方法が誰にも理解できず、まるで魔法を見せられたようだという声が上がる事となった。
当時開発されていたのは手作業で缶を一つ一つカシメていく器具であり、まだまだ改良の余地が多く残る代物だった。
それでもヨーロッパを驚かせたことに違いはなく、万博の後に各国で特許を出願、使用料も相応の額に設定されたので一時は缶詰産業を日本が席巻した程だった。もちろん、食文化の違いもあってそう長く続くものでは無かったが、兵器や産業機械などより、よほど大きなインパクトを与えたことは確かであった。
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この時、薩摩出展問題のために渡仏していた小栗は、フランスとプロイセンの関係が悪化し、近く戦争になるだろうという話を耳にする。
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