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21.少年の誠意
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――ヴン。
突如、レアルの身体は気味の悪い浮遊感に包まれていた。
「……っ! 転移成功……したけど……!!」
「ッ!? イズミ! ナンデ!?」
「いぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!?」
それはレアルだけでなく、少年も、リリシアも同様のようだった。
リリシアは剣を握ってジタバタと暴れている。――空中で。
ザッパァァァァン!!
3人は揃って水面に叩き付けられた。
――リリシア!!
水中は真っ暗だった。
力を使い果たして、はたまた恐怖で意識を飛ばしたリリシアの腕をレアルはしっかりと掴んだ。
だが。
グァンと、世界が反転した。
手がピクピクとしか動かなかった。
魔法力過剰仕様によるオーバーワーク兆候だった。
――この手だけは、離さない……っ!
リリシアの手だけはがっちりと握った。
少しずつ遠のきかける意識の中で、それは現れる。
『ここまで辿り着くことが出来る者がまだいたとはね』
――誰だ……?
薄れゆく意識。レアルはゆっくりと目を開いた。
『私はあなた達が《精霊》と呼称する存在。ここは貴方の求めうるべき場所よ』
――……?
『私を受け入れなさい。そうすれば、貴方達もきっと満たされるはずだから』
レアルの眼前に現れたのは、一人の少女だった。
10歳ほどの少女が、全裸で水中に佇んでいる。
瞳は深淵のように蒼く、暗い。
どこまでも沈んでゆけるような淡い感覚に包まれながら、レアルはふっと意識を飛ばしてしまったのだった。
●●●
ザザザザザァ……ザザザザァ……。
小さな波の音が聞こえていた。
海ではない、この場所で。
「ここは……?」
ふとレアルは目を覚ます。
隣には、ずっと手を握っているリリシアの姿もあった。
不思議なことに、リリシアが受けていた傷は全て消えている。
レアル自身も魔法力が枯渇していたはずなのに、全てが回復している。
――それも、前以上に。
「オキタ」
もう一方の隣には、少年がいた。
ムスッとした表情で体育座りをして、じっとこちらを見つめている。
敵意はなさそうだ。
「…………」
「……えっと……」
レアルは、恐る恐る問うた。
「ここ、どこか……分かる?」
「ウルダノイズミ。カミノツカイ、ゴメンナサイ。キズツケル、オモッタ」
殊勝な態度で少年は、頭を小さくぺこりと下げる。
片言の王国語でも少年の誠意はしっかりレアルに伝わっていた。
「……ん、レアル……。……っ!?」
目を覚ましたリリシアが、すぐさま戦闘態勢に入ろうとしていた所をレアルは笑って諫める。
「大丈夫だよ、リリシア。ね?」
レアルは少年にそうウィンクすると、少年は小さくこくりと頷いた。
「キズツケ、ゴメンナサイ」
ぺこりと殊勝な態度で謝りだした少年に、リリシアはぽかんと口を開けた。
●●●
「えーっと……要するに、どういうことなの、レアル?」
少年は片言ながらも一生懸命語ってくれたこと。
リリシアは途中から話半分だったらしい。
「この男の子の妹、カノンちゃんが病の発作で倒れてる。全知全能、生命の泉とも言われるここ、『ウルダの泉』を見つけたけど今まで見つからなかったし、もう諦めていた。せめて体力を付けてもらうために、筋肉狼を狩っていた時にぼく達が唐突に出張ってきてたのが、この間」
「ふむふむ」
「それでまたぼく達が来ちゃったし、寝床もバレて。せっかくの妹の栄養源である筋肉狼を横取りされそう、殺されそうだと思ったから全力で排除するために戦ってたらウルダの泉の使者だと分かってしまった、ごめんなさい……こういうことだよね?」
こくこくこくと、少年は全力で頭を縦に振った。
「……ウルダの泉、聞いたことないわ」
「ウルダノイズミ、カミサマ、オクリモノ。カノン、ナオル……?」
請うようなその上目遣い。
先ほどとは打って変わって警戒心を投げ捨てるその様子に、思わずリリシアはその小さな頭をなでなでしていた。
「治してみせるよ。そうでしょう、精霊様?」
レアルは湖を見渡した。
「……セイレイサマ、ミエル?」
「せ、精霊!? れ、レアル! 本当に見えるの!? ……高等存在の、《精霊種》を!?」
レアルの見据える先に、水面につま先立った少女がぼんやりと現れる。
『今回だけは、許可するわ。せっかくだから、あなただけには特別に門戸を開いておいてあげる。……あなたは、面白そうだから』
無表情で呟く、人の心のなさそうな裸の幼女は少しだけ口角を上げたのだった。
突如、レアルの身体は気味の悪い浮遊感に包まれていた。
「……っ! 転移成功……したけど……!!」
「ッ!? イズミ! ナンデ!?」
「いぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!?」
それはレアルだけでなく、少年も、リリシアも同様のようだった。
リリシアは剣を握ってジタバタと暴れている。――空中で。
ザッパァァァァン!!
3人は揃って水面に叩き付けられた。
――リリシア!!
水中は真っ暗だった。
力を使い果たして、はたまた恐怖で意識を飛ばしたリリシアの腕をレアルはしっかりと掴んだ。
だが。
グァンと、世界が反転した。
手がピクピクとしか動かなかった。
魔法力過剰仕様によるオーバーワーク兆候だった。
――この手だけは、離さない……っ!
リリシアの手だけはがっちりと握った。
少しずつ遠のきかける意識の中で、それは現れる。
『ここまで辿り着くことが出来る者がまだいたとはね』
――誰だ……?
薄れゆく意識。レアルはゆっくりと目を開いた。
『私はあなた達が《精霊》と呼称する存在。ここは貴方の求めうるべき場所よ』
――……?
『私を受け入れなさい。そうすれば、貴方達もきっと満たされるはずだから』
レアルの眼前に現れたのは、一人の少女だった。
10歳ほどの少女が、全裸で水中に佇んでいる。
瞳は深淵のように蒼く、暗い。
どこまでも沈んでゆけるような淡い感覚に包まれながら、レアルはふっと意識を飛ばしてしまったのだった。
●●●
ザザザザザァ……ザザザザァ……。
小さな波の音が聞こえていた。
海ではない、この場所で。
「ここは……?」
ふとレアルは目を覚ます。
隣には、ずっと手を握っているリリシアの姿もあった。
不思議なことに、リリシアが受けていた傷は全て消えている。
レアル自身も魔法力が枯渇していたはずなのに、全てが回復している。
――それも、前以上に。
「オキタ」
もう一方の隣には、少年がいた。
ムスッとした表情で体育座りをして、じっとこちらを見つめている。
敵意はなさそうだ。
「…………」
「……えっと……」
レアルは、恐る恐る問うた。
「ここ、どこか……分かる?」
「ウルダノイズミ。カミノツカイ、ゴメンナサイ。キズツケル、オモッタ」
殊勝な態度で少年は、頭を小さくぺこりと下げる。
片言の王国語でも少年の誠意はしっかりレアルに伝わっていた。
「……ん、レアル……。……っ!?」
目を覚ましたリリシアが、すぐさま戦闘態勢に入ろうとしていた所をレアルは笑って諫める。
「大丈夫だよ、リリシア。ね?」
レアルは少年にそうウィンクすると、少年は小さくこくりと頷いた。
「キズツケ、ゴメンナサイ」
ぺこりと殊勝な態度で謝りだした少年に、リリシアはぽかんと口を開けた。
●●●
「えーっと……要するに、どういうことなの、レアル?」
少年は片言ながらも一生懸命語ってくれたこと。
リリシアは途中から話半分だったらしい。
「この男の子の妹、カノンちゃんが病の発作で倒れてる。全知全能、生命の泉とも言われるここ、『ウルダの泉』を見つけたけど今まで見つからなかったし、もう諦めていた。せめて体力を付けてもらうために、筋肉狼を狩っていた時にぼく達が唐突に出張ってきてたのが、この間」
「ふむふむ」
「それでまたぼく達が来ちゃったし、寝床もバレて。せっかくの妹の栄養源である筋肉狼を横取りされそう、殺されそうだと思ったから全力で排除するために戦ってたらウルダの泉の使者だと分かってしまった、ごめんなさい……こういうことだよね?」
こくこくこくと、少年は全力で頭を縦に振った。
「……ウルダの泉、聞いたことないわ」
「ウルダノイズミ、カミサマ、オクリモノ。カノン、ナオル……?」
請うようなその上目遣い。
先ほどとは打って変わって警戒心を投げ捨てるその様子に、思わずリリシアはその小さな頭をなでなでしていた。
「治してみせるよ。そうでしょう、精霊様?」
レアルは湖を見渡した。
「……セイレイサマ、ミエル?」
「せ、精霊!? れ、レアル! 本当に見えるの!? ……高等存在の、《精霊種》を!?」
レアルの見据える先に、水面につま先立った少女がぼんやりと現れる。
『今回だけは、許可するわ。せっかくだから、あなただけには特別に門戸を開いておいてあげる。……あなたは、面白そうだから』
無表情で呟く、人の心のなさそうな裸の幼女は少しだけ口角を上げたのだった。
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