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20.ウルダの泉

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「カノン、イタイ。イタイ、マモル」

「待って。ぼく達は君たちの敵じゃない! 話を聞いてほしいんだ!」

「オオカミニク、ワタサナイ。カノン、ゲンキ、ナレナイ!」

 まるで聞く耳持たない少年は、どうやらレアル達を肉泥棒をしにきたと疑っているらしかった。
 
「レアル、離れてて! この子、相当やり手よ!!」

 木の枝を軽く蹴って加速を決めた少年は、腕に魔法力を迸らせた。
 自身の腕を躊躇することなく振りかぶって、リリシアの魔法力付与エンチャント炎剣にぶつける。

 ガギィィィイインッッ。

 少年の右腕と、リリシアの剣が混じり合う。
 炎の揺らめきさえも全く問題なさそうに、少年は力押しだけでリリシアの剣を振り払った。

「……っ!」

「リリシア、硬化魔法だ! 属性魔法も物理攻撃も効かない!」

 レアルは叫んだ。
 硬化魔法。火、水、風、土の四大元素のいずれにも当てはまらない《無》の魔法のことだ。
 同時に身体も遙かに重くなるはずにも関わらず俊敏性も保っている。

「無属性魔法使いでこの速さってわけね……。スピードなら、私だって負けないんだからッ!」

 無属性魔法は、発現者の数も圧倒的に少ない。
 主には肉体強化など、自身の身体に変化を起こす魔法を使うことが多いらしいがその対処法は困難を極める。
 炎属性の魔法と、持ち前のスピードを活かして手数で攻めるリリシアと、ひたすら防御に徹しつつも一撃必殺を常に伺う少年。
 だが、リリシアの手数は徐々に落ちているのが明白だった。

 ジリ貧を感じ取ったレアルは必死に頭の中で考えを巡らせる。

「……一か八かだ。1分、時間が欲しい」

 少年の一撃を剣で受け止めたものの、衝撃と共に軽々と突き飛ばされたリリシアが、レアルの少し前へと着地した。

「はぁっ、はぁっ……了解。何とかしてくれるのね?」

「善処する。失敗したら死ぬかも」

「じゃ、何としても成功させてよねッ!! あぁもう、身体が重いんだからっ!」

 自身に活を入れたリリシアは力強く大地を蹴り上げた。

 レアルは地面に手を着いて魔法力を注ぎ込む。

「近くにないか……!? 水さえあれば、硬化魔法も解かざるを得ないはず……!!」

 硬化魔法で相当自重を重くしているならば、水に落とせばいい。

「っても、こんな所に都合のいい場所なんて――いや……!?」

 大地に魔法力を注ぎ込み、周囲の地形をすぐに探索。
 召喚場所に最も適切な場所を探していると、それはすぐに探知に引っかかる。
 どこにあるかの詳細は分からない。だが、そこには確かに水のたまり場・・・・・・がある。

「――ここならっ!!」

 藁にも縋る思いでレアルは最大出力の魔法力で地面を覆う。

 ぶぉんっ。

 ノイズのような音と共に、レアル、リリシア、少年を丸ごと包む巨大な円状術式を展開する。
 範囲が広がれば広がるほど、黄金の文字列の必要数も拡大するらしい。

『召喚可能係数まで 魔法力量――残:30,582ファルツ
 空間転移召喚 認証
 種 ヒト・亜人
 個体名称 レアル リリシア 《ノーネーム》
 召喚源 召喚術師レアル発 円上術式上
 召喚地点 ウルダの泉

 魔法力量流出過剰 危険値を確認
 転移召喚まで 40秒』

 バリンッ。
 小さな音を立てて、黄金の文字列の一部にヒビが入る。

「……!? ……!? ……マモル! ……カノン、マモル……!!」

 自身を含めた足下に広がる黄金の円状術式に、少年はすぐさま標的をレアルへと変えた。

黒炎への道標ヘルファイアロードッ!!」

 ズァァァァァァッッ。

 少年の前を遮るような黒炎。

「余所見なんて、してる場合かしら、ね……!?」

 満身創痍のリリシアは、身体中に傷を作っていた。
 少年の容赦ない殴打と、斬り裂くような腕での斬撃はリリシアの体力を蝕んでいた。

 レアルの前に踏ん張り出て、口端から血を流しながら紅の美少女は剣を振るう。

「ごめんね、リリシア」

 ボロボロの彼女を見てレアルは頭を下げた。

「ふふっ、役に立てたなら、何よりよ」

「おかげさまで間に合った。動けなかったら、ぼくが助けに行くよ」

 レアルが顔を上げる。
 彼らの周りを覆った黄金の文字列が霧散し、レアル、リリシア、少年は淡い光に包まれた。


『召喚可能係数 規定値を突破
 レアル・リリシア・《ノーネーム》 転移召喚』
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