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19.血痕の先に

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 砕け散ったリリシアの剣の破片が辺りに散らばっている。
 転移が成功した証拠だった。

 それまであった家がなくなりいよいよ開けた地帯になったその場所では、転移早々異様な光景が広がっていた。

「……う、何、この匂い」

 辺り一面に広がる血の匂いに思わずレアルは顔を歪めた。

 リリシアは、倒れ伏したおおよそ20頭近い筋肉狼マッスルウルフの遺骸一つに手を触れた。

「血が固まってるし、全身的に死後硬直もしてる。絶命してから一晩ってとこね」

「ってことはこれ全部、あの子達がやったっていうのか……」

 リリシアの愛剣でも叩き斬ることが出来なかった筋肉狼マッスルウルフ
 大きすぎる筋肉の鎧を纏うBランククラス魔物の中でも最高硬度の魔物が、どれも綺麗にパックリと斬り刻まれている。

 頭部と胴体が真っ二つに裂かれたものもあれば、強引に引きちぎったようなものもある。
 討伐方法は様々だが、どれもこれもが有り得ない水準で徹底的に打ちのめされている。

「ひとまず周りに敵っぽい敵はいないみたい。後、これ見て」

 リリシアの指さす方には、何かが引きずられたような血の跡がある。

「行ってみる価値はありそうだね」

 レアルの言葉に、リリシアは小さく頷いた。

 リリシアが血の跡に沿って歩みを進めていく中でレアルはふと気付いた。
 ポゥッ――と。リリシアの持つ剣が微かに黄金に光っていることに。

 それに呼応するように、辺りに散らばっている宝剣の欠片も黄金に光り輝き始めていた。

「……?」

「ほら、レアルー。早く行かないと、夜になったら身動き取れなくなるわよー」

 急かすリリシアにつられるように、「い、今行くって!」と慌ててレアルも後を追う。

 ――パリンッ。

 その後方。
 砕け散った宝剣の欠片が黄金の文字列に包まれて弾け飛んだことを、レアルは知ることはなかった――。

●●●

 血痕を追っていって数十分ほど。
 森を掻き分け進むと、次なる開けた場所に出た。 
 木々が生えていない――というよりは、何者かによって斬り倒された後だった。
 物陰から身を潜めていた二人だったが、お互い頷き合って外に出向く。

「こんな崖の前に洞穴とはね。なるほど、ここが彼らの生活圏ってことか」

 レアル達の前にそびえ立つ崖に、申し訳程度に開かれた洞穴がある。
 ここからでは中の様子までは観察しづらいが間違いはないだろうと二人は確信した、その時だった。

「――……」

「レアルッ! 伏せて――ッ!!」

 それはリリシアの瞬時の判断だった。

 遙か後方から一気に詰め寄ってくる気配。音も呼吸もなく、しかしながら最速で最短に彼らに迫ってくる存在があった。

 片腕でレアルを地面に叩き落とし、リリシアは素早く剣を抜いた。
 火属性の魔法力付与エンチャントを施した剣が空を切って、ぶつかった。

 ガギィィィィンッッ……。

 リリシアの振るった剣は、何者かによって防がれている。
 金属音と金属音とがぶつかりあった音にリリシアは言う。

「腕の良い剣士ね」

 姿の見えない敵を称えれば、声は頭上から聞こえてきた。

「ケン?」

 きょとんとした様子で木の枝に捕まったその少年は、昨日二人が見た内の片割れだった。
 ぶらりと下げた右腕がシュゥゥと煙を上げていた。

「う、腕……!? 腕で私の剣を止めたって言うの!?」

 リリシアの驚きに何の答えもせぬままに少年の額にある一対の白角が光り輝き始める。

 瞳の色が黒から紅に変貌し、身体中に魔法力が高速循環されていくのはレアルでも分かった。

「カノン、マモル」

 ダンッ!!

 木の上から立ち上がった少年は右の腕を垂れ下げたまま枝を蹴って加速を付けて、リリシアへと迫っていった――。
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