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17.二人が入れる小さなお風呂

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「……ふぁ~~~……。久しぶりのお風呂だぁ……」

 再び夜がやってきた。
 王宮から追放されて身体を冷水で流すのがやっとだったここ最近の簡易シャワー状態から、ようやくお風呂が入れるほどの余裕が出来たことを心の底から安堵するレアル。

 この地に召喚し、《ガルルガ邸宅》から《レアル・リリシア邸宅》へと個体名称が更新された家に木桶の風呂があったことは僥倖だった。
 王宮の浴場ほどの広さほどではないが、ヒト二人が入るほどのスペースはある。

 木桶を小川の横に置いて、綺麗な水をリリシアが火属性魔法で程良い温度にしてくれた。

「火起こししてくれたんだから、先に入っちゃえば良かったのに」

 サァァァァッと、夜の風になびいて草の掠れる音。リンリンリンと、鈴虫の合唱がすぐ近くから聞こえてくる音が心地よかった。

「別に、今から入るから問題ないわ」

「リ、リリシア!?」

「なによ今さら。昔よく一緒に入ってたじゃない」

 簡易的にタオルで身を隠した程度のリリシアが、何の気なしに「ふわぁ~~」とレアルの後ろにやってきた。
 ちゃぷんと音を立てて水面が揺れれば、お湯の量が少しだけ多くなった気分になった。

 狭い木桶のお風呂の中に、背中合わせになった二人。
 
「昔って言っても、それはファーラさんも一緒だったじゃなかったっけ!?」

「そっか。ママもいなくて二人水入らずってのはこれが初めてね。……それとも、レアルはいや?」

「……嫌じゃ、ないけど」

 レアルは幼い頃から母親の存在をあまり知らずに育ってきた。
 その母親代わりをし続けてくれていたのがレアルの乳母でもあり、リリシアの実母でもあるファーラと言うヒトだった。

「ファーラさん、凄く優しい人だったよね」

 何気なく呟けば、リリシアも小さく頷いた。

「えぇ。自慢のママだったわ。今もきっと、見守ってくれてる。もちろんレアルのことも」

 そう言ってリリシアは夜空を見上げる。
 無数の星空が浮かぶ、今まで見た中で一番綺麗な夜空だった。

 レアルの背中には、リリシアのもちもちとした綺麗な素肌がぴっとりと吸い付いて無言の時間が続く。
 気恥ずかしさと湯の温度から既に頭がぼぉっとしかけていたレアルが、何の気なしに後ろを振り向いた。

「リリシアも、耳赤くなってる」

「熱いのよ、このお湯。ちょっと湯加減間違えたわ。あぁ、熱い。とっても熱い」

 わざとらしく顔を手で仰ぐその姿は少し新鮮だった。
 そっと緊張を解すようにしてリリシアの方へと体重を預けると、彼女の身体がピクリと跳ねる。

「……うぅ」

 呻き声のようなものが聞こえたと同時に、リリシアもレアルの方へと体重を預け始める。
 二人の肌がより密着するようになった形だ。

 ――ね、レアル。ちょっと、お願いがあるんだけど……いい?

 レアルの脳裏に、昼間のリリシアが思い浮かんだ。
 提案自体は鬼民をこちら側に引き入れることは出来ないかということだったが、リリシアには別の思いもあったことをレアルは知っている。

 ファーラは、レアルの母親の宮仕えとして働く傍らで孤児院を経営している長である裏の顔を持っていた。
 幼い頃からリリシアも、尊敬する母を手伝うこともしょっちゅうだった。

「ねぇ、リリシア。もし、もし彼らが何も困ってないって言うのなら――」

 レアルの言葉を遮るようにしてリリシアは顔を上げた。

「大丈夫よ。《キミン》の彼ら自身の生活があるってことも、分かってる。これは私の自己満足半分と、本当に彼らの助力を求めたいのが半分だもの」

 もし、あの少年と少女の二人が今まで通りこの荒野の中を何不自由なく生きているのだとすれば、何もする必要がないだろう。

「そっか。もしそうなら、ぼく達・・・のために協力してもらえるか聞いてみるだけだよ。そうじゃなければ――みんなで一緒に・・・・・・・幸せになる道を示して、探していけばいい」

 その言葉に、リリシアも小さく頷いて。
 こてりと、頭をレアルの肩に預けたのだった。

 いつもより少し涼しい風を漂わせながら、夜は更けていった――。



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HOTランキング4位、ありがとうございます。
本日は予定を変更して23時にもう一話更新します。
次回より、『鬼民、領民へ』編が開始します。よろしくお願いします!
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