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9.飲める水を手に入れます!
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「そういえば、レアル。あなたこれからどうするつもりなの? 陛下の意向に従って魔物全滅させるの?」
シルデフィル地区の始まりの森。
キュウを召喚した原生地に赴いた二人は、前を流れる小川の前に腰を下ろしていた。
「仮にぼくがこの地区の魔物を全部倒したとしても、父様は許してはくれないよ。どうせ別の死地に向かわされるか、最悪これまで以上に幽閉される。それくらいならこの地に楽園を築いてしまった方がぼくとしてはやりやすい。それにリリシアはこの土地の広さ、知ってる?」
「よく分からないわ。何せ、どの文献にも世界の最西端、人類未開の地としか記載されてないじゃない」
シルデフィル地区は、基本王族以外には詳細が伝わらないようになっている。
「シルデフィル地区。いわゆる、魔物が出現した最初の地だって言われてる。他の所と比べると魔物出現率も段違い。そんな地区がグレンカミラ王国の国家面積のおおよそ3倍を占めているんだってさ」
「ふーん。そんな大きいようには思えないものだけど。わざわざ地区とフィッツ領に互いの不可侵を護り合う魔法障壁があるくらいだから、もう少し狭いモノだと思ってた」
「昔はこの一帯にも巨大な国があったらしいよ。文明ごと全部滅びて、魔物の根城になっちゃったみたいだけど」
「それ、お伽噺のお話じゃない。確か、シャーロット・ラルルファの魔獣英雄伝説だったかしら?」
「それがお伽噺じゃなかったってことだよ。多分ね」
シャーロット・ラルルファの伝説は世界的にも有名なお伽噺だ。
一般には「お伽噺」止まりの創作物でしかなかったものの、レアルは実物に会ってしまっている。一千年も前に滅んだはずのシャーロット・ラルルファに力を与えてもらっている。
この地区にかつて文明が滅んだ大国があったというのは事実なのだろう。
「よく分からない他の所に飛ばされるくらいなら、一千年前に残された手掛かりがありそうなここで暮らしていく方がよっぽど可能性もあると思う。召喚術師が王族にいると不都合なのは分かってる。ぼくも王国の邪魔はしたくないし。それに――」
「……それに、なによ」
――シャーロット・ラルルファを助け出す手掛かりも見つかるかもしれない、と。
言いかけてレアルは、立ち上がった。
「ま、いいわ。レアルがそのつもりなら私だってついていくだけだもの。レアルがいいって言ってくれるなら――だけど」
かちゃりと剣を持ち直したリリシアは、毅然と呟いた。
「ほ、本来はぼくがそれを言わないといけないんだけどね……?」
リリシアは両手で水を掬いながら、どことなくぼぅっとした様子で小さく言う。
「何よ、今さら。しょせん騎士爵の立場だって、レアルと少しでも長くいられるようにってがむしゃらに取っただけだったもの」
「……リリシア?」
「聞こえてないならそれでもいいけど。さ、別の所行きましょ。ここの水、すっごく汚い。多分、魔素汚染されてるんだと思う。使い物にならないわ」
リリシアが耳を真っ赤にしつつも告げる「魔素」というものは、魔物から放たれる魔力が蓄積して出来上がってしまった汚れである。
それをヒトが含んでしまえば、遅かれ早かれ魔素汚染によって独特の症状が出てしまうことで知られている。
それを防ぐために、人類生活圏に魔物が現れた場合には早急に対処する騎士爵、冒険者がいるのが実情だ。
「って、何してるのよレアル。次行くわよー。日が暮れる前までに使える水見つけておかないと」
レアルは水面に手を当てていた。
そのあまりの真剣さに、リリシアも思わず気になってレアルの後ろから水面を覗き込む。
水の色は少し紫を帯びている。
触ればほんの少しだけ粘りがあり、川の中の植物は魔素によって出来た紫色の結晶によって包まれている。
「範囲を狭めて、視界におさまるくらいでいいなら、出来そうかも。――《召喚》!」
レアルが小さく呟けば、水面に円状術式が広がっていく。
小川一帯に伸びていくその術式に、リリシアは思わず目を丸くする。
「な、何これ、レアル!? 召喚術師の枠なんて、とっくに飛び越えてるじゃない――!?」
リリシアの驚きを尻目に、レアルはもっと大きな魔法力を術式に注ぎ込んだ。そして――。
「うん、多分、成功してくれたと思う」
レアルは額の汗を拭って、小川の水を掬い上げた。
粘り気も、紫色も消えている。キレイな水だ。
リリシアは小川の中もじっと見つめる。紫色の魔素汚染されていた植物も、綺麗な緑色を取り戻した綺麗な水草が広がっている。
「な、何したの、レアル……?」
「まだ綺麗だった頃のここの水を召喚したんだ。多分、数百年くらい前のだけど」
「突然何言い出したのよ、レアル。って、飲むの!?」
何のためらいもなく小川の水を取って飲み始めたレアルは、「うん、やっぱり美味しいよ」と自信を持って笑っていた。
「私を呼び寄せてきたことといい、水の召喚と言い、あきらかに召喚術師の能力超えてるじゃない……」
リリシアの驚きは、当分収まらなかったという。
シルデフィル地区の始まりの森。
キュウを召喚した原生地に赴いた二人は、前を流れる小川の前に腰を下ろしていた。
「仮にぼくがこの地区の魔物を全部倒したとしても、父様は許してはくれないよ。どうせ別の死地に向かわされるか、最悪これまで以上に幽閉される。それくらいならこの地に楽園を築いてしまった方がぼくとしてはやりやすい。それにリリシアはこの土地の広さ、知ってる?」
「よく分からないわ。何せ、どの文献にも世界の最西端、人類未開の地としか記載されてないじゃない」
シルデフィル地区は、基本王族以外には詳細が伝わらないようになっている。
「シルデフィル地区。いわゆる、魔物が出現した最初の地だって言われてる。他の所と比べると魔物出現率も段違い。そんな地区がグレンカミラ王国の国家面積のおおよそ3倍を占めているんだってさ」
「ふーん。そんな大きいようには思えないものだけど。わざわざ地区とフィッツ領に互いの不可侵を護り合う魔法障壁があるくらいだから、もう少し狭いモノだと思ってた」
「昔はこの一帯にも巨大な国があったらしいよ。文明ごと全部滅びて、魔物の根城になっちゃったみたいだけど」
「それ、お伽噺のお話じゃない。確か、シャーロット・ラルルファの魔獣英雄伝説だったかしら?」
「それがお伽噺じゃなかったってことだよ。多分ね」
シャーロット・ラルルファの伝説は世界的にも有名なお伽噺だ。
一般には「お伽噺」止まりの創作物でしかなかったものの、レアルは実物に会ってしまっている。一千年も前に滅んだはずのシャーロット・ラルルファに力を与えてもらっている。
この地区にかつて文明が滅んだ大国があったというのは事実なのだろう。
「よく分からない他の所に飛ばされるくらいなら、一千年前に残された手掛かりがありそうなここで暮らしていく方がよっぽど可能性もあると思う。召喚術師が王族にいると不都合なのは分かってる。ぼくも王国の邪魔はしたくないし。それに――」
「……それに、なによ」
――シャーロット・ラルルファを助け出す手掛かりも見つかるかもしれない、と。
言いかけてレアルは、立ち上がった。
「ま、いいわ。レアルがそのつもりなら私だってついていくだけだもの。レアルがいいって言ってくれるなら――だけど」
かちゃりと剣を持ち直したリリシアは、毅然と呟いた。
「ほ、本来はぼくがそれを言わないといけないんだけどね……?」
リリシアは両手で水を掬いながら、どことなくぼぅっとした様子で小さく言う。
「何よ、今さら。しょせん騎士爵の立場だって、レアルと少しでも長くいられるようにってがむしゃらに取っただけだったもの」
「……リリシア?」
「聞こえてないならそれでもいいけど。さ、別の所行きましょ。ここの水、すっごく汚い。多分、魔素汚染されてるんだと思う。使い物にならないわ」
リリシアが耳を真っ赤にしつつも告げる「魔素」というものは、魔物から放たれる魔力が蓄積して出来上がってしまった汚れである。
それをヒトが含んでしまえば、遅かれ早かれ魔素汚染によって独特の症状が出てしまうことで知られている。
それを防ぐために、人類生活圏に魔物が現れた場合には早急に対処する騎士爵、冒険者がいるのが実情だ。
「って、何してるのよレアル。次行くわよー。日が暮れる前までに使える水見つけておかないと」
レアルは水面に手を当てていた。
そのあまりの真剣さに、リリシアも思わず気になってレアルの後ろから水面を覗き込む。
水の色は少し紫を帯びている。
触ればほんの少しだけ粘りがあり、川の中の植物は魔素によって出来た紫色の結晶によって包まれている。
「範囲を狭めて、視界におさまるくらいでいいなら、出来そうかも。――《召喚》!」
レアルが小さく呟けば、水面に円状術式が広がっていく。
小川一帯に伸びていくその術式に、リリシアは思わず目を丸くする。
「な、何これ、レアル!? 召喚術師の枠なんて、とっくに飛び越えてるじゃない――!?」
リリシアの驚きを尻目に、レアルはもっと大きな魔法力を術式に注ぎ込んだ。そして――。
「うん、多分、成功してくれたと思う」
レアルは額の汗を拭って、小川の水を掬い上げた。
粘り気も、紫色も消えている。キレイな水だ。
リリシアは小川の中もじっと見つめる。紫色の魔素汚染されていた植物も、綺麗な緑色を取り戻した綺麗な水草が広がっている。
「な、何したの、レアル……?」
「まだ綺麗だった頃のここの水を召喚したんだ。多分、数百年くらい前のだけど」
「突然何言い出したのよ、レアル。って、飲むの!?」
何のためらいもなく小川の水を取って飲み始めたレアルは、「うん、やっぱり美味しいよ」と自信を持って笑っていた。
「私を呼び寄せてきたことといい、水の召喚と言い、あきらかに召喚術師の能力超えてるじゃない……」
リリシアの驚きは、当分収まらなかったという。
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