7 / 21
7.召喚術の始まりへ
しおりを挟む
「召喚術師はハズレ職などではありません」
シャーロットは、手をレアルに向けた。
「無限の可能性を秘めた、大いなる技術です」
シャーロットの手の平に、召喚術式が現れる。
「私はもう、存在が消えかけているので不可能ですが、あなたに託すことならできます」
幾重にも折り重なり、どこまでも伸びていく円状術式の意図を、レアルは半信半疑ながらも受け取った。
「召喚術師の、本当の力……これが……!」
「この世の全てを召喚出来る、万物召喚の力。魔力が多ければ多いほど、召喚能力は比例的に上がっていきます」
白い空間に浮かび上がっていた文字列が、次々とシャーロットの発現させた円状術式の中に入り込む。
全てが入り込み、ついぞ真っ白の空間になってしまったその世界で。
「あなたのご活躍、ここからしっかり見届けさせていただきますね」
プラチナブロンドの髪の毛をふわりとたなびかせながらシャーロットは手を振った。
「召喚能力には限りがありませんが、あなたの元に召喚されたがっているものが最優先となります」
「ぼくに、召喚されたがっているもの?」
「えぇ。まずは、イメージしてあげてください。自ずと、召喚術式からそれは出てきてくれると思いますよ」
「……っ! ありがとうございます! ぼくがもし、本当に万物召喚の力を手に入れたのなら――!」
白い世界から消えかける寸前、レアルはシャーロットに向かって宣言した。
「あなたを必ずここから出しに来ます! ぼくに道を示してくれたあなたを、必――!」
シュンッと。
音を立てて、白い世界からレアルは消え去った。
今まで溜め続けていた文字列すらもなくなった世界で、シャーロットはぽつりと呟いた。
「言い忘れていましたが、無から有を作れないように、存在していないモノは召喚することが出来ません。それはすなわち、神をも超える力ですから。」
シャーロットは、振り切れたかのように「ん~」と伸びをした。
「私は、もう存在が消えかかっています。あなたに託した今、それ以上を望むつもりもありません」
寂しそうな声だが、いっそ清々しいような気分もあった。
「神託は、神からもたらされた福音。神が自分自身を超える存在を生み出すことはありませんからね」
何もない世界を歩き始めた、その時。
「きゅぅ♪」
シャーロットの足下で一匹のスライムが鳴き声を上げた。
「あら……? あなた、表の世界に戻らなかったんですか……?」
「きゅぅ!」
「そうですか、私と一緒にいてくれるんですか。ふふふ」
シャーロットの目に、涙が浮かんだ。
「最後の最後で、退屈しなくてすみそうですね」
●●●
「お、おぉ……? も、戻ってきた、ってことだよね?」
ふと辺りを見回せば、先ほどと変わらない絶望的な状況。
というか、ゴブリンが仲間を呼んだせいでレアルの周りには10体ほどに増えてまでいた。
「グォ……? オォォ……!? オォォォォォォ!」
『グァォォォォォォォォォォッッツ!!』
姿を見失ったレアルを再発見したことで、一体を先頭としてゴブリン達が次々と襲いかかってきた。
――召喚能力には限りがありませんが、あなたの元に召喚されたがっているものが最優先となります。
ふと、シャーロットの言葉が脳裏を過ぎった。
「ぼくに召喚されたがっている……? そんなもの、なんだか分からないけどっ!」
レアルは手の平をゴブリン達の前に宛がった。
「――《召喚》!」
短く唱えれば、先ほどまでとは段違いに濃密な術式が一瞬で形成された。
灰色と、緑色と、赤色が少し多めの粒子が辺りに飛び散って、それは人の形を成していく。
「何これ、夢……? 目の前に、レアルがいる……?」
紅のポニーテールがふわりと揺れて、腰に携えた一本の直剣がギラリと輝く。
「よく分からないけれども、レアルがピンチ。それだけで、私が動く理由は充分なのよ――ッ!」
騎士爵、リリシア・マリーゴールド。
召喚術式から突如飛び出たレアルの幼馴染みは、目の前のゴブリンに向かって勢いよく刃を突き立てにいったのだった。
シャーロットは、手をレアルに向けた。
「無限の可能性を秘めた、大いなる技術です」
シャーロットの手の平に、召喚術式が現れる。
「私はもう、存在が消えかけているので不可能ですが、あなたに託すことならできます」
幾重にも折り重なり、どこまでも伸びていく円状術式の意図を、レアルは半信半疑ながらも受け取った。
「召喚術師の、本当の力……これが……!」
「この世の全てを召喚出来る、万物召喚の力。魔力が多ければ多いほど、召喚能力は比例的に上がっていきます」
白い空間に浮かび上がっていた文字列が、次々とシャーロットの発現させた円状術式の中に入り込む。
全てが入り込み、ついぞ真っ白の空間になってしまったその世界で。
「あなたのご活躍、ここからしっかり見届けさせていただきますね」
プラチナブロンドの髪の毛をふわりとたなびかせながらシャーロットは手を振った。
「召喚能力には限りがありませんが、あなたの元に召喚されたがっているものが最優先となります」
「ぼくに、召喚されたがっているもの?」
「えぇ。まずは、イメージしてあげてください。自ずと、召喚術式からそれは出てきてくれると思いますよ」
「……っ! ありがとうございます! ぼくがもし、本当に万物召喚の力を手に入れたのなら――!」
白い世界から消えかける寸前、レアルはシャーロットに向かって宣言した。
「あなたを必ずここから出しに来ます! ぼくに道を示してくれたあなたを、必――!」
シュンッと。
音を立てて、白い世界からレアルは消え去った。
今まで溜め続けていた文字列すらもなくなった世界で、シャーロットはぽつりと呟いた。
「言い忘れていましたが、無から有を作れないように、存在していないモノは召喚することが出来ません。それはすなわち、神をも超える力ですから。」
シャーロットは、振り切れたかのように「ん~」と伸びをした。
「私は、もう存在が消えかかっています。あなたに託した今、それ以上を望むつもりもありません」
寂しそうな声だが、いっそ清々しいような気分もあった。
「神託は、神からもたらされた福音。神が自分自身を超える存在を生み出すことはありませんからね」
何もない世界を歩き始めた、その時。
「きゅぅ♪」
シャーロットの足下で一匹のスライムが鳴き声を上げた。
「あら……? あなた、表の世界に戻らなかったんですか……?」
「きゅぅ!」
「そうですか、私と一緒にいてくれるんですか。ふふふ」
シャーロットの目に、涙が浮かんだ。
「最後の最後で、退屈しなくてすみそうですね」
●●●
「お、おぉ……? も、戻ってきた、ってことだよね?」
ふと辺りを見回せば、先ほどと変わらない絶望的な状況。
というか、ゴブリンが仲間を呼んだせいでレアルの周りには10体ほどに増えてまでいた。
「グォ……? オォォ……!? オォォォォォォ!」
『グァォォォォォォォォォォッッツ!!』
姿を見失ったレアルを再発見したことで、一体を先頭としてゴブリン達が次々と襲いかかってきた。
――召喚能力には限りがありませんが、あなたの元に召喚されたがっているものが最優先となります。
ふと、シャーロットの言葉が脳裏を過ぎった。
「ぼくに召喚されたがっている……? そんなもの、なんだか分からないけどっ!」
レアルは手の平をゴブリン達の前に宛がった。
「――《召喚》!」
短く唱えれば、先ほどまでとは段違いに濃密な術式が一瞬で形成された。
灰色と、緑色と、赤色が少し多めの粒子が辺りに飛び散って、それは人の形を成していく。
「何これ、夢……? 目の前に、レアルがいる……?」
紅のポニーテールがふわりと揺れて、腰に携えた一本の直剣がギラリと輝く。
「よく分からないけれども、レアルがピンチ。それだけで、私が動く理由は充分なのよ――ッ!」
騎士爵、リリシア・マリーゴールド。
召喚術式から突如飛び出たレアルの幼馴染みは、目の前のゴブリンに向かって勢いよく刃を突き立てにいったのだった。
1
お気に入りに追加
2,243
あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
26番目の王子に転生しました。今生こそは健康に大地を駆け回れる身体に成りたいです。
克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー。男はずっと我慢の人生を歩んできた。先天的なファロー四徴症という心疾患によって、物心つく前に大手術をしなければいけなかった。手術は成功したものの、術後の遺残症や続発症により厳しい運動制限や生活習慣制限を課せられる人生だった。激しい運動どころか、体育の授業すら見学するしかなかった。大好きな犬や猫を飼いたくても、「人獣共通感染症」や怪我が怖くてペットが飼えなかった。その分勉強に打ち込み、色々な資格を散り、知識も蓄えることはできた。それでも、自分が本当に欲しいものは全て諦めなければいいけない人生だった。だが、気が付けば異世界に転生していた。代償のような異世界の人生を思いっきり楽しもうと考えながら7年の月日が過ぎて……

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる